グラース、入学を目指す〈5歳編〉
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加山友美改め、グラース・アルファ五歳になりました。
えっ、オリュザ様はどうなったかって?
つつがなく、日を改めて里の皆さんにも紹介されてご結婚されましたよ。
里の長夫人の座を狙ってた里の女性達は歯噛みしてましたけど。
今は第一子を妊娠中です。
父さんが今から、孫バカになっちゃってようやく私から孫へ注目する目がシフトチェンジしてくれてます。
…で、私はただいま念願の!魔法の練習中です!
いやあ、本当は動けるようになってすぐ魔法の練習をしたかったんだけど父さんのあまりの心配性のせいで教えてもらえず。
「グラース?聞いているか?」
ああっといけない、せっかく教師役を名乗りでてくれたラジアータ兄さんに怒られちゃう。
「はい!兄様!魔法に大事なことは集中して、イメージを具現化させることです」
よし!学園に入学するまでになるべくたくさん魔法を使えるようになるぞ!
「そうだ。まず、好きな方の手を出してファイヤーボールと唱えるんだ。あの的をめがけて打ち出してごらん」
ラジアータ兄さんの見守る中、私は手を突き出して。
「ファイヤーボール!」
唱えた瞬間、手のひらから火の固まりがボン!と飛び出て的に当たった。
「すごいじゃないか!一回で成功させるなんて。よし、その調子で打ってみようか」
そのあと、きっちり二時間。
初級の魔法である、ファイヤーボール・ウォータボール・ウィンドーカッター・サンダーボールを練習した。
「兄様、ありがとうございます!楽しかったです」
いやぁ魔法楽しい!
これからは、毎日教えてもらえると思うとうっきうきするなあ。
「しかし、これほど使えるなら…」
ラジアータ兄さんは、何かを考えているようだった。
「なに?グラースを王都に?」
その日の夕食の席で、ラジアータ兄様は突然父様に提案した。
「ええ。彼女は、普通学園生が一年か二年かけて学ぶ魔法をたった二時間で使えるようになったんです。才能はなるべく早めに育ててあげたほうがいい」
ほへ⁉︎
兄さん…!ありがとう!
私が内心、小躍りしていたのに父様はポカンとしている。
「おいおい、グラースは女の子だぞ?そんなもの、王都になんかやるわけないだろう!何かあったらどうするんだ」
父様、頭固いな。
確かに里にいる、龍人の女性は狩り以外でほとんど外に出ることはない。
村の役職についているのも全員男性がしめている。
「父さん、グラースが女の子だからって学ぶ機会を奪っちゃ駄目だよ。僕も学園を経て、オリュザと出会い里の運営にも生かせている。彼女も学園へやるべきだ」
最近は少しづつ、里の運営もやるようになってきたもんねラジアータ兄さん。
「父様。私はてっきり、自分も入学出来るのだと思ってました。能力が足らないならともかく、女の子だからという理由で留学させてもらえないなんて納得できません」
バカで試験が受かりませんでしたとか、そういう理由もなしに納得するわけないじゃん。
父様は、私の口答えに驚いでいるようだ。
「ーーー女の子は、嫁に行ける歳になるまでうちで家事を手伝いながら生活するものだ」
父様は、自分がいつまでも手元にいるものだと疑ったことがないらしい。
「オリュザ姉様はどうなるんですか?姉様だって、女性でも学園に通えていたじゃありませんか」
「ーーー二人とも、とにかく食事の席で言い争いはやめなさい」
なおも、私が父様に口答えしようとしたとき。
母様が私と父様を止めに入った。
「…私の龍生は、私自身のものです。なりたいものは自分で決めるし、将来結婚相手を探すような歳になったときには自分自身の目で見て決めます」
これは譲れない。
これを一瞬でも譲ってしまったせいで、前世の私はとてもむなしい思いをした。
私は悲しくなって、食事の最中席を立った。
まだ私は表面上、五歳だ。
一人じゃ生きて行ける訳がない。
まあ、大人になったって完全に一人じゃ生きてはいけないけど。
「ここにいたのか」
声がして振り向くと、ラジアータ兄さんが私を心配そうに見つめていた。
「兄さん!ごめんなさい、まだ食べてたでしょ?」
責任を感じて、飛び出した私を追いかけてきてくれたみたい。
「…いいんだ。僕もグラースと同じ意見だから」
そう言って、行儀悪くベランダに座り込んでいた私の横に腰を下ろす。
「…グラース、あと二年待つんだ。入学出来る最低年齢が七歳。それまでに、試験に合格するための勉強をしよう。出来るな?」
私は頷き、ラジアータ兄さんを見た。
今度こそ失敗しない。絶対に。