八話
さてさてディー王子が巫女経由で男神から神託を受けてから、この国は少しずつですが人々が暮らしやすくなっていきました。
まず、下水を作った事により、今まで溝に垂れ流しにしていた汚水を地下に流し始めた事によって格段に疫病が減りました。
一年の天候を事前に伝え、人々に実りを与えてくれました。
他にも、自国にとって有益となる神託を幾つも授かったのです。
それから、消臭剤と脱臭剤は巷で大人気となり、消臭剤は騎士団に所属する男性陣や土建屋さんに、脱臭剤は貴族の貴婦人方に大人気となり、王室の国庫を潤してくれました。
ついでにディー王子のお小遣いも少し増えたとか。
「ふぅ……」
「どうしましたの巫女?」
ディー王子の部屋にて、アンニュイな表情で巫女は窓の外を見つめております。
それを目ざとく、もとい、一早く気がついたディー王子が巫女に声をかけます。六年の年月の賜物か、ディー王子の言葉使いには女性らしさが滲み出ております。巫女曰く当社比だそうです。
巫女の教育の賜物ですねと言えば、巫女はドヤ顔……もとい、柔らかな笑顔で「ディー様の努力の成果ですわ」と謙遜なさいます。
そんな風に相手を立てる巫女の姿に、侍女や王宮勤めの官吏達は「巫女様素敵。抱いてぇ」と巫女様ageageです。
齢14の美少女に皆メロメロです。そして、女装姿の王子にも皆メロメロです。
ただし、男神だけは内心不服なのでした。
理由は『二人が少女じゃなくなっちゃうよー』だそうです。
「ディー様……私、最近少々悩みがありますの。あ、ミリアリスさん私紅茶のホットでお願い致します、ストレートですと嬉しいですわ」
「か、かかっかかかかかっかかしこまりましたぁっぁぁぁぁぁぁ」
ものすっごく噛みまくり、どもりまくりでミリアリスと呼ばれた侍女は紅茶の準備の為に部屋を出て行きます。そのお顔といいましたら興奮のしすぎで若干鼻血が出ていたように思います。
「てか温かい紅茶以外に何がありますの?」
「てか、は減点でしてよディー様。それはともかく、温かい紅茶の反対といえば冷たい紅茶に決まっていますわ!」
拳を握りしめて巫女が語ります。
それを見ながらディー様は可哀想な者を見る目つきで「そういえばコイツは転生者だったな」と呟いていらっしゃいます。
本来、珈琲も紅茶も温かい状態で飲むのがこの国では普通の為、時折巫女の言葉に驚かされる事があるのです。
「残念な顔をなさらないで下さい。冷やした紅茶も美味しいのに」
心底残念そうに言う巫女ですが、以前冷やした紅茶や珈琲を巫女に飲まされた経験のあるディー王子はというと、どうにも受け付けなく不味く感じていたのでした。
「まぁ、それは置いておいて。巫女どうされましたの?」
優雅な仕草でソファに座り、ディー王子は巫女に問いかけます。
「あらあらそうでしたわ。実は私、悩みがありまして……」
ディー王子の向かいにあるソファに座ると、巫女は思い出したように話し始めました。
「私、私……」
「……」
巫女の言葉を食い入るように、ディー王子は聞き入っています。
「いつまで美少女と呼ばれるのでしょうか?」
「……」
巫女の言葉に、ディー王子はポカンとしています。
「とりあえず10歳までは美幼女でよかったと思います。11〜14歳辺りも美少女で許されると思いますの。ですが、15歳を過ぎたら何と呼ばれたらいいのでしょうか? 殿方は青年と言う時期がありますが、女性は? 美成女? は、語呂がおかしいですし、美女? だと22〜25歳過ぎた辺りが相応しい気もしますし、美魔女はもっとおかしいですし……」
「……」
「そんな事を考えていると心配で、夜なかなか眠られなくて睡眠不足になりそうですわ。睡眠不足はお肌に悪いですし」
「……」
「ディー様?」
「……」
巫女が一息に話し終えると、ディー王子は無言で巫女を見ていました。
能面のように。
反応の無いディー王子を心配して見つめていると、王子はいきなり立ち上がりギリッと巫女を見るや――。
「お前のかーちゃんで〜べそ!」
そう叫んで部屋を出ていってしまわれました。
呆気に取られたままそちらを見ていると、紅茶の準備を整えたミリアリスが王子と入れ違いに中へと入ってきます。
「あの、ディー様が淑女らしくないドコスカ歩きで騎士の訓練所に向かわれて行きましたが……」
如何なさいましたのでしょう? と、不思議そうな表情で巫女の為に紅茶を用意しています。
「世間一般で言う所の、所謂反抗期ですね」
「……」
そんなこんなで、巫女は美少女の次の呼ばれ方について悶々と悩み続けたとか、次の日には忘れていたとか。




