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レプティリアの百合  作者: ころころどろん
魔女の悲しみ編
22/26

脱出計画〈6歳編〉

20


近くで見てみると、それはガラスで出来た木だった。

透明な木だから反対側が透けて見える。

最初は一本だけだったのが、歩くたびに増えていき一時間も歩くとあたり一面色のない世界が広がった。

「すごいですね…。魔女の魔力がこうさせたのかな…」

合わせ鏡のように、延々と先が見えるからちょっと気持ち悪い。

ガラス、とは言ったけど屈折率とかの視点で見たら別物だね。

視界が良好なのはいいことだけど。


『ーーーあなたたちは、誰?』

調査をしはじめて、すぐ。

どこからともなく若い女性の声が聞こえてくる。

調査隊の皆は、びくりと身を震わせてあたりをキョロキョロと見ながら声の主を探していた。

「魔女よ、私達は、ライエット王国の調査団です!どうか話を聞いてもらえませんか」

私が声を張り上げて、存在を主張すると空気が震えて一瞬で目の前に現れた。

顔と形は、記録通りだったけれど感じる雰囲気は龍人を超えたナニカ。


『いいでしょう。話を聞いて、私がどうするかは分かりませんが。…そちらの者達よ、私を出し抜こうなどとは思わぬ事です。以前来た、調査団の二の舞になりたくなければね』

調査団の人達は、魔女の牽制にすぐ動きを止めた。

その様子を見てミメットが一歩前に出る。

「どうか!どうか、ライエット王国にかけた吹雪の呪いを解いてもらいたいのです。あなたの怒りを買い、もはや我々は国として成り立たないところまで来ております」

ミメットは必死に、目の前の魔女に声をかける。

『解いて、どうするのです』

魔女の顔は、生気のない青白い顔で膝をついて許しを請うミメットを見つめている。


「ーーー呪いが解けたのち、私達はライエットの名を捨てレプティリアとなるでしょう。それほどまでに、我々は衰退しているのです」

ミメットは、必死に頭を下げていた。

少し離れた場所からでも分かる、真剣な眼差し。

「教えてください。どうすれば、あなたの悲しみを癒せますか」

魔女は、質問した私を見た。

瞳には少しだけ、興味を浮かべている。

『…あなたの体をくれ、と言ってもですか』

「私の体?どうしてですか?あなたは、目の前に存在しているじゃありませんか」

確かに生気は全く感じないけど、青白くても肉体があるように見えるんだけどな。


『私の肉体は、とうの昔に滅び魂だけがこの森に残りました。…今の私は森と一体となっていて、この場から動けません』

魂だけの存在…。

魔女は、私達と話をするためだけに実体を持ったのか。

『…王子が愛していた国が、そこまで弱ってしまっていたとは知りませんでした。ですが、全体にかけた呪いを解けば今度は私が消滅してしまいます』

それは、確かに悲しいよね。

けれど私の体をあげたら、今度は私が死んじゃうもんなあ。


『私は龍人です。ーーーたとえ、今は不確かな存在であっても。それにあなたは、私が生きていた頃によく似ています』

「そうなんですか」

それは会ってみたかったなあ。

…でも、似てたって言っても見分けられる気がしないんだけど。

「魂を別の体に移すなんて、聞いた事ないです。…ミメットさん、なんとかなりませんか」

ミメットさんは、必死に方法を教えているようだった。

長い沈黙が続いて、私を一瞬だけチラリと見る。

「…どこでもいいが、グラースの体の一部を切り取ってもう一つ体を再生して器とすることが一番安全で確実な方法だろうな」


はい?そんなこと出来るの?

それって、地球式に言えばクローンってやつでしょ?

いやいや不可思議にも程が…。

「ただ、やるとなると莫大な魔力が必要になる。…私一人分では到底足りず、国にあるすべての魔力装置を切ってやっとだな」

「国民を避難させてからじゃないと無理ですね」

再生に関わらない人が、全員が国外に退去してから装置を切るのか…。

かなり大がかりになるけど、やるしかないな。

「じゃあ、まずはレプティリアに受け入れを打診しましょう。それから…」


いったん、私達は城に戻って話し合うことになり即刻全員の避難を決めた国王は特使として私と一緒に第一弾の飛行船に乗りこんだ。

こちらの状況と、避難民の受け入れを許可してもらえるように交渉したいことを伝送玉でレプティリア王国カサム王子に伝えた。

「…避難民の件については、こちらで全員受け入れられるようにしよう。細かい調整は、そちらの御仁が到着してからになりそうだが」


伝送玉越しに見る、カサム王子は疲れが見えるものの元気で厄介ごとでしかないミメット達を受け入れてくれた。

「感謝いたします、カサム王子。我々は、受け入れて頂けなければ死ぬしかなかった」

国王は静かに頭を下げた。

そして、カサムはかたわらに立つ私を見る。

「事が終わるまでは、家族に生死を伏せて欲しいとの事だが…いいのか?グラース」

カサムの言葉に、私は頷いた。

だって、連れ戻されて魔女との約束が果たせなかったりしたら今までやってきた事が無駄になるし。

まして、『私の一部を切り取って依り代にして、肉体を再生させる』なんてこと絶対反対されるでしょ。

「お願いします。なすべきことをしたら、きちんと戻ってきますから」

国王と側近だけ残し、私達は飛行船でライエットに戻る。


私と一行は、飛行船に乗ってレプティリアの王城へ向かった。

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