第2話 第2節 ショッピング
深雪とヒルデ、おまけのノームが売り場に消えて20分ほどが経った。武人は婦人服売り場の一画に設置されたベンチに腰掛けて、目の前で服を選んでいるカップルを眺めていた。カップルとはいっても、女性のほうが外部接続ヘッドセットをつけたdollだ。特に珍しい組み合わせではない。
「これなんか似合うと思うのだけど、どうかなぁ?」
「こちらの素材は、ポリエステル75%、綿25%の割合でウォッシャブル加工がされており洗濯機での丸洗いが可能です」
「いやね、そういう事じゃなくてね」
そんな様子に武人は微笑んだ。ちょっとにやけた顔の彼と、ある人気アイドルをモデルにした先日発売されたばかりのNED製doll『彩モデル』の間では堂々巡りが続いている。
基本的にdollに好みというものがないから、その服がdollの外見に似合うかどうか、服のデザインが可愛いという基準では選ばない、材質、強度、値段、行動の邪魔にならないかが判断基準になるし、マスターの選んだものを拒否する事もない。
経験を積んだdollなら、蓄えられたデータからマスターの好みに合わせた服を選ぶ事もあるのだが、発売されて日の浅いdollにそれを求めるのは酷というものだろう。
ちなみにハイエンドモデルの一部やハンドメイドdollのなかには、あらかじめ好みをプログラミングされた機種もある。
「おまたせ、武人」
目の前に深雪と服を抱えたヒルデが立っていた。
「なんか、多くないか?」
「多くはないわよ。人に渡すわけじゃなくて、一緒に暮らすのでしょ?それじゃレジに行ってくる」
確かに人間のように垢や汗で内側から汚れるということはないだろうが、空気中の埃などで汚れてしまうからローテーションで何着かあったほうがいいだろう。
「お前は買わないのか?」
深雪にはdollの服を買うのを付き合ってもらう度に、服をプレゼントさせてもらっている。
「今回は、遠慮しておく。武人のおかげでクローゼットから服が溢れているから」
「2、3ヶ月に1着くらいだろ。そう多くないと思うが」
「1着と言っても上下一そろいが多いし、もう20着近くあるしね」
深雪は、指をおって数える。
「ちょっと待て、中学の時のからのも全部置いてあるのか?」
「武人が買ってくれたものだしね」
「バカか、お前は。中学の時のものなんてサイズ合わないだろ。処分してしまえよ」
「武人殿!マスターをいじめては駄目でござる」
足元でノームが俺の足にしがみ付いている。
「ノーム? どこがいじめているんだ?」
「武人殿の言い方は、ひどいでござるよ。マスターは」
「ノーム、ストップ!それ以上は駄目!」
深雪の制止にノームがぴたっと口をつぐむ。武人は深雪とノームを交互に見てからノームを捕まえて肩に乗せる。
「すまなかった。これからは気を付ける」
とだけ言った。
「ほら、レジ行くぞ。ヒルデもちゃんとついてこい」
武人は深雪とヒルデを振り返らずに、レジを目指した。
軽食を取ろうとパーラーがある屋上にやってきたのだが、ヒルデが小さい子供が遊ぶ遊具に興味を示したようで、乗りたいと言い出した。
dollが遊具に興味を持つというのも変な話だが、ヒルデの反応も見てみたかったのでお金を渡すと、ノームを抱えてトテトテと行ってしまった。
「ちょっと、信じられないよね」
2人分のサンドイッチとコーラを持った深雪が言った。
「なにが?」
武人は深雪からサンドイッチとコーラを受け取る。
「こうしてみると、本当に人間みたい。外見より幼い感じはするけど」
「外見より行動が幼いのは経験不足なのだろう。俺は、遊具に興味を持ってそれに乗りたいと意思を示したのに驚いたよ」
こういう細かい所にヒルデの特別なところが見え隠れする。じいさんは、人間を作りたかったのだろうか?
おかげさまで、アクセス数は結構多くてSF部門で13日現在4位にはいっています。
「平和ですねぇ〜」
まあ、物語の中盤以降になると、こんなシーンも書けなくなります。
次回は事件が起きますよ。
では、『第2話 第3節 登場ノルンの乙女』でお会いしましょう。