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第六話

答辞は自分で言うのもなんだがよくできたと思う。

思いたかった。

この後、校長に入学証書を学年代表で手渡された。しかし答辞のことで頭がいっぱいで、ほとんど体が覚えていたことに頼っていた。


***


新規生は教室が入試成績で決まり、備品まで違う。

どこぞの小説の学校のように最下級は卓袱台なんてことはないが、成績が良ければかなりいい設備になる。

この際に入試成績も発表されるため、掲示板は混んでしまう。

だから、学園の広さを利用して掲示板は幾つか立てられる。

だが、数を多くしてもやはり人集りができるのは仕方ないことだった。


***


私はSクラスが決定しているので、掲示板は見ない。

兄さんを探すのをやらないのは兄さんの迷惑になるだろうからだ。ちなみに兄さんは補欠なのでFクラス確定である。


学園内では科とクラスを示すバッチを原則着用しなければならない。

Sとそれぞれの科のA〜Fでクラスが分かれている。Sクラスは例外的に全ての科に共通だ。

なので、自分のクラスを言う時は高1-G1-Aとなる。Sの場合は高1-Sでいい。


それぞれの科は普通科G1、2、技術科T、芸術科A、体育科Pである。

なお、普通科のG1、2は理系と文系だ。入試は同じだが、成績と本人の希望で別れる。

技術科や芸術科は入試の点数がいくらか減り、その分それらの試験の点数が入る。体育科は中学校もしくはスポーツ委員会による推薦のみだ。


***


兄さんは普通科でもG1を選んだ。

技能的には技術科でよかった気もするが。


なので兄さんは高1-G1-Fである。


その教室を今頃探しているだろう。


私が今いるのはSクラス教室だ。

私は可動用にコロがついたソファのようなイスを窓まで運び、外を見ている。

そこではまだ掲示板を見ている学生がいた。


私のことが話題に上ったのか、私に視線を向ける生徒がいる。


自慢ではないが、992点という点数がいかに高いかということは、次席が800点代前半であることを考えればわかる。

私の科目別成績は九科目が満点で一位、もう一つは僅差で二位だ。

私が唯一、一位でなかった科目で一位を取ったFクラス(・・・・)の少年はきっとたくさんの人に囲まれているのだろう。


才能は人の喝采を浴びるが、過ぎた才能は得体の知れないものへの恐怖しか生まない。


これは長くて短いこれまでの私の人生で学んだことの一つだ。


***


掲示板の前から生徒が消えてしばらく経った。しかし、私は今だ外を見ていた。


「柏原さ、くん。もう、ホームルームを始めますよ。」

突然声を掛けられる。それは学生のものではなく先生のものだった。


いつの間に立っていたのだろうと思ったが、事前に覚えていた自分の席に戻る。


「CARPを接続してください。」


この学園はCARPの着用が義務になっている先進的、かつ試験的な学園だ。


席に埋め込められた個人用のPCに自分のCARP本体を接続コードで繋ぐ。接続コードは席に置いてあった。

「私は1年Sクラス担任の橋下 理玖子(りくこ)です。一年間よろしくお願いします。」


視界にはCARPによって映し出される簡単な紹介アニメーション現れる。


CARPの使用に慣れている生徒はあまり驚かない。しかし、CARPの使用が少ない生徒も少なからずいて、彼らは驚いていた。


CARPはまだあまり普及していない。

高級品は値段が天井知らずなのは相変わらずだが、下級品でも高いのだ。

しかし、学園はそれの購入を補助している。だから、中所得者程度の出身であれば買うことができ、この学園に通うことができるのだ。


むろん、私は前者だ。

CARPの使用には慣れている。


担任の先生である女性は少し反応を見てから続ける。

「教えている科目は数学です。何かあれば、数学科室に来てください。たいていそこにいます。自己紹介からはじめましょう。では前から、柏原結衣くん。」

成績順に並んで座っているので、私が最初になるのは当然だ。

「柏原結衣です。女みたいな名前で容姿で声ですが男です。一年間よろしくお願いします。」

まるで朗読するように言って、終わりにする。

「次、吉田悠太くん。」

「はい、吉田悠太です。えーっと、得意なことは口笛です。」

まさかの口笛にみんなが笑う。

「一年間よろしくお願いします。」

橋下先生は順番に自己紹介させていった。


***


ようやく自己紹介が終わり、昔とは違いCARPに資料が送られるのでもうやることはない。予定では今日はもう帰ることができる。


課題を集めるよう先生が言った。

課題は総合得点900点以下の生徒に出されるものだ。

しかし、私の列の集める人は全ての人の課題だと誤解したようだ。

「えーっと、柏原さん?課題忘れたの?」

「課題は900点以下の生徒に対して出されるものです。私は該当しません。」

その生徒は顔を引き攣らせて先生の元まで歩いて行った。

先生は数を数えた後、私の方を向いた。間違えていないことを確認したのだ。

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