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ルジアーダ兄さんの帰郷〈1歳編〉③

5


里長の家といえど、それほど広い家じゃないから音を立てながら使者達はやってきた。

「ここにおられたのですね!まったく、どれほど私達が心配したと…!もう十分でしょう、帰りますよ。さあ」

水色の髪をなびかせて、男性がこちらに手を引こうとする。

人数は意外に少なく、水色の髪の男性と金髪の男性。

多分、顔立ちがよく似てるから金髪の男性はオリュザ様と血がつながってるだろう。

「…いやよ、チャナ。私は、ラジアータと一緒になる。城へは帰らないわ」

あの水髪の兄ちゃん、チャナって言うんだな。

よしよし、その調子で言い返しちゃえオリュザ様。

私は応援の意味も込めて、オリュザ様の膝をギュッとする。


「チャナ、落ち着け。そこに座ったらどうだ」

金髪の兄ちゃんは、どっかりと腰を下ろしてオリュザ様を見つめている。

「ーーーオリュザ、自分のしていることがどういうことか分かっているね?」

見つめられて、オリュザ様の膝が少し震えているのが分かる。

…ところで、ラジアータ兄さんはまだこないの⁉︎恋人のピンチじゃんか!

「…分かっておりますわ。オクトス兄様だけでなく、ヴィノール家にも泥を塗る行為だと」

しゃんと顔を上げたさまは、さすが王家の血を受け継ぐ人だと見惚れてしまう。


バァーン!と、応接間の扉が開け放たれてラジアータ兄さんがやってきた。

「ラジアータにいさん!」

私の言葉に、ラジアータ兄さんが笑顔を見せてくれる。

「…大丈夫だよ。…チャナ殿、オクトス、僕は本気だ。彼女を連れて行くなら、僕を殺してから行け」

手にはいつの間にか剣を持っていて、少なくともラジアータ兄さんの言葉に嘘はないように思えた。

「…とにかく、ラジアータも座れ。話が進まないだろう」


オクトス様の動向を、私とオリュザ様、それにチャナとラジアータ兄さんが見守る。

「ーーー王家の総意を伝える。オリュザ、それにラジアータ。二人の結婚を公式に認めることは出来ない」

「……」

がっくりと肩を落とし、目に涙を貯めるオリュザ様。

分かっていても、落ち込んじゃうことあるもんね…。

「オリュザ、今日から君に王家の名を語る事を禁ずる。どういうことか分かるね?お前は自由の身だ。良かったな」

おおー!

公式には認められないけど、王籍を剥奪する代わりに結婚を許したのか。

今度はチャナががっくりと肩を落とした。


「よかったね!オリュザさま!」

嬉しくなった私は、ソファーの上に上がってギュッと抱きしめた。

そんな私とオリュザ様を、ラジアータ兄さんは信じられないように見つめている。

「まったく、骨が折れたよ。向こうはカンカンだし、父上は連れ戻せの一辺倒だし…。こうする他に、お前達の結婚を許す方法がなかったんだよ。許せ、オリュザ」

妥協案を出したのは、オクトス様だったんだね。

結構柔軟じゃん、やるね。


「いいえ、元々ワガママを言って困らせたのは私です。…ありがとうございます」

今度こそ、オリュザ様はポロポロと涙を流すのをやめなかった。

ラジアータ兄さんと寄り添い、抱きしめあった。

「さて、チャナ。お前は先に帰って、父上にご報告を」

オクトスはチャナを促すと、とぼとぼ部屋の外に消える。

私は、オクトスのそばに寄ってみた。

目鼻立ちははっきりしていて、オリュザ様をそのまま男にしたような意思の強い顔立ち。

近寄る私を不思議そうに見つめている。


「はじめまして。グラースといいます!ラジアータにいさんのために、いろいろしてくれてありがとうござます」

ううっ、舌足らずで上手く話せないや…。

でもやっぱり、今は父さんも母さんもいないし身内の私がしっかり挨拶しないとね。

「君、ラジアータから聞いてたけどまだ一歳だろう?それだけ喋れる子を見たことないよ…すごいね」

やった、ほめられた。

まあ人間の一歳児はこんなに喋らないのが普通だからびっくりするよね…。

ニコニコしていると、急にオクトス様が私を抱き上げた。


「うやっ⁉︎おもいよー?」

びっくりしたけど、離す様子のないオクトス様。

困ってラジアータ兄さんを見るとものすごい笑顔。

「ーーーかわいい子だな、言葉もしっかりしているし何より兄思いで。…そうだ、せっかくだし散歩しようか」

えっ、このまま?

私を抱き上げたまま、立ち上がって部屋の外に出る。

ゆれるから、しっかり捕まらないと落ちちゃうな。


「…娘とどこに?」

部屋を出てすぐに、父さんがこちらに向かってきた。

私が抱っこされてて、しかも大人しく捕まっているもんだから父さんはオクトス様を若干にらんでいる。

「せっかく、龍人の里に入れたのですしラジアータとこの娘さんと一緒に散歩でもと思いまして。そうだろ?」

ラジアータ兄さんは、クスクス笑いながら後に続いている。

「…父さん。いいじゃないか、散歩くらい。本人も嫌がってないし」

王子はあったかいし、力加減もおかしくないし、何よりイケメンだもんね!


そうして、私は王子に抱かれたまま家の外に出て普段見られないという里の中を案内することになった。


次回はもっと成長します…。

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