第三話
side 柏原 祥介
俺には弟がいる。
ただし、とても頭がよくてかわいい。
かわいいというのは弟を思いやる的な意味ではない。
結衣は少女にしか見えない。
所謂男の娘というやつだ。
名前も体格も声も一人称も少女のものだから間違えられることは多かった。
結衣は最近、特に女性っぽくなったと思う。
そして、俺を避けるようになった。
まさか俺が、弟がTSしたというエロ本を持っていることを知っているはずはない。
あれは既に本棚の裏側に置いてある。
見つかるはずはない。
結衣は学年主席になった。
また、俺から結衣は離れて行った。
*****
俺が起きるのは結衣と違って遅い。
春休みには結衣に朝早く起きなければならないという迷惑をかけていることを考えて、俺も朝の支度を引き受けるといった。
しかし、結局結衣はいつも朝早く起きていて俺が朝食を作るのを待っているから、その方が迷惑だったかもしれない。
今日はまだ入学式の前日、春休みだ。
しかし、朝起きると結衣が居なかった。
その代わりテーブルには置き手紙。
家出か!と思ったが、入学式の答辞の練習らしい。
冷蔵庫に手紙に書いてあるように朝食が入っていたので取り出して食べる。
今日冷蔵庫に入れることを考えて、メニューを決めたらしく、冷やして食べる食事だった。
一人で食べる食事は久しぶりだ。
両親が単(?)身赴任しているので、結衣と俺で二人暮らしだ。だから、食事はほとんど家だ。違うものを食べる理由も、違う時間に食べる理由もなく、だいたい一緒のものを一緒に食べている。
今日も集会なので、外出する。
結衣にいつも言わないのは申し訳ないが、着いてこられると、とても困る。
適当な服を着て家を出る。
鍵は電子キーと物理キー(鍵の形により鍵が掛かる仕組みの鍵のこと)を掛け古典的だが引いて確かめる。
CARPで集会の場所が変わってないことを確認し、駅に向かう。
降りる駅は学園のある駅の一つ前。《邑ヶ丘駅》だ。
邑ヶ丘は学園街にある駅だ。聖昴学園の学生が利用することもある駅である。
集会はそこの少し裏路地に入った場所で行われる。
そこにはかなり大きな体育館のような施設がある。
この施設は学園が所有しているものだが、使用されて居なかった。売却されそうになったところを俺たちのクラブで引き取ったのだ。
クラブの名前は通称、紳士協会。
無駄に優秀な技術スタッフが、撮った写真の撮影や編集を行っている。
盗撮などはバレたことがないらしく、その技術の高さがわかる。
名目では、写真部という名前で活動しており、実際に文化祭などでは撮った写真の公開などもしているので、生徒会などにばれているが潰されない。
性癖ごとに固まって話をし、時に別の性癖の人々と争う。これが集会で主に行われることだ。
紳士協会には掟がある。
まず、表沙汰にできないことはバレないようにやること。
個人の性癖や趣味などは決して外で言いふらさないこと。
写真などは絶対に横流ししないこと。こんな写真がいいと紹介するのはOK。
これが主な掟だ。
二つ目にはメンバーに入っている情報も含まれる。また、三つ目は女子や反対勢力に渡らないようにするためだ。
いくつか他にもあるがあまり縁がないことなので割愛する。
メンバーに入ったのは、実は合格発表の後だった。結衣と行った合格発表の日に、俺に紳士協会と共通する何かがあると見抜いた先輩が集会に誘ってくれたのだ。
このクラブに入ってから少しして結衣との関係が遠くなった気がする。しかし、結衣は俺がクラブに入っていることどころか、クラブの内容すら知らないはずだ。
家に帰ると結衣はまだ居なかった。