強敵 5
その日の夕方、高校生活の記念すべき1日目を終えた大介と洋子は、互いにその印象を話していた。
中学の3年間は常に二人は同じクラスにいたから当然いつでも会うことができた。それが叶わなくなったことが洋子にはことのほかショックだったようで、大介に自分の気持ちを爆発させたのである。
「やっぱりわたし、大介に毎日会いたい」
「おいおい、いきなりなんだよ」
「大介と同じ高校に行く」
「無理をいうなよ。まだ別々の高校に行って初日じゃないか」
「わたし本気なんだから。大介のいない学校生活なんてなんの魅力もないもん」
「そういってくれるのは嬉しいけど、離れるのも悪くないんじゃないか」
「なぜよ」
「だって洋子今まで通りだったら、俺の存在とか、モヤモヤした感情がわからなかったわけだろ」
「わたしやっぱりやだ」
「だだっこみたいなこというなよ」
「自分の気持ちに嘘はつけないもん」
「しょうがないな、じゃあ毎日会える努力はしようか」
「本当?」
「うん、だけどがっかりさせるかもしれないけど、1ゕ月の猶予をくれないか」
「どうして1ゕ月も必要なのよ」
「それが慌ただしくなりそうなんだ」
「なにかあったの」
「それがさあ、俺の隣りの席に座った女がとんだ疫病神でさあ、本当にまいったよ」
「なにをいわれたの」
「うちの高校で毎年ゴールデンウィークに校長が主催する新入生のためのロック。フェスティバルがあるんだ。それにギターとしてバンドに加わってくれって頼まれたのさ」
「へぇー、大介の演奏が見れるんだ。いい話じゃない」
「それでさあ、その女の言葉遣いがひどいんだ。初対面なのにクラスのみんながいる前でオカマ呼ばわりさ」
「ふーん」
「俺も腹が立ったからいい返したんだ。でも瞳を見ていたら俺のことを真底必要としているって感じてさ、つい引き受けてしまったんだ。そいつ福沢夕子という名前だからユキチって呼んでくれとさ」
「福沢諭吉?大介その人かわいいんじゃない」
「話さなければという条件がついたらの話さ」
「やっぱりかわいいんだ」
洋子は気が気じゃなかった。ただでさえ高校が別で不安なのに、ライバル登場でハートはパンク寸前だった。




