勝負〈6歳編〉
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入学してから、ひと月ほどたって私はハトゥールとその取り巻きと上手くやる術を身につけた。
「アハハ〜!ばっかじゃないの〜!」
「きーさーま!許さんぞ!そこへなおれ」
私はとにかく、やられる前にこっちからやってしまえ!とばかりにとにかく王子達にいたずらをしまくってやることにした。
今、彼らは私開発の時間かたつと消えるインクを頭からかぶって怒り狂っている。
「いやよ!入学して一か月、こっちがどれだけ我慢してたと思ってるの。思う存分反撃させてもらうわよ!」
物陰からインクをぶちまける、にはじまって空から落としてみたりと色々考えながらやるのが楽しい。
「おい!ギニー、あいつはどこへ行った!探せぇ!」
青筋を立てたハトゥールが命じると、リックスとギニーは方々へ散っていく。
「はあ、まったく…。⁉︎」
クリアの魔法で、全身を透明にしてしまえば何処にいるかハトゥールには分からない。
学校側が何か言ってくるかと思ったけど、それもなし。
「フライ」
私が姿を現して、空に浮かんでいるのをポカンとして見ているハトゥール。
「授業はあとでいくらでも取り戻せるわ。けど、その前にあんた達を心ゆくままやり込めないと気が済まないの。…それっ!」
避ける間もなく、ハトゥールの上にインクが落ちる。
「ごわっ⁉︎」「ぐはっ⁉︎」
リックスとギニーにも、消えるインクを落としておく。
「ーーーお前、よくやるよなぁ。ハトゥール相手に」
インクをぶちまけだしてから、私はしょっちゅう職員室に呼ばれるようになった。
「殴られたり、蹴られたりするくらいならこっちからやります」
先生はため息をつきながら、私に罰則を言い渡すのもいつもの光景になりつつある。
「あー、まぁいいけどな。お前のいたずらはそう他の生徒には影響ないし」
なんせ時間がたつと、消えるインクだから跡形もないし私はかけるのに細心の注意を払ってやっていた。
「まあ頑張れや。お前のいたずらに関しては、オクトス様も黙認されてるから。もっと相手になってやってくれってな」
とにかく、オクトス様のお墨付きももらえたことだしもっともっとやってやる。
「…もう我慢ならん!おい、グラース・アルファ!」
授業中だろうと、私はのべつまくなしに三人だけに的を絞っていたずらをしまくった。
バァン!と、ハトゥールが机を叩いた衝撃で教科書が散らばる。
「やってやろうじゃない。エドガー先生、一時間でいいので時間くれません?」
先生はため息をついただけで、私とハトゥールの殴り合いを止めはしなかった。
「対人戦は二年生からなんだけどな…。まあいいや、二人ともやっていいぞ。今日は治療する神官もいる日だし、よっぽどじゃなけりゃ大丈夫だろ」
私とハトゥール、それに他のクラスメイトは全員で移動した。
着いたのは校舎正面の広場で、不穏な空気を察知した他学年が窓からこちらをのぞきこんでいる。
「いいか?一対一、お前らのどっちかが『参った』って言ったらそこで終了。いいな?」
私とハトゥールは頷き、にらみ合った。
「それじゃ…開始!」
開始の合図と同時に、私は透明になり後ろに飛んだ。
そこに容赦なく、ハトゥールのサンダーが落ちる。
へぇ、やるじゃん。
だったら、私もやってやるかな。
頭の中で『ファイヤー』と唱えると、大きな炎のかたまりはハトゥールの真上に落ちた。
「…っ⁉︎」
と、思ったら寸前で避けられる。ちっ。
私は透明で向こうに見えないから、こっちはひたすらハトゥールに打ち込むだけだ。
しかし、ハトゥールもことごとく私の攻撃を避けた。
炎なら水で、雷なら土で、といった具合に。
あとはどちらが魔力切れになるかの勝負。
「ファイヤー!」
とどめはもちろん、姿を現した一騎打ちの末魔力切れで私の勝ち。
「…お疲れ様」
私はハトゥールに手を差し出した。
弾かれちゃったけど。
「でも、ごめんなさい。これ以後、あんたから何かしてこない限り手はださないから」
確かに頭にきてたとはいえ、私も明らかにやり過ぎたしなあ。
「あんたとはなんだ、あんたとは…。まあいい、僕も負けたんだし手出しはしないさ。だが次は勝つ!」
私とハトゥールはしっかり握手をした。
でも今度こそ笑いながら。
戦いのシーンって難しいっすね。