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第五話

次の日、今日は聖昴学園入学式当日だ。


私たちは同じ時間に行くと兄さんが言ったので、私の行く時間にあった時間に行くことになる。

その提案が私には少し心苦しかったけど、嬉しかった。


やっぱり兄さんは起きるのが遅いので、私が朝食を用意して、出来たら兄さんを起こしに行った。


兄さんは辛うじて、ベッドで寝ていたが机には課題の問題集が置いてある。

見てみると、少し終わってなかった。

きっと、昨日終わらなかったんだろう。

私はズルになってしまうけど、残りを終わらせた。

私たちの字は特徴がよく似ているらしくて、機械で判別できない。これを(兄さんが)利用して、私が兄さんの分をやったことがよくあった。

似せて書いたし、たぶん大丈夫だろう。


時間は3分も経っていなかったから、少しご飯を食べるのを急げばいつもの時間に学校に行ける。


兄さんを布団の上から揺さぶって起こした。


朝食を取って、私は制服に着替える。

兄さんも制服だ。


聖昴学園は入学式などの式辞がなければ私服でいい。

私服と言っても、過度な露出はもちろんダメだ。また、エンブレムのついたものを見える位置に配置しなければならない。


駅では二人乗りの路線車にのり、対面で座る。


兄さんと向き合うように座ることになり、兄さんは窓の外を見た。

私にはそれが、顔を逸らしたように感じられる。


兄さんの瞳が陰ったように見えた。


でも、私は知っている。

兄さんはあの子と会いたいことを、

そして、あの子とは私であること(・・・・・・)を。


「・・・兄さん、私・・・なんでもないっ。」

なぜか告白しそうになり、言葉に詰まり。辞める。


車内にはやはり微妙な空気が流れながら、駅に着いた。


校舎には私以外まだ入れないので兄さんは待つことになる。


私は兄さんと別れ、校舎に入って行った。



*****



side 柏原 祥介


俺は結衣が校舎に行ってしまい一人になった。

覚悟していたので、別に悲しくはない。


結衣を見ているとあの子を思い出す。

小さい頃一緒に遊んだ金髪(・・)のあの子。


まあそんなことはどうでもいい。


この時間に学園に来ている新入生は部活動を見たい生徒か早く来すぎたせっかちな生徒だ。


周囲から見れば俺は後者の生徒に見えるだろう。

俺は写真部に顔を出すことにした。


写真部の部室はあらかじめ教えてもらっていたので、迷わず向かう。


部室に着くと先輩方に驚かれた。

「早いなぁ、見に来たわけじゃないんだろう?」

「当然です。今日は弟のツレです。」

「お前、弟いるのか?同学年ってことは双子か?なんで集会には連れてこないんだ?」

先輩は立て続けに質問してくる。

「いえ、俺の弟はそういうタイプじゃないっていうか。あ、結衣って言うんですけど。まず、双子じゃありませんし。」


「じゃあ、年子か。」

「珍しいな。」

先輩はすぐに理解する。

「いまは別れて行動中か?」

「はい、別れてといえばそうですね。ですが、結衣は主席なんで。俺は補欠ですけど。同じ血が通ってるとは思えない。」

「主席ってマジか!」

「まあ、頑張れ若人よ。」


俺は紳士協会(しゃしんぶ)に入ることは決めていたが、兼部も考えていたため、

その話をして、先輩方と別れる。


時間は入学式が行われるホールが開く時間になっていたので戻る。


入学式会場は自信がある者、成績優秀者が前に行く傾向にある。

俺はそれに逆らうつもりもなく、後ろの方に座った。


昨日、夜遅くまで課題をやったせいで眠い。

入学式が始まるまで時間がある。

俺は寝ることにした。


***


騒がしい音で俺は目覚める。

入学式が始まろうとしているのだ。

俺の隣の席には知らない女子が座っている。


起き上がり、舞台上を見たが結衣の姿はない。

始まったかと思ったが、まだなようだ。

視界の隅に映った時間的にもまだだ。


暇なので隣の女子たちの会話に耳を傾ける。


「折角、この学園に入ったのに寝てるのはないよ。」

「でもかっこいいよ。」

「それよりも、解除に入る時に会った人の方がいいって。」

三人の少女が話しているようだ。

「でさぁ、どうする部活。」

「私は水泳部に入ると思う。」

「えーっ、水着だよ?自信あんの?」

「プロポーションには自信ないけど、水泳自体になら・・・。」

「私は文芸部かな。」

「文芸って、古くない?」

「私の勝手でしょ。それに古典文学やってるわけじゃないし。ミカはどうなの?」

「私はまだ決めてないし、出会い系の部活があればなぁ」

「出会い系!?何それ?」

「いい男子と会える部活。まだ部活勧誘期間も始まってないのに、まだ決められないよ。」


無意味な雑談が続くので、省略。


***


入学式が始まる時間になった。


校長に見える男や先生方が出てきて、壇上のイスに座る。

結衣も出てきて座った。



*****



side 柏原 結衣


壇上に私が現れると多くの目線が私に向かう。先生方の中で一人制服を着れば目立つのは当然だ。


私の出番を壇上で待つ。


校長はそれほど長い話はしなかった。

そんな気がした。


「新入生総代、得点10科目1000点中992点。柏原結衣・・・くんより新入生を代表して

答辞をお願いします。」


992点は歴代最高得点だ。

この数字は、実は九つの科目が満点で、一つの科目だけ92点という結果なのだった。


私の名前が呼ばれたので、

席を立ち、演台まで歩く。


たくさんの学生が座っている中に私は兄さんを見つけた。

兄さんだけを見つめると、周りに誰もいないように錯覚できた。

小さく息を吸い、予定していた通りの発音、声量、声の高さで暗記した文を言う。


***



「・・・です。新入生総代 柏原結衣。」


拍手の音がホールに響いた。

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