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第2話 第4節 覚醒 戦乙女

「深雪、ノームとそこの影に隠れていろ。ヤツの狙いはヒルデだけだ」

 考えが甘かった。ウルドだけならどうにか逃げ切れたと思う。だがウルドだけが動いているわけでなく、ノルンシリーズというだけあってチームで動いていた。

 彼女らの巧みな誘導によって、俺たちは人気のない倉庫街に追い込まれた。

 深雪が並べられた貨物の影に隠れるのを見届けると、ヒルデを背にかばい振り返る。そこには3人の美女が立っている。

 1人は、ウルドと名乗ったショートカットの赤毛の少女。彼女はガルド大阪支社の軍事用次世代型dollノルンシリーズだと言った。名称はノルン3姉妹から来ている。残りの2人は、ヴェルダンディとスクルドで間違いは無いだろう。

「近接格闘戦に特化したウルドから、逃げ回れるとはたいしたものだ。でも、ここまで、ブリュンヒルデを渡してもらいましょうか」

 長身で栗毛の髪の毛が腰まであるdollが、静かに口を開く。その顔には表情というものが無い。豊かな表情を示したウルドとは対照的だ。

「ヴェルダンディかまわないから、力ずくでやろう」

 長い黒髪を結っているdollが、手にしたサブマシンガンを武人に向ける。

「スクルド、待ちなさい。深水武人君、これが最後通告よ。ブリュンヒルデを渡しなさい」

「断わる!」

 拒絶の言葉と同時に、スクルドの持つサブマシンガンの銃口が再度武人の方を向く、武人は反射的にヒルデを庇うように、スクルドから見てヒルデが自分の身体に隠れるようにして立つ。

 頭ではわかっている。銃器を前に自分肉体が無力だということ、たとえ被弾してもヒルデならば修理も効くし、人間の肉体よりはるかに対弾性もあることも。

 自分は器用な方だと思っていたが、今までは運が良かっただけらしい。

 じいさん、すまない。

 心の中で呟く。どうやらじいさんの期待には添えられそうに無い。

「武人!」

 深雪が名前を呼ぶのが聞こえた。ばかやろう、隠れていろと言ったのに……

 タンタタン! 思ったより軽い音が響き思わず目を閉じる。だが、どこも痛くない…… ゆっくりと目をあけると、目の前に弾丸が浮いていた。その一面に何かがあるように同じ面で止まっている。そして、運動エネルギーを失った弾丸が地面に落ちる。

「行動規定3条に基づき、人命の安全を最優先。イージス発動」

 無機質な女性の声が真後ろから聞こえた。振り返ると瞳を閉じたヒルデが左手を前方に突き出して立っている。

「プロテクト、NO.1からNO.3まで解除。マスター登録、深水武人、承認。プロテクトNO.4からNO.5まで解除。D−V−09 ブリュンヒルデ戦闘モード起動完了」

「バカな。イージスだと。ヴェルダンディ、聞いてないぞ?」

 スクルドが、手にしたサブマシンガンを乱射するが、武人の50センチほど前の空間で弾丸がすべて止まる。

「私も聞いてないわよ。私達ノルンシリーズとヴァルキューレシリーズの武装はすべてオプションパーツのはず。内蔵できるほど小型化に成功したなんて情報は聞いたこと無い……」

「ヒルデ?」

 武人の言葉にヒルデが瞳を開く。黒だった右目が深紅に輝いている。

「マスター、許可を下さい。マスターの許可が無ければ戦えません」

 銃火器が効果がないと判断したウルドが地を蹴る。その両手には対人用の大型ナイフが握られていた。

「火器が効かないのなら、格闘戦で!」

 ヒルデが武人より前に出て、ウルドの突き出した左腕をガシッと捕まえる。

「マスター、許可を!」

 再度、許可を求めるヒルデの声に、急展開に混乱していた武人が我に返った。

「ヒルデ、お前が最善と判断した行動を取れ」

Yesイエス myマイ masterマスター. 戦闘許可承認。固定武装『グングニル』安全装置解除。機体リミッター解除。目標、大阪支社dollノルンシリーズ3体の撃退。保護対象、人間 2、doll 1」

 ヒルデの声が途切れ、右手が青く輝いた瞬間、掴んでいたウルドの左腕が原形を残さず吹き飛ぶ。そのまま青い光が、ウルドの後ろでサブマシンガンを向けているスクルドへも伸び、構えているマシンガンを右腕ごと吹き飛ばす。

「一撃でスクルドまで無力化するなんて」

 ベルダンディが呻く。

「スクルド、ウルド引きます。今の武装で勝算はありません」

 悔しそうに顔を歪めてスクルドは頷く、しかし、ウルドは……

「嫌だ!」

 ヒルデに向かい跳躍したかと思うと、右手で大型ナイフをヒルデに対して振るう。対人ナイフでもあのスピードがあれば、dollの腕ぐらいは切り飛ばす事ができるだろう。だが、ヒルデの方が早い。青い閃光とともに、くるくると回りながら落下した大型ナイフが地面に刺さる。いまだナイフを握っているウルドの右手の断面は溶解している。高熱量によるものだろう。

「下がりなさい。ウルド」

 ヴェルダンディに答えず、ヒルデに回し蹴りを叩き込もうとするウルド、ヒルデは半歩後ろに引いて蹴りを避け、がら空きになったウルドの背中に蹴りを叩き込む。無防備な状態でヒルデの蹴りをらったウルドは、スクルドの足元まで吹き飛ばされ動かなくなる。

 おそらく、保護装置が働いて機能を一時的に停止させたのだろう。

「深水 武人君、ここは引かせてもらうわよ。でも忘れないでね。この次はブリュンヒルデを渡してもらう」

「こちらは争いなど望んでいないですよ。ヴェルダンディさん」

「ならば、ブリュンヒルデを手放さす事ね」

「う〜ん、それもできない相談だね。じいさんの考えはわからないが、ヒルデを俺に託したのは事実で、ヒルデもガルドに戻る事を拒否している。渡せと言われて渡すほど人間できていないですよ」

 ヴェルダンディは、止めてあった乗用車にウルドとスクルドを乗せると、それ以上何も言わずに去っていった。

「ヒルデでいいんだよな」

 武人は隣にたたずむヒルデに問う。

「はい、私はD−V−09ブリュンヒルデです。そして、先ほどまでの人格も間違いなくブリュンヒルデなのです」

「じいさんがブリュンヒルデに聞けと言っていたが、君に聞けばいいのかな?」

 ヒルデは頷いて答える。

「はい。しかし、ちょっとややこしいですね。私のことはブリュンヒルデと、あの娘のことはヒルデとお呼びください」

「わかった。話を聞くにもここじゃ何だから、家に帰るか。深雪、ノーム来るだろ?」

「え、ええ、もちろん行くわよ」

「行くでござる」

「そうか、ブリュンヒルデ行くぞ」

 ブリュンヒルデからの返事は無かった。ブリュンヒルデの顔を覗き込むと、両目が黒い。そして、表情がほとんど動かなかったブリュンヒルデと違い、眠そうな表情を浮かべている。ヒルデか?

「ヒルデ? もしかして、バッテリー切れか?」

「マスター、眠い……」

 間違いない、ヒルデだ。声の調子がわずかに違う。

 そして、コテンと武人の胸にヒルデが倒れ込んだ。

「深雪…… 荷物、持ってくれ」

「武人殿、マスター、拙者が持つでござる。持つでござる」

 武人はため息をつくと、ヒルデをおぶった。


ブリュンヒルデ覚醒です。

人間でいえば二重人格です。

天真爛漫てんしんらんまんなヒルデと、冷静クールなブリュンヒルデ。2人で1人です。これからもよろしくお願いします。


基本的に北欧神話から名称などを引っ張ってきているのですが、今回出た『イージス』は、ギリシャ神話のアテナの持つ盾です。

私の知る限り、北欧神話に名前のある盾がなかってたので、やむなくギリシャ神話から引っ張りました。


ノルンについては『戦乙女の補習授業』をお待ちください。


では次回『闇 うごめくもの達』でお会いしましょう。更新は多分水曜になるかと思います。

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