十二話
「巫女様、こちらのドレス等はいかがでしょうか?」
「いえいえ、こちらのドレスの方が巫女様の美しいお御髪に映えるかと思います」
「いえいえいえ、巫女様を際立たせるドレスはこの色ですわぁ〜」
「いえいえいえいえ〜、こちらのドレスの方がお似合いですわぁぁぁ」
「いやいや私が」
「いやいやいや私が」
「じゃあ、どうぞ」
侍女達のキャッキャウフフな会話に、巫女はげんなりしています。
それも仕方のない事。
現在、巫女の回りには、数人の侍女が朝も早くから、ディー様が言っていた夜会で着る為のドレス選びに必死だからです。
流石は年頃の娘さん達。ドレスはこれがいい、髪飾りはアレがいい、首もとを飾るネックレスはこの宝石がいい等々、 巫女そっちのけで話を進めています。
朝早くから着せ替え人形のようにアレコレとドレスや靴などを試着させられて、巫女はすっかり疲れきっておられます。
年齢よりも、じゃっかん老けたように感じる位には。
「老けてなどいませんわよ?」
「巫女様? 誰かと話していらっしゃるのですか?」
一人言のようにブツブツと言い出した巫女に気が付いたミリアリスが、心配そうに声を掛けてきます。
「いいえ、気のせいですわ。ミリアリスさん」
巫女を見つめる侍女に柔らかく微笑みながら、丁寧に応えます。
「でも……そうですわね。朝早くから皆さんにはお世話になりっぱなしでしたから、お疲れではありませんか? よろしければ今日はこれでお開きにして、ゆっくりとお休みになられてはどうでしょう?」
侍女達を見渡して巫女がそう言いますと、皆さん一斉に沈黙なさいました。そして、誰ともなく頷くと――。
「大丈夫です! 巫女様の晴れの舞台の為ならば!」
「おー!」
皆さんキラッキラ改め、ギラッギラの瞳で互いに頷き合うと、再度巫女を囲んでドレス選びやら何やらに勤しむのでした。
ちなみに巫女はというと――。
「し、死ぬ。マジ限界です」
巫女らしからぬ言動を呟きながら、侍女達の間をたらい回しにされているのでしたとさ。
「巫女、今日は一日大変だったらしいな?」
夜に巫女の部屋へとやって来たディー王子は、入ってくるなり楽しそうにおっしゃいます。
そんなディー王子を、死んだ魚のような瞳で見ながら巫女は出迎えます。
死んだ魚と言うよりも、死人のようです。生きる屍です。三途の川を渡っちゃう手前です。
「いらっしゃいませ? ませ……でよろしいのかしら? うふふふふふふ……」
ああ、もう言動すらも逝っちゃってます。残念モードです。非常に残念モードな巫女です。
「……な、なんだか雰囲気が変わってないか? てかキャラが変わってるぞ」
巫女の様子に若干引きながらディー王子は話かけます。
「いいえ、いいえぇ。それはもう、全然全くこれっぽちも、一ミリたりともそのような大変な目にはあってはおりませんことよ? うふふふふふふふ……」
「お、おぅ」
「ディー様もお勤めご苦労様ですわ。朝から麗しの侍女さん達にもみくちゃにされた私の部屋でお茶を召し上がられる、ただただその為だけに今時分いらっしゃったのですわよね?」
「お……おぅ? い、いや。そんな事は、ゲフンゲフン」
冷や汗を流しながら、ディー王子は扉のノブに手を掛け、ビクビクされています。
そのまま無言にて巫女の部屋を出て行かれるディー王子の瞳には、少しだけ、ほんの少しだけ涙が滲んでいたとかいなかったとか。