試練 5
大介は学校から帰るなり自分の部屋に入った。
おもむろに鞄を机の上に置いて、学ランを普段着に着替えてからステレオの前に座った。
そして鞄の中からコピー譜とMDを取り出して、ステレオにセットすると瞬時にスタートボタンを押した。
その後、脳みその皺に染み渡るまで、繰り返し何回も何回も大介は『BURN』を耳に流し込んだ。
しばらくすると大介は約40年前に作られた音楽が心地好くなってきた。
それは印象的なギターリフの所為ばかりとはいえなかった。ローギヤから加速するメロディー、ドラムとヴォーカルのグルーヴ感、加えて絶妙なタイミングでの間の取り方や息のあったコーラス。
さらにラジカルでバロック音楽にも通じるギター、キーボード・ソロ。これらのさまざまな要素が渾然一体となり、独特の色彩を放つハード・ロックこそディープ・パープルの真骨頂なのだ。
言葉ではクラシックとロックの融合と書くのはやさしい。だが、この組み合わせは女性の人気のあるクレープの中にようかんとか大福を入れるようなものなのだ。まあ、作る人のセンスが良ければ素晴らしい商品になるかもしれないが、俺は食べたくない、と大介は思った。そしてさらに詳しく『BURN』の分析に入った。
ギターリフ4回にはじまり、Aメロ、ギターリフ1回、A'メロ。そして「All I hear is burn」の9小節はサビと捉えた方がいい。ということは、このあとのギターリフにAメロ、A'メロと続き、ベーシストのグレン・ヒューズがうたう「You know we had no time〜」の場面は大サビと見るべきだろう。ここはユカが歌っているのか。
やはり難しいのはギター・ソロだ。リッチーのフレーズと同じ音を出すのに1か月しか猶予がないというのは致命的になりかねない事態であった。
加えて今まで経験したことのないスケールで指使いをマスターし、さらに一緒に演奏したことがないバンド・メンバーとレベルを合わせることまで考えると、とても落ち着いていられる心境ではなかった。
だが、1度やると決めたからにはどうしても後には引けなかった。なぜなら、ユキチのがっかりする表情だけは見たくない、と大介は心に決めていたからである。
いよいよユキチたちのバンド「DEAD PEOPLE」の『BURN』のMDをセットし、そして大介は彼女たちの実力を一つひとつ確かめるために全神経を集中させた。
4秒ぐらいのタイム・ラグからイントロのギターリフになり、間髪をいれずにドラムが呼応をはじめた。
そしてリフレインしながらヴォーカルへと突き進みユキチが声を張り上げる。(なかなかいい声だ)というのが大介の第一印象だった。
特にディープ・パープルの曲は楽器に負けないでうたうことが大事である。バックの演奏もリズムに乗ってなかなかのものだ。しかし、大介は聴く立場から演奏する立場に変わることの難しさを肌で感じていた。
今回で『コンピテンス』は終了します。しかし、4月から『コンピテンス2』としてつぎのステップに入ります。ご期待ください。




