十話
すくすくと成長していくディー王子の女装姿は、だんだん厳しい物になっていきます。
体格がしっかりしだしている為に、ドレス姿だと衣服がピッタリと貼り付き、某世紀末に現れた立派な眉毛をお持ちの救世主様のように、力を入れただけで今にも破れてしまいそうです。
身長も伸びるスピードが早く、ドレスが幾らあっても足りません。折角新しいドレスを作っても、数ヵ月後にはサイズが合わなくなり、着られなくなってしまうのですから。
ちなみに王子の着られなくなったドレスは、どこぞの令嬢達が高値でお買い上げされているとか……。王宮的には寧ろ収入がプラスで大歓喜だそうです。
そんな感じで過ごしていく内に、ディー王子は17歳を迎えられました。
王子の後に続くように巫女も年を重ねるのですが、最近の巫女の美しさといいましたら、女の色気を滲ませつつも、幼さの残る少女の愛らしさも兼ね備え、侍女さん曰く「しんぼうたまらん」との事です。
流石にディー王子は女装が厳しい物になりつつあるせいで、侍女達は王子の成長に深い悲しみを覚えるのです。
そして、幼かった王子を思い出しては昔話に花を咲かせます。
いつの間に発足していたのか、『女装王子と巫女姫様を生暖かく見守る会』の会長は、王子が小さかった頃に映写魔法を駆使してコレクションした数々の盗撮写真――もとい、記念写真を大量に増産し、同じく悲しみに暮れる侍女達に売りさばいております。
その売り上げは侍女の一年間の年収に匹敵するとも言われているとか。
そんな王宮が悲しみに暮れている中、当事者である王子は毎日を楽しそうに過ごされていらっしゃるご様子。
「なんだか最近楽しそうですわねディー様。何か良い事でもありましたの?」
今の季節に見ごろの花々を見に、ディー王子と並んで庭園を歩いていた巫女は声をかけます。
「そう見えますかしら?」
嬉しそうな表情を隠そうともせずに問い返す王子に、巫女は頷きます。
王子は足取りも軽く、スキップしそうなノリです。流石にヒールの高い靴を履かれている為に、スキップはしていませんが。
「あと一年ですもの」
王子は庭園に咲き誇る花々を見つめながら答えます。その横顔はとても美しく、男性とも女性ともつかない中性的な見惚れる美しさを纏っています。
「もう少しで男に戻れる」
小さく呟いた言葉は、庭園に吸い込まれていきました。
「ディー様……」
そんな王子の横顔を見ながら、巫女は何を思っているのでしょうか。表情からは何も読み取る事は出来ません。
「TSさせたい……」
「は?」
巫女は通常運転でした。
「こちらの話ですわ」
軽やかに笑うと、巫女は王子の手を取り東屋へと導きます。
巫女の柔らかな手の感触に王子が赤面していたのを知っているのは、『女装王子と巫女姫様を生暖かく見守る会』の一員である王子付きの侍女だけだったとか。
◇◇
「うぉぉぉぉ!!! 何ですの!!! 今の赤面は何なんですかぁぁぁぁぁぁ!!!」
可愛い反応を見せた王子に身悶えした侍女は、即座に映写魔法を発動させると連写撮影していきます。
そして、仕事が終わるやいなや、至急会員達を集め、先程映写魔法で撮影した写真を現像しました。
「きゃぁぁぁぁ!!! 王子可愛いぃぃぃぃ!!!」
「照れていらっしゃいますわぁぁぁぁ!!!!」
「巫女様ぐっじょぶぅぅぅぅ!!」
その日、会員達はお赤飯に似た料理を食べに城下へ繰り出したとかなんとか。