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第一話

この世界にはTS病というものが存在する。

TS病とは急性性別変化症というもので、厳密にはこれは病気ではない。


この世界では性別というものは出生後でもある程度変えられることができる。


この世界の生物はオスやメスが一方に偏ると性別が変わることがあるのだ。


しかし、哺乳類でも大型のものはほとんど変化しない。この原因は詳しくはわかっていないが性器の構造の再構築が難しくなるからだと言われている。

そして、この変化は動物である私たち人類にも起こりえる。

これがTS病の正体だ。


この変化の研究により人体で、同じ人の違う性別の性器を作りだすことに成功した。

ただしこれはまだ遺伝子の変化まで再現できていないので子供を作ることはできない。


TS病の発生は人類では特別少なく、記録に残っているものではたった3人しかいない。

一人はまだ存命で、25歳のときに発病した元男性である。現在38歳になる筈だが、なぜかその体は十代の女性のように若いそうだ。


TS病はある程度認知度のある病気だ。

これは症状が独特であることの他に創作物の影響がある。それはアルビノ、先天性色素欠乏症の有名さに似ていた。



*****



2053年日本 関東自治区 住所区分:松宮


side 柏原 結衣


私こと、柏原結衣は21世紀の後半を生きる高校生だ。

正確には高校生になる、だが。


私という一人称だが、私は歴とした男性だ。

これは、幼稚園か小学校の時に先生に「なんで"僕"なの?早めに(私に)直した方がいいよ」と言われたからだ。

その先生は私の性別を勘違いしていたようで、幼い頃だから性的な問題もあまり起こらなかった。

勘違いされたということからわかるように、大変不本意ながら私の顔立ちは女性っぽい(名前も女性っぽいが)。

このことで中学の時に色々あったが今話す必要はないだろう。


私には兄さんがいる。

柏原祥介という名前だ。

私の両親は既に亡くなっていて、それを私たちに隠すためにただの年子の兄弟としたそうだ。

本当は従兄弟だけど、ちょうど年子のように誕生日の差が1年より少し短い程度だから同じ学年として学校には通うことができた。


そして、私たちが実は従兄弟だということを兄さんは知らない。


兄さんはとても優しい。

かっこいいしモテるんじゃないだろうか?

私を心配して、同じ高校に入るため猛烈に勉強して補欠だけど入った。


二、三十年前までは学校に入ることが重要で、入試成績が悪くても入ってから頑張ればよかったそうだが、いまは違う。

昔と比べて、一つの学校が大きくなり人数も増えたため、入った学校より成績の方が重視される。だから補欠入学で兄さんが入ったことは一つの将来のための道ではあるけれど歓迎はされない。


成績は私の方がずっと上だけど、兄さんはとても頑張り屋だ。

ちなみに私は学年主席になってしまった。

さっきは成績が大事とか言っていたがテストのときのことは後悔している。



*****



中学校を卒業し、春休みに入ったある日。

その変化に早めに気付いたのは偶然だった。


男性の象徴が少し小さくなっていた。

元々小さかったかもしれないが、別にそのことに一喜一憂するつもりはない。しかし、それに対する驚きは大きかった。


その後二、三日で収まる気配はなく、さらに小さくなっていく。

どんな奇病にかかったのかと思い、ネット検索をすると、年老いてどうのこうのや薬でどうのこうのなどが出てきたが、一つのブログがヒットした。


興味本位で覗くと、英語で書かれたTS病患者のブログでそこに書かれていた病気の進行がヒットしたようだ。


さらに調べるとブログの人しか今患者は居ないらしい。


(——•••じゃあ、私は全世界で現在患者が一人しか居ないTS病にかかったってこと!?)


私は驚きを覚えたが、私の冷静な部分は完全に女性になったときのことを考えて、すでに行動をしておくべきだと考えていた。


まず、女性という性別に起こることを調べる。

中学のとき色々あったので、パソコンは得意だ。

少し時間がかかったが、ナプキンや下着など買った方がいいものがわかった。

ただし、下着はどれくらいのサイズになるかわからないのでまだ買えない。


兄さんに言ったほうがいいだろう。

ちなみに私たちの両親は海外に行っていてほとんど帰ってこない。


兄さんの部屋に向かったが誰もいなかった。

財布などがなくなっている。


リビングなどを探したがいなかった。

最近よく私に言わず外出するし、今回もそうだろう。

「最近、外出多いなぁ。言ってくれればいいのに……ん?」

兄さんの部屋のドアを閉め忘れていたので部屋の前に来ると、ベッドの下に何かが見えた気がした。


「なんだこれ?」


気になったので部屋に入ってそれを取り出した。

……それは一般的男子高校生が若いリビドーを発散するための本だった。

一応私も男子だ興味がないはずもない。


「えーっと、《男の娘な弟がTSしていたのでおk・・・ッ!!!」

顔が真っ赤になっているのが自分でもわかる。


もし兄さんが、私がTS病にかかったって知ったら・・・?

兄さんはそんなことをしないはずだとわかっているはずなのに、兄さんに押し倒される状況が頭に浮かぶ。

「ないないないないッ!!」

いつの間にか声にまで出していた。


……結果として、万が一を考えて隠すことにした。


***


さらに数日後、男性の象徴はほぼ完全になくなっていた。

徐々に無くなった影響か違和感はあまりない。

ちなみに学術的に価値のあるものになりそうだったので、経過を写真で撮ってある。自分の股間にカメラを向けるのは凄く恥ずかしいことだとわかったが。


ある日から段々と女性にある穴が開き始めた。

親知らずが生えて来るような感じで、痛みは少しはあるが、耐えられないほどでは無い。


乳首が腫れて痛くなり、胸が大きくなってきた。

だが、その痛みは尋常ではない。考えてみれば当然だ。思春期にある程度の期間をかけて行われる変化をたった一週間とそこらで行っているのだ。


***


今日の朝食の支度は私がすることになっていた。

兄さんの方が料理に関しては上手いと思うが私も少し自信がある。



私は健康に気を遣っている訳ではないが、野菜は好きだ。

酢を気持ち多くしてあっさり目のドレッシングを作り、洗って切った野菜を盛り付けた皿にかける。

事前にマリネしておいたサーモンを軽く炒め、刻んだ余りの野菜と盛り合わせ、オリーブオイルとバルサミコ酢を混ぜただけの簡単なソースをかける。

ヨーグルトを器に入れて出来上がりだ。


「兄さんー!!ご飯できたよー!!」

兄さんと私の部屋は二階にあるので少し声を大きくしなければ聞こえない。


しばらくすると兄さんが降りてきた。

ボサボサの頭を掻きながら兄さんが現れる。


「おはよう。結衣」

「おはよう。兄さん」


テーブルに座って食事を始める。

「テレビを」

兄さんは私に言ったのではない、室内にある集音装置に言ったのだ。


現在は家にコンピュータが内蔵されていることが多く、この家も例外ではない。

音声認識技術と言葉の認識技術の発達は遠回しの言い方でもしっかりと認識してくれる。


テレビをつけることを示唆した兄さんの命令に反応し、テレビをつける。

3Dにもできるが、私たちは2Dで見ることの方が多い。


兄さんが空中で手を動かす。

傍から見れば、変な人だが現在の人々はすぐに仮想パネルを使用していることに思い至る。


仮想パネルはコンタクトレンズ型のコードレス映像投射機(CARPと略される)が視界に映し出すもので、指の動きを認識して操作できるというものだ。

コンタクトレンズ型といったが、ヘッドホンの音を流す部分を外したような形状の——ただし、丸刈りでもない限り髪に隠れて見えないようになっている——付属部品もつけているので、実はコンタクトレンズの形ではない。これは開発当初はコンタクトレンズのみで、その名前をなぜか受け継いでいるのだ。付属部品は脳内の情報を認識するというものでその役割は大きく、かつ、かなり高度ものなので、いい加減変えた方がいいと思うのだが……。


CARPはVR技術の前身とも言えるものであるが、その間にはかなりの技術的差がある。

VRには考案当初から主に三つの問題があるとされてきた。

脳内情報の入手、大量の情報の処理、脳への情報の改竄がその問題だ。

昔の小説のように、全てを天才が同時にクリアするなんてことは起こるはずもなく、遅々として、しかし、確実に進歩してきた。

現状、三つのうち二つはクリアしたが、脳の情報の改竄という課題を乗り越えることはできていない。


CARPには他にも機能が有り、時間の表示やメッセージの表示など、これまで携帯電話がもっていた役割のほとんどをこれで賄える。

なお、CARPには本体がありそれの持ち運びが必要だ。


兄さんは仮想パネルでテレビのチャンネルを変え、国営放送のニュースを映した。


***


あれからさらに数日後、私の体の変化はほとんど終わったようで、ウエストもバッチリくびれ、胸もかなりの大きさになった。自分で言うのもなんだがいいプロポーションだと思う。胸は邪魔だが。


胸の大きさの変化も終わったので、下着を買おうと思う。運のいいことにまだ初潮は来なかった。なお、ナプキンのほうを買うことにした。


男子の服装でそういった店に入るのは精神的に辛いので、文化祭で渡された女装用の服を着てスーパーに行く。


***


スーパーの下着売り場に着いたが入れる気がしない。

ええい、いまは女だけど男は度胸!!


当然だが、下着売り場に入っても誰にも何も言われない。


店員さんに話しかけ、下着が欲しい旨を言う。

「あの〜。下着をくださいっ!!!」

ってなにいってるんだ、わたし!?

これじゃあ変態みたいじゃないか。

しかし、店員さんは正しく意味を理解したようで、

「サイズはわかりますか?」

「サイズですか?わからないです。」

「では、測らせていただきます。こっちにきてください。」

店員さんに試着用の部屋(?)に案内された。

「では、服をお脱ぎください。」

「は、裸ですか!?」

「いえ、裸でなくても測れますが正確ではなくなるので。」

裸になってから計測するとDだった。数字をそのあと言われたがそのサイズにあう下着を選ぶらしい。

現代の下着はある程度下着の方で修正してくれる。なら適当でいいのか、と聞いたら修正できるのは誤差程度らしい。

プリミティブだが、試着も重要だとのこと。


飾りの少ないものを試着していって丁度良さそうなものをショーツとセットで買うことにした。


男としての気持ち?

そんなの最初から捨ててます。


下着の付けごこちは良かった。

安定感がある。


店員さんには下着にボクサーパンツを履いていたことに少し驚かれた。


Dといったが、かなり着痩せするタイプだったのでAとはいかずとも、Bくらいには見えるようになっていて欲しい。


***


次にナプキンだが、これは消耗品売り場で買った。


これらの買い物をしたことをバレないように、そしてスーパーに行ったことを怪しまれないようあらかじめ決めていた買い物をする。


食料品で、安くなっているものを幾つか。

お菓子類は買おうか迷ったがやめた。

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