昼休みのひととき〈6歳編〉
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「兄さん!」
その時の私は、ホコリや泥で着ていた制服はどろどろに汚れていたし顔をぶつけた拍子に血まで出ていた。
「ごめん、遅くなったな。…あいつら!」
今にも殴りかかっていきそうなアルヒア兄さんを何とか押しとどめて、私はアルヒア兄さんに言った。
「いいから!兄様が殴ったら、こっちが悪くなる!相手は王子達よ⁉︎」
たとえ、私が先に殴られたからって言っても簡単に覆せる人達だし。
「分かったよ。…ちっくしょう!龍人が新入生代表になったのがそんなに悔しいのか…っ」
アルヒア兄様は、別の場所で教師に頼まれ事をしていたらしい。
「もういいから。…それより、兄様はどこに住んでるの?私、寮なんだけど誰もいないんだ」
これ以上、この話はしないほうがいいな。
私だって悔しいけど、兄様を犯罪者にはしたくない。
「…僕か?僕は、バスチァンの家に世話になってる。寮はな…おれ家事出来ないし」
ああ、里にいた時もほとんどやってなかったもんな…。
私が寮に住んでいる、と言ったら兄様にバスチァンの家に間借りしないかって言われたけど断った。
だってねー。
人んちじゃ落ち着けないよ…。
「でも、あんなやつらがいたんじゃ危ないだろう。何やってくるか分からないし…。よし分かった!僕が寮にまた引っ越すよ。それなら問題ないだろう?妹の危機に立ち上がらないなんて龍人の名折れだしな!」
なんと、アルヒア兄様はその日のうちに寮に引っ越してきた。
事情を知った、バスチァンとそのご両親も背中を押してくれたらしい。
「ーーーでも、良かったわ。実を言うと、私も心配だったのよ。ハトゥール様はともかく、リックスもギニーも命令だったらなんでもやるでしょう」
「モナ…ありがとう」
今は昼休みで、心配してモナが寮に来てくれた。
モナは、良かったらうちにこないか?と誘ってくれるつもりだったんだって。
「それにしても、ハトゥール様にも困ったものよね…。王妃様が、自分の子を是非王にと仰ってるみたいだけどアレじゃあねぇ」
ハトゥールとオクトス様は、感じが似ているなと思ったら母親が双子の姉妹で最初に嫁いだのがオクトス様の生母であるクレア様。
クレア様はオクトス様を産んですぐに亡くなり、その後釜として嫁いだのが妹のリリー様。
「こんなこと言ったら不敬だけど、ただれてるわね…」
昼休みに聞きたい話じゃなかったなあ。
「あらあら。貴族のただれ方はこんなもんじゃないのよ?むしろ、リリー様の件なんてマシな方よ」
マジかよ…。怖いな。
「モナ、うちの妹に変なこと教えないでくれよ」
喋りながら食事をしていたとき、バスチァンを連れてアルヒア兄様がやってきた。
「こんにちは、グラース。モナから聞いたよ、大変だったみたいだね」
バスチァンはそう言って、家から自家製のドリンクを持ってきてくれた。
炭酸を飲みながら、友達と過ごす昼休みはあっという間に過ぎてしまった。
でも、自分で決めたこと。
やれるときまで頑張ると決めた。