呪いの終わる時
23
少しずつ、培養液に浸された私の指だったモノが成長して龍人の姿になっていく。
細胞も何もかも、自分のモノなのに自分じゃない不思議な気分。
「…随分成長してきましたね」
今の時点で、もう成人女性ほどの大きさがある。
成長した自分の姿を、自分がわきから俯瞰で眺める事ができて嬉しい。
「ああ、もう少しだね。今日一日、身体のチェックをして異常がないか検査したら徐々に培養液を抜いていく」
最終段階に入って、少しの魔力も無駄にできないとミメット達は遂にほぼすべての魔力装置への供給を断った。
おかげで、空調も切れているから室内なのに全員寒さで息が白い。
「…寒くはないかい?」
龍人って寒さに弱いと思われているのかな。
明らかに自分より薄着の、研究員達がさっきからあったかいお茶や毛布を差し入れてくれる。
「大丈夫!確かに寒いけど、皆さんの方がどう考えたって薄着でしょう」
大丈夫って言わないと、永久にお茶や毛布が差し入れられるからあっつくて…。
むしろ室内だしちょっと涼しくていいくらいだもん。
「そうかい?まあ彼らは動いているからね」
まあ気にしたら負けだ。うん。
最終チェックが済んだのは、明け方近くになってからだった。
私はうつらうつらしていて起きると、もう魔女に体を渡すすべての準備が整い出発するだけ。
「起こしてくださったら良かったのに…!」
一人だけ寝ていて、ちょっと恥ずかしいと思ったけれどミメットは「気にするな」と笑っただけだった。
「…さて皆の者、我々はこれから呪いをとろかし未来を勝ち取るぞ!」
研究員達はミメットの言葉に、自分の腕を振り上げた。
再び、私達は魔女が住む森へ走り出した。
前回と違うのは、二台目には呪いを解く鍵である魔女の体があるくらいだ。
全員はほぼ休みなく、森の境界線までやってくると体を慎重に台から降ろして担架に乗せて運び出した。
「体は落とすなよ。そうだ、苦しくなったら交代するんだ」
それでも、大人一人を担架に乗せて運ぶのは相当な苦行だ。
あたりは寒いのに、担架を持つ研究員達は汗びっしょりになりながらようやく呪いが解けると皆笑顔で進む。
「…一旦、ここで休憩にしよう」
そっと魔女の体になるものを降ろして、全員は短い休憩を取るため地面に座り込んだ。
手早くミメットがお茶を配り、皆汗をぬぐいながら飲んでいる。
しばらくすると、皆誰からともなく立ち上がった。
自分達の頑張った結果が、もうすぐ出るから。
ハアハア言いながら、しばらく進んでいるとガラスの森に入る。その瞬間。
『嬉しい!やっと、やっと、私の体が…!』
森全体が震えるようにざわめいて、真っ白な魔女が姿を現わす。
「はい。どうぞ、貰ってください」
森そのものである魔女は、身を震わせながら私をそっと抱きしめた。
『ありがとう』
少しずつ、白い体が私達の用意した体に吸い込まれていく。
全部、体に収まったと思ったら次の瞬間目がくらむような光が降り注ぐ。
「…‼︎」
どのくらいの時間、目がくらんでいたのか分からない。
徐々に戻ってきた視界で、あたりを確認するとあれほどまでに深く降り積もり苦しめられた雪はどこにもない。
「もはや、呪いはありません。私の体が戻ったことで」
私もミメットも、研究員達も一斉に視線を向けた先に龍人の女性が立っていた。
静かに微笑むと、私の手を取る。
「改めて言います。グラース、ありがとう」
その瞬間、盛大な拍手と歓声が上がった。
ガラスの森だった地点から魔術で抜け、車で走っても雪もなく乾燥した大地が広がるだけ。
避難した一向に、成功を伝えるために私達は走り出した。