ルジアーダ兄さんの帰郷〈1歳編〉②
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ルジアーダ兄さんは、私達が準備を教える前に帰ってきた。
ーーーそれも若い人間の女性を連れて。
「ルジアーダ、そちらの女性は?」
同い年らしい人間の女性は、ルジアーダ兄さんの彼女だろうなあ。
癖のない金髪を伸ばし、青い目をした美人さんだ。
恐らく、そこそこ高位のおうちの人じゃないかな。
付けてる装飾品が、皆金とかプラチナっぽいしいかにもお嬢様みたいな雰囲気だし。
「ーーー父さん、母さん。僕はこの人と結婚したいんだ。次期里長として許されないかもしれないけど…」
あ、やっぱり。
私としては、結婚は好きな人とするのが一番だから応援するけど父さん達はどうなんだろう。
母さんはルジアーダ兄さんの顔と、女性の顔を見比べる。
「あ、あのっ!私の名前は、オリュザ・レプティリアと申します。突然の訪問をお許しください。ですが、私もルジアーダと結婚したいという気持ちは同じです。どうか…」
おおっ…。
高位のお嬢様だと思ったら、王族かあ。
あれっ?
それにしては、お付きの人が一人もいないし護衛の人もいないじゃんか。
「…とりあえず、奥の応接間へ行きましょうか。詳しい話はここだと目立つしね」
玄関だし、歓迎会で出入りも激しいしね…。
ということで、一旦はお開きになって改めて応接間に移動した。
「ーーー結論から言うとね、私もスリョプも結婚は賛成よ?問題はレプティリア王家の方々が、我々龍人の元へ嫁ぐことをお許しになるかでしょう」
両親は、開かれた龍人の里にするため留学を許したからにはこういうことも想定していたらしい。
まさか、王家の女性を連れてくるとは思ってなかったって笑ってるけど。
「お付きの人間も連れていない、護衛もいない…。そんな状態で彼女を連れてきたら誘拐したと思われても仕方ないのよ?分かってるの?」
そうだよねえ。
無断だろうし、どうするのかな。
そう思っていると、母さんは立ち上がった。
「とにかく、あなたがここにいることを王宮に連絡させてもらいます。その上で、使者を寄越してもらいましょう。…いいわね?」
二人は神妙に頷き、オリュザ様は応接間に残った。
私は母さんに連れられて自分の部屋へ。
「おかあさん、オリュザさまどうなっちゃうの〜?けっこんできゆ?」
やっぱり、妹としてはルジアーダ兄さんとオリュザ様が結婚してくれた方が将来の選択肢も広がるだろうし二重に嬉しいんだけどなあ。
私の言葉は、母さんにはロマンスにあこがれる娘っぽく聞こえたみたい。
微笑んで私の頭を撫でてくれる。
「そうねぇ。あなたはどっちがいい?」
私は「けっこんすりゅほう」と即答すると、少し考え込んだ。
「だって、しゅきなひととけっこんしたほうがしあわせよ〜?」
ルジアーダ兄さんだって、龍人の里に人間であるオリュザ様を連れてくるのは一種の賭けだったろう。
婚約者が用意されてて、その場で発表!とかそもそも龍人と人間の結婚なんて反対!とか言われたらどうしようもない。
その辺、日本よりは家の影響力が強いし。
そこを押してでも、この人と結婚したいって思える人ができるって兄さんの立場なら結構貴重だと思うんだ。
「…そうね。グラース、あなたの言う通りよ。だからあなたも応援してちょうだい」
もちろんですとも!
せっかく種族を超えた、愛しあえる相手が出来るなんてうらやましいし。
そのあと、私は母さんの許しをもらってもう一度オリュザ様に会いに行くことに。
「…あら?あなたは、確か…ルジアーダの」
応接間には、オリュザ様一人きり。
長の家に浸入するやつなんかいないだろうけど、ちょっと不用心だ。
「あい。グラースといいます。オリュザさまとおはなししたかったの。はじめてニンゲンとあったから」
実際、里にはほとんど外国出身の人はいない。
里の周りには、種族の特徴である高い魔力をふんだんに使って作った障壁があって龍人と一緒じゃないと入れない。その結界は他の種族にも定評があるんだって。
「…おねえちゃん。ここはおひめさまのあちゅかいはされないよ?それでもいいの?」
里長の妻である母さんだって、今は私がいるからしてないみたいだけど以前は狩りをしてたし。
蝶よ花よと育てられた、生粋のオリュザ様にはかなりキツイ環境だと思う。
「…ええ。最初、ラジアータにも言われたわ。生粋の姫である私が耐えられるわけないって」
マジかよ…。
オリュザ様の方から行ったのか。すげえな。
「私も、ラジアータと出会うまでは三女として婚約者の元へ嫁ぐのだと疑ってはいなかった。けれど、学園であの人と話をするうちに抑えられなくなって…」
おおー、燃え上がったわけだね。
だけど婚約者さんのおうちはたまったもんじゃないよね。
ルジアーダ兄さんに、横からかっさらっていかれたわけでしょ?
「オリュザさま、わたしはおうえんすりゅよ。だから、おしろからししゃのひとがきてもそのままいてね」
そう言って、私はオリュザ様を抱きしめた。
気分だけね。
実際は足にしがみつくくらいだけど。
私がオリュザ様と一緒にいると、玄関の方がざわめいた。
さてどうなるか。
長くなったので一旦切ります。




