入学は土と血の味⁉︎〈6歳編〉
11
「新入生代表、グラース・アルファ。前へ」
震える足にむちを打って、私は壇上に上がる。
魔法が込められた、拡声器のおかげで私の声は入学式に参加している父兄や教職員と生徒にも丸聞こえだ。
ーーーよし、やるぞ。
私は背を伸ばし、前を向いて用意された原稿を読み上げる。
「今日という良き日を、迎えられたことを新入生代表として国王陛下と王妃様に対し感謝いたします…」
試験の最中の、私が使ったヒールが決め手となってなんと!私は新入生代表に選ばれてしまった。
普通、ヒールとかの治癒呪文は適正のある生徒が卒業間際に学ぶようなシロモノだったらしい。
あれだけ騒いでいれば、私とハトゥールに注目が行くのが当然で会場にいた試験官は私が治癒呪文を使うところもバッチリ見られていた。
普通、新入生に王族や位の高い貴族がいる場合はその人達が務めるのが慣例らしいけどそれを破ってでも平民と変わらない私にやらせようと思わせた…んだって。
うわー、めっちゃ王子とその取り巻きがにらんでるわー。
「…新入生代表、グラース・アルファ」
私は壇上で、新入生代表の挨拶終えて自分の席に戻り陛下の代理である第一王子の顔を見ていた。
オクトス様とハトゥールは金髪で、どことなく線の細い雰囲気なのに、第一王子は黒目黒髪で体格はがっしりしている。
「新入生はしっかりと学び、これからの自分の人生に生かしていってほしい。以上」
壇上から降りるとき、私と第一王子の目があった…ような。
「カサム第一王子のお話でした。これにて、入学式を終わります。新入生は教職員の先導でそのまま教室へ向かうように。では解散!」
カサムって言うのか、あの人。
あの人が王位を継いでくれて、なんだかホッとする。
解散後は、ランクごとにグループになりそれぞれのクラスに移動する。
私?私はもちろんAクラス。
案外、その基準は厳しいようで私を含めて六人しかいなかった。
私・モナ・ヤァス・ハトゥール・リックス・ギニーの六人。
リックスとギニーは、ハトゥールに従う金魚のフンみたいなもんだよね。あの時も近くにいたし。
ただ、熊人という種族らしいヤァスはいたかどうか記憶にない。
まあ、気にする余裕なんてなかったってのもあるけど…。
「…お前なんか、すぐに退学にさせてやる」
ヤァスに気を取られて、すっかりハトゥールの存在を忘れてた。
私が言い返そうとしたとき。
「おーい、お前達!ケンカすんのもほどほどになー。俺は一年Aクラスの担任、エドガー・ルケイル。お前ら、とにかく教室へ移動すっから」
不自然に中断したまま、私達はクラスへ移動する。
教室の大きさは、日本の公立学校よりずっと狭い。
六つの机と椅子に、端にはティーセットとメイドが緊張した面持ちで控えている。
どの学年のAクラスの教室にも、必ず一人はメイドがつくのだとエドガー先生は説明した。
「まあ、だからって何言いつけてもいいって訳じゃねーけどな。拒否されても怒んじゃねえぞ?」
いやいや、むしろ教室に一人メイドがついてるっておかしくね?
「まあ、あとは学園の基本方針として『ケンカ両成敗』を貫かせてもらう。ここじゃ地位は関係ねえってことだな。いいか?俺ら教職員に面倒かけんじゃねーぞ」
最後が本音だよね…センセーの。
今日は説明のみですることになり、私はその流れで寮に向かう。
「寮に住んでるのはどのくらいなんですか?」
なんと、あんなに迷惑をかけるなと繰り返していたエドガー先生が案内してくれたのでそれに従う。
「ああん?お前さん一人だな。元々、この学園は王都出身者が大半を占めるしその残りのやつも十分通える距離のやつらばっかだから」
マジですか。
寮の建物は木造二階建てで、それなりに年季が入ってはいるけど味があるように見える。
「ほい、これ寮の鍵な?一応、門限はあるし寮監はいるけど他の役職と兼務してるから見回りには来ねえ。食事は食堂か寮監室のキッチンで作れ。あとは好きにしな」
バタン。
一度だけ、鍵を差し入れて開けるとそのままエドガーは帰って行ってしまった。
そのまま、寮の中に入って『寮監室』と書かれた部屋のノブを開ける。
良かった…。
空気さえ入れ替えれば、家具は備え付けだしトイレ・風呂場とキッチンまでついているからここで弁当を作って持ってってもいいかも。
とりあえずは、食材を手に入れようと職員室近くの厨房に向かったんだけど…。
「げっ…」
出てすぐに、ハトゥールとその取り巻きが馬車に乗るためにこちらに向かって歩いてくるところだった。
避けられるところもなく、そのまま鉢合わせになっちゃった。
「ーーートカゲ頭の癖に代表になって、いい気になってんじゃないぞ」
出会い頭、私にハトゥールはそんな風に声をかけてきた。
「トカゲ頭から言わせてもらえば、大事なのはこれからじゃないの。ケンカ吹っかけてる暇があったら、その分勉強すりゃああっという間に勝てるでしょ」
能力だけは高いんだから。
「ふ、ふん。そんなこと分かっている!」
さっさと歩いていってしまったハトゥール。
気を抜いた次の瞬間、私はリックスとギニーに突き飛ばされた。
「っつ…!」
立ち上がろうとすると、有無を言わさずに背中を踏まれる感触。
「…おい、行くぞ」
二人の気配が完全に消えて、やっと私は立ち上がれた。
まったく、あいつらこっちが抵抗しないと思って…。
ホコリを払っていると、差し伸べられた手。
見上げると、そこには意外な人物がいた。