三話
ディーオージ王子の私室にある、来客用のソファに座り、王子も向かいに座ったのを確認すると、巫女は昔語りを始めました。
何でもディーオージ王子付に選ばれた巫女は、地球という惑星の日本という国では26歳のキャリアウーマンと呼ばれるものだったそうです。
女だてらにバリバリと仕事をこなし、彼氏いない歴イコール年齢で、将来お局様コース確実との優良物件だったそうです。
ディーオージ王子が「キャリアウーマン? お局様?」と話の合間合間にツッコミを入れますが、巫女は華麗にスルーしていきます。
そうして日本でバリバリ働いていた巫女は、ある日パタリと過労死してしまいました。一度も男性と恋愛をする事もなく、仕事に生きると心に誓った翌日の話です。
どうやって違う世界の人間の死を知ったのか、それを憐れに思った男神が、自身の守護する国の巫女として転生しないかと声をかけたのだそうです。人生をやり直せると喜んだ巫女はそれに一も二もなく頷いて、転生したのだそうです。
五歳児として。
「それ俺が知ってる転生と違う!」と言うディーオージ王子のツッコミも巫女はスルーします。
さすが転生前が26歳なだけあります。余計なツッコミは無視する耐性があるのでしょう。
こうして男神からの信託を受けた神殿に保護された巫女は、三年間を巫女になる為の修行をしながら暮らし、今日に至るのだそうです。
長い前世での自分語りを終えた巫女は、息を吐くといつの間にか目の前に用意されていたお茶を飲み、一息吐きます。
「神殿での三年間何を修行してたんだ?」
「男神様とお話したり、夢の中で男神様と遊んだりしていましたわ」
ディーオージ王子の質問に、あっさり答える巫女。夢の中で男神と遊ぶの件が非常に気になるのでしょう。国神様が幼女に良からぬ事をしていない事を祈るばかりです。
「それからお前の前世でいいのか? 前世の名前を教えてくれ」
ディーオージ王子の質問に、巫女はよくぞ聞いてくれました! 的なドヤ顔をします。
「新堂ミイコですわ!」
神殿巫女。
シンデンミコ
しんどうミイコ。
「って、そのまんまじゃねえか!!」
ディーオージ王子のツッコミが部屋中に響いたとかどうとか。
「それでしたら、ディーオージ王子だって、オージ王子って二回言っているみたいではありませんの?!」
「ぐぬぬ……人が気にしている事を……」
思いもよらない巫女の反撃に、自覚があったのでしょう、ディーオージ王子は悔しそうです。
「もし宜しければ、王子のお名前の由来を男神様にお聞き致しましてよ」
巫女の言葉にディーオージ王子は目を丸くします。
この国では、王家に生まれた人間は男神によって名を与えられます。それは女性も男性も等しく。
女性ならば、アフロディーテケイスィーンや、オノーノコマーツィーン、ユィキヒーヌ等。
自分も確かに男神によって着けられた筈なのに、どうしてこうも差が出たのか気になって仕方がなかったのです。
「頼む」
そっぽを向きながら言う姿に、内心で「可愛い所もありますのねぇ」と笑いつつ、巫女は快諾します。
「少々お待ちください」
それだけを言うと、巫女は目を閉じて深く息を吐きます。
どれ位時間が経ったのでしょう。巫女はゆっくりと目を開くと口を開きました。
「第一王子だからディーオージでいいや――だそうですわ」
「やっぱりかぁぁぁぁぁ!!!」
またしてもディーオージ王子のツッコミが部屋中に響きましたとさ。
男達の名前(一部抜粋)
タゴサーク。
ヤマーデゥタリーウ。
スィズークイチロゥ。