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第八話

母さん達との電話が終わると兄さんが私が話した内容を聞いてきた。

「なんの話したんだ?」

「それ言ったら兄さんを追い出した意味ないでしょ。」

昨日は入学式だけだから、CARPに送られた資料を見る。

親のサインが必要な資料は先の電話中に送り、書いてもらったので大丈夫だ。

だから、私が今見ているのは学園生として読まなければならない資料だ。


資料は意外と多くて、読み終わる頃には夕飯の時間を作り始める時間だった。

急いでキッチンに向かうと、兄さんがつくってくれていた。

「ありがと、兄さん。」

「別にいいんだよ。俺は一応お前の兄なんだからな。」

「私がいなければ兄さんは無理して学園に入る必要もなかったし・・・。」

兄さんは笑って私の頭を撫でた。



*****



side 柏原 祥介


学園では入学式の次の日から授業が始まる。


Fクラスと言っても、最上位校の最下位だ。全国平均から見れば悪いわけではない。

つまり、どういうことかというと、Fクラス教室にも女子はいるということだ。


あんな風に叫んでるのがモテない理由なんじゃないかと昨日誘ってきた西本(彼も叫んでいた)に言ったが、

「イケメンには俺たちの苦労がわからないんだぁあああ!!」

と言ってきた。


**


今日の昼食は結衣の弁当だ。

今日、弁当を作ったのが結衣だからだ。


結衣が俺と結衣の分の昼食を作っているので、俺は中身を知らない。


弁当箱を開けると、色彩のいい中身だ。

バランスが取れているのにボリュームも十分ある。

西本や新島が俺の弁当箱を覗いてきた。

「お前の親料理上手いな。」

「いや、親いないから弟が作ってるし、俺だってこれくらいなら作れるぞ?」

横から話に入ってきた女子、たしか富澤美奈だったかが聴いてくる。

「ふーん、弟って中学生?」

「いや、高校生だ。って、おい新島っ人の弁当盗るな!」

「・・・・美味しい。」

「家庭科もよかったお前に言われたのなら、弟も喜ぶだろうよ。」

非必修科目には家庭科も含まれる。

「弟ってまさかとは思うけど主席の子じゃない?」

富澤が失礼なことを言ってくる。

「・・・あぁ、そうだ。」

「あれで男なんだ・・・。」

「それ結衣に言ったら、あいつ泣くから気をつけろよ。」

確かに結衣は男子制服のコスプレをした少女にしか見えない。


「ああそうだ。昼休みに一緒に部活やってるとこ見に行かないか?」

西本がそんな提案をしてきた。

「ああ、行こうぜ。」

「・・・・俺も行く。」

「私も行くっ!」

なぜか富澤もついてきて、それにつられ他の女子が何人かついてきた。



*****



side 柏原 結衣


私はお弁当を一人で食べる。

隣の席の人はそのさらに隣の人と仲がいいらしく、そこら辺にかたまっている。

私はあたかもレオナルド・ダ・ヴィンチの最後の晩餐のイエスが孤独に見える効果のように周囲に孤独感を強調されていた。


一人で食べる弁当は私が作ったものだが、美味しくない。兄さんの弁当と中身は同じだ。だから、兄さんの弁当が美味しくないとなれば嫌なので、これが私の錯覚であればいいと思う。


弁当を食べ終わったので、部活動でも見に行こうと思う。

誰かに誘われることはないと思うので一人だ。


兄さんが入るという、写真部という部活を見に行こうと私は思った。


兄さんの趣味は私の趣味とほとんど合わない。だから、写真部の部活は私の趣味嗜好に合わないとわかっていた。事実、私は写真に興味はなかった。

それなのに写真部に向かったのは、孤独を感じる私の心が、兄さんに温もりのようなものを感じているからだろうか。


***


写真部の部室はそこまで、ボロい訳でも綺麗な訳でもなかった。

普通の文化部の部室だ。

だが、昔から無駄に鋭い私はこの部屋に違和感を覚えた。

作り出された"普通"。昔の私に共鳴でもしたのだろうか?


クロックアップされた思考が、部屋の不自然さを探す。


パソコンのマウスの置かれた角度。

乱雑に置かれた資料。

データが入っていると思しきメモリーカードの配置。


思考はそれらを不自然だと認識し、

私に、作られた"普通"だと告げる。


そこにあるパソコンを開きたい衝動に駆られたが入る気もない部活だと、私自身を説得し、部室から出た。

出ようとした。


「写真部に入りたい生徒か?」

「いえ、兄さんが入ると言っていたので気になって。それと、この部屋が不自然な気がしたので見てました。」

「・・・不自然?どこがだ?」

「聞きたいのですか?ただの自論ですよ?

えーっと、まずマウスの向きが、本来使っているものであれば、最後にシャットダウンするために右に動かす必要があります。あっ、シャットダウンはランプが消えているのでシャットダウンしたと考えました。なのに、ここではマウスが左に寄っているように思います。

あとは資料は雑に載せてあるように見えますが、なぜか全て部屋の手前側を向いてます。雑に乗せたのにこれは不自然です。

また、メモリーカードは重なり方が不自然です。一枚ずつ入れていけば、もっと隙間が小さくなると思います。・・・etc

・・・ざっとこれくらいです。」

数分間に及ぶ結衣の指摘に、写真部の先輩らしき生徒は唖然とする。

「・・・あ、ああ、そうか。」

「いや、別に気にするつもりはないんですが、一応兄さんが入る部活なので。他のところに行ってきます。」

私はなぜあんなに言ってしまったのか後悔しながら別の部活のところに向かった。


*****


先ほどの生徒がCARP本体の電話機能で何処かと連絡をする。

「やばい、部室を使ってないのがばれた。紳士協会の本体が写真部にあることまでバレるかもしれん。」

『なに!?ばれた?どういうことだ。』

「俺が来たときに居た生徒がいて、そいつがこの部室は不自然だといってきて。それが、すっげえ理論的で、マジやべえよ。」

『つまり、そいつには写真部が裏の顔を持っている事に気付かれる可能性があると。』

「そうだ。」

『そうか・・・。』

話はそれで終わった。


*****




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