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レプティリアの百合  作者: ころころどろん
魔女の悲しみ編
19/26

番外その①・いなくなったあいつ

【注意】ハトゥール視点


 僕が狩りに行きたい、などと言わなかったらあいつはさらわれたりなんかしなかったんだろうか。


…ここはどこだ。

天井からしたたり落ちる、水の音で目が覚めるととんでもない狭い部屋に閉じ込められていた。

いや、部屋というより牢屋だな。

学園の強化合宿で、野宿しても安全だというふれこみのエール平原で狩りをしていたはずなのに。

それ以上に不可解なのが、どうして縛り上げられているのか。

呼吸をするのも、ままならないほどきつく縛られていて動く事すら出来ない。

おまけに、魔力を吸い取る腕輪のせいで魔法も使えない。


「おい、あいつら目ぇ覚ましたか!」

突然、野太い男の声が聞こえた。

聞きなれない声の主は、ここにどんどん近くなってくる。

「おい、兄ちゃん。目ぇ覚めたか」

軽く頬を叩かれ、受けたことのない仕打ちに頭が怒りで震える。

「もう少し大人しくしてなあ。お前の両親から金をせびったら帰してやるさ」

こいつら、僕が王子だと知らないのか。

だとすると、身元が知られた場合に身に危険が及ぶかも知れないな。


そう言って、男は愉悦を浮かべながら違う部屋へ行った。

今ここにいるのは一人きりで、一緒にいたモナと…グラースはここと同じ牢屋に閉じ込められているのか。

その時、隣から物音が聞こえてきた。

ガチャガチャという金属音に、ドアを開ける音がしたからモナかグラースのどちらかが連れ出されるんだろう。

「…や、やだ!」

この声はモナか!

必死に綱を解こうとしても、自分の力では大人が縛り上げた綱に勝てるはずもなく。

もがいているうちに、また「ウルセェ‼︎顔に傷作られたくなかったら、大人しくしてろ!」と怒鳴る声が聞こえる。

ああ、なんて僕は無力なんだ。


思えば、僕は物心ついた時からずっと優秀である事を求められたのに出来なかった。

だってそうだろう?

カサム兄様は七歳で学園に入学し、卒業までトップを走り続け。

オクトス兄様は、僕と同じ十歳で入学したものの同じくトップを卒業まで走り抜けた。

なのに僕は友人一人すら満足に助け出せない。

そうしているうちに、今度はまた誰かが隣から出される音がする。

「こいつ、見たことない種族だな。お前知ってるか?」

見たことない種族。

漏れ聞こえてくる声からするに、今度はグラースだと思う。

…あいつは、トカゲそのものの顔をしているのにひどく優秀だった。

兄様の七歳という、入学の最年少記録をあっさり超えた上に勉強だってそつがない。

そして何より魔力の保持量がすさまじく多いのだと、オクトス兄様から聞いた。

「普通に入学した方が、本人にとっては良かったのだろうが…。あの優秀さだ、卒業すればよい魔法使いになって国に貢献してくれるであろうという結論になってな」

悔しかった。

僕はあんな風に、兄から手放しに誉められた事など一度もなかったのに。


過去を悔やみながら、いつここから出られるのだろうかと思っていたら突然牢屋の扉が開いた。

うつらうつらしていて、驚きで声を出しそうになったほどだ。

「おぉ…?お前寝てたのかよ。まあいいや。…おい、こいつを運び出せ!」

太った男が命じると、奥から部下が出てきて自分を台車に乗せてどこかへ連れていくつもりのようだ。

出てみると内部は洞窟のようになっていて、暗くしめった空気が不快だ。

どれほど、荷物のように台車に運ばれたかは分からないが光が前方から差してきた。

「さてここで待ってな。と、その前に…おい!さるぐつわを外せ。…おめえ、名前は」

そこにはすでに、部屋から出されたモナがいた。

視線が合うと怯えた眼差しで僕を見ている。


「ハトゥール・チェルニー。…おい、龍人の娘もいたはずだろう。どこへやった」

苗字は母方の旧姓を名乗った。

チェルニー家もそこそこ有名な家だが、素直に本当の名前を名乗るよりはよほどいいだろう。

「よし…。おい、お前ら!さっさと家に使いを出せ!しくじるなよ!おい、お前達はこっちだ」

また僕たち二人は、荷物のようにかつぎあげられ物置に閉じ込められた。

「ああん?龍人?…あの娘っ子なら、とっくにエルフの兄ちゃんにうっぱらったさ」

うっぱらった?グラースを?

にやにや笑いながら、男は鍵を閉めた。

「ハトゥール様、グラースは…」

「奴隷として売られたのだろうな、話からすると。…悔しいが、今の僕達にあいつを助ける力はない」

モナは、人が金銭で売られていく事など知らずに生きてきたんだろうな。

奴隷として売り買いされたなら、いきなり殺されはしていないと信じるほかない。


「そう、ですね…。こんなものつけられていたら…」

魔力を吸い取る腕輪は、裏社会では比較的よくつかわれる拘束具でよほどの魔力を込めないとヒビすら入れられない。

汚れた床に転がりながら、自分とモナとグラースの安全を祈るより他になかった。


しばらく続きます

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