出会い 4
「だけど、おまえより待遇が良くて将来性がある」
「まるで気の利かない保険みたいだ」
「世間から認められることも大事なことだ」
「俺はそうは思わない。他人からどう見られようと関係ないね。
人として生きる上で一番大切なことはどれだけ毎日を充実させるかだ。
金持ちの家庭で育ち、なんの不自由も感じたことのないおまえに人生のなにがわかる。
音楽ひとつをとっても大変な仕事だ。作曲ならヒット曲を生み出さなければ飯は食えない。
多くの作曲家たちは曲を作るときに神の審判を受けるんだ。
悩みぬいて、考えぬいて、そして最後までもがき苦しんだ者だけが、神からメロディーというメッセージが下りてくる。
人の心を打つ楽曲はそんなに簡単に生まれるものじゃない。
そんなギリギリの駆け引きの中で生まれるからこそ名曲なんだ。
社会に出て見栄と外面だけで人生を送ろうなんて夢をもった若者の生き方じゃない」
「よう大介、偉そうなことをいうな。その話だってどうせ誰かの受け売りだろ」
「確かに情報にはソースがある。だがなこの知識を得るために俺は何百冊という本を読み、どれだけ音楽番組に耳を傾けたか。俺には家庭教師の用意したカリキュラムなんて必要ないさ。どれだけ多くの無駄を繰り返したとしても情報の価値は自分で判断するものだ。そうしないと本物がわからないからだ」
「そんなに苦労したって報われない人間も多いんだろ」
「それはなんだって一緒だろ。音楽の道に進んだからといって確かなものなどなにもない。だがな、ひとつのものを創造し、その生み出したものが人々に受け入れられて流行となったとき、どれだけの快感を生むか、それがわかっている人間だけが残っていくのさ」
「ずいぶんわかったようなセリフだな。まあいいさ、俺はおまえが洋子にフラれるのを楽しみに待っているさ」
「繰り返すが、決めるのは俺じゃない」
「まあいい」




