十六話
そんな巫女による、訳の分からない『壁ドン』指導の次の日、ディー王子は巫女を伴って城下町に出ておりました。
所謂アレです。
王子様と巫女様による『ワクワクお忍び城下町デート!』と呼ばれるイベントです。
王族ならば、誰しもが一度は憧れるという、アレです。
門外不出の、王家の人間にしか読むことを許されていない秘密の王族年鑑によれば、過去数代前の女王様や王女様達はお忍びデートを大層お楽しみいただいたとか。
やれ、うっかり躓いてお相手の胸に抱きしめられてヒャッハーしただの。
やれ、一つのジュースにストローを差してイチャイチャしながらジュースを飲んだだの。
デートのお相手が頬に生クリームを付けてデザートを食べていたから、その生クリームをご自身の舌で舐めとって差し上げただの。
読んでいるこちらが恥ずかしくなるような黒歴史――……失礼、甘酸っぱい思い出が記されているのでございます。
ディー様も、そんな王族のお一人だったようで、今回の城下町デートに気合いを入れておいでだったご様子。
それを証拠に、お忍びデートに相応しく、ディー様も巫女も、町民AさんBさんのような服装で町中に溶け込んでいらっしゃいます。
女性の姿で。
お二人とも動きやすい膝より下が少々隠れる程度のスカートを翻し、キャッキャッと町を歩いていらっしゃいます。
「違う! 何か違う!」
と、ディー様は私室でお叫びのようでしたが、侍女達が一切気にしていなかったのは言うまでもありません。
思い描いていた理想のデートとは違いましたが、それはもう巫女が満開の花が咲き誇らんばかりに喜んでいたので、ディー様は早々に切り替えたのです。
男女のデートから、女の子同士のデートに。
デートは違いますね。ガールズトークとウインドウショッピングを楽しむ年頃の乙女達――と、いった所でしょうか。
まぁ、一見可憐な美少女同士のウインドウショッピングに見えますが、内実は違っておりました。
一人は地上に舞い降りた可憐な妖精の如く、美しい顔と守ってあげたくなるような、抱きしめたら折れてしまうのではないかと思える程に華奢な美少女。
片や、容姿は麗しいのに、服越しにも分かる逞しい体。スカートの下から見えるおみ足は太くて……剃ったのがモロバレな脛毛の跡が残されており、首から下はモザイク処理を施さねば映像化は不可能ではないかという美少女。
この異様な組合せが町の通りを歩くと、モーゼの十戒よろしく、人々が左右に分かれて道を開けるのです。
それは畏怖によるものなのか、驚愕によるものなのか……。
勿論、後者によるものでしたが――。
彼らが通りすぎた後には、噂好きのおば様達が色々な憶測を元に、好き勝手会話をしていたのですが、それを二人が知る事はありませんでした。
合掌
そんな噂話など露程も知らないディー様は、巫女を一軒の宝飾店に連れていかれました。
店内はきらびやかな宝石に囲まれており、指輪から髪飾りまで幅広く取り揃えられております。
「きれい……」
店内の雰囲気に飲み込まれながら、ディー様に即されてガラスケースを覗きこんだ巫女は、感嘆のため息を溢されます。
色とりどりの宝石が付いた指輪、宝石など無くとも繊細な細工がされた髪飾り。
女性ならば誰もが見入ってしまう美しい宝飾品がケースの中に並べられていました。
ゆっくりとケース内を見ていると、ディー様が巫女の細い指をそっと持ち上げます。
突然の事に驚いていると、店主に指示して一つの指輪を嵌めさせました。
巫女の指に嵌められた指輪は、巫女と同じ髪や瞳の色をした黒い石の付いた指輪でした。
「黒曜石の指輪でございます」
店主の説明を聞きながら、巫女は指に嵌められたそれを見つめています。
「よく似合うと思う……」
ぼそりと呟かれた言葉に巫女は顔を上げます。
「ディー様……じゃないディー子さん……」
お忍びデートの為、互いに偽名で呼ぶように話し合っていたので、咄嗟に巫女は言い直します。
店主が見えない位置で苦笑いをしていたので、巫女の言い間違いはバレバレだったのでしょうが。
「貴女も夜会に出るのですから、指輪や髪飾りの一つもないと見栄えが悪いでしょう?」
その言葉に、巫女は確かにと心の中で頷きます。
身につけるドレスや、着飾る装飾品で己の価値を会場にいる全ての人々に伝えなければならないのです。
世俗に疎い巫女でも流石に気がつきました。
婚活をするのだから、自分を高値でアピールしなければならないと――。
お金持ちの殿方の元へと嫁いで、左団扇する生活を手に入れなくては。
巫女は真剣にガラスケースの中を物色されます。
確か、消臭剤や脱臭剤を開発した時に幾ばくかの報奨金を受け取っていたのを思い出すと、巫女は予算内で足りうる宝飾品を脳内電卓を弾きながら見るのでした。
「あ、いや……あの……俺――……じゃない……私がプレゼントしようかと……」
自身の一言で火を付けてしまったであろう巫女の後ろ姿を見つめながらディー様は蚊の鳴くような声で何かを言っていたとか何とか。
こっそりとお忍びデートを尾行していた、『女装王子~以下略会』の会員である侍女達は
「キャー! ディー様ヘタレぇぇぇ!」
「物欲センサー最高潮の巫女様素敵ぃぃぃぃ!」
と、大興奮だったとか。




