二話
「てかお前、自分を巫女みこミコ言っているが、本当の名前は何と言うんだ?」
「三回も言いましたかしら?」
小首を傾げる巫女のその愛らしい事と言いましたら。地上に咲いた一輪のタンポポのようです。
「おい……巫女。地の文が何か言っているぞ」
「王子ったら地の文にまでツッコミを入れるだなんて、ラノベ主人公の鑑ですわ」
「は? ラノベ?」
「おほほ。こちらの話ですわ」
全く話が進まない流れのままに、巫女と王子は仲良くなっています。
「いや、仲良くないから。てか名前! 名前を教えろ!」
「お言葉がお下品ですわ王子。まぁ、それは追々直していって頂くとして、私は巫女。神殿巫女。それ以上でもそれ以下でもありませんわ」
「いや、以上とか以下とか言ってる意味が解らないんだが……」
「もう、王子は八歳でいらっしゃるのに以上と以下の違いも解らないのですか? 以上とはそれを含めてそれ以上で、以下とは――」
「解った! 解ったからもういい!」
巫女のマイペース振りに、さすがに王子もお疲れのご様子です。
一度は起き上がったのですが、グッタリと寝台に突っ伏してしまいました。
「あらあらドレスがしわくちゃになってしまいますわ……それは置いておくとしまして、私も名を名乗ったのですから、王子も名を教えて下さいませ」
置いておくのかよ、と内心思わないでもありませんでしたが、王子は「ディーオージだ。自分が仕える神殿の国の王子の名前位覚えておけ」と告げてそっぽを向きます。
「申し訳ございません。なにぶんこちらの世界にやって来てから、まだ三年しか経っておりませんもので」
丁寧に一礼する巫女に、王子は適当に返すと「疲れたから巫女は下がれ」と言って、手で追い払います。巫女も心得たように退室の挨拶を述べると寝室から出ていくのでした。
「こちらの世界?」
巫女の言葉が疑問に残り、ディーオージ王子は「ちょっと待てぇぇぇぇぇい!!!」と叫ぶなり巫女を追いかけるのでした。
簡単に説明すると、巫女は三年前に地球という惑星からやってきた異世界人だったのです。
何でも、この国の守護神である男神が、巫女をこちらの世界に召喚したのだとか。
ですが、王子の驚きはそちらではなく――。
「お前、宇宙人なのか!?」
「まぁ、貴方様から見たらそうなりますわね。私から見たら貴方様の方が余程宇宙人らしいのですが」
王子が宇宙人という単語を知っていた事に関しましては、深くは追及しませんが、宇宙人と言われた巫女は若干不服そうな顔をしています。
無理もないでしょう。巫女が黒髪黒目という容姿に対して、王子は青い髪に紫色の瞳という、巫女が以前過ごしていた世界では見られなかった容姿をしているのですから。
「私からしましたら、王子達の方が余程見慣れないお姿をしておいでですわ」
宇宙人と言われたのに対して、少しの嫌味を交えて返します。
「まぁ髪と目の色が違うだけで、見た目は同じだし構わないけどな」
屈託なく笑う姿に巫女も曖昧な笑顔を返します。
「まぁ、違う世界から来たって事だし、お前の力が必要だったのかもしれないな」
「NAISEIやら現代知識で私スゲェをやれるような才能はございませんよ? 私、八歳ですから」
「?」
「こちらの話ですわ」
巫女の話に着いていけないディーオージ王子はポカンとしています。
「まぁ、お前が喚ばれた理由が一つだけ解ったがな」
「まぁ、何なんですの?」
ディーオージ王子の瞳に輝きを見つけて、巫女は声高に訊ねます。
「男神はやはりロリコン!! って事だ」
ドヤ顔でそう言い切るディーオージ王子があまりにも清々しく、巫女は何も言えませんでした。