選択 5
「ああ、ミュージシャンとしてのセンスは最高だ。
洋子だって達郎の傑作『クリスマス・イブ』は知っているだろう。
センスという点ではミスターチルドレンの桜井和寿もいい線いってる。
きっと詞と曲を同時に作るんだろうな、メロディーと歌詞の組み合わせが絶妙なんだ。ただ、プロデューサーの小林武史の存在が大きいけどね」
「わたしもミスチルは大好きだけど、小林さんて偉いの」
「偉いというより才能に恵まれた人だ。
サザンオールスターズのアレンジを手がけたこともあるんだよ。だけど、間違いなく努力をしているはずさ」
「ふーん、音楽ってアーティストの才能が全てだと思ってた」
「確かにアーティストの才能は大きいけど、周りのスタッフにも恵まれていなかったら、そうヒット曲を連発することなんてできないさ。たとえば洋子は朝食になにを食べる」
「トーストとヨーグルトとコーヒーぐらいかな」
「ずいぶんシンプルだね。
朝食を卵料理にするにしても毎日ハムエッグというわけにはいかないだろ。
オムレツになったり、スクランブルエッグになったり、ハードボイルドになったりしないか。
それにサラダがついて、トーストがついて、そして仕上げにコーヒーがついて完成する。
CDだって発売されるまでには作詞、作曲、編曲家にディレクターのサウンド面と、ジャケットやプロモーション・ビデオなどのヴィジュアル面のさまざまな人のスパイスが加えられて、それにプロデューサーという監督みたいな人が統括しているのさ。
だから一枚のCDには多くの制作者たちの夢がつまっていることを洋子にも知っておいてほしいな。やはりチームワークはとても大切なんだ」
「へぇー、大介はそこまで見えているんだ。すごいなー、わたしなんか将来の夢も生きがいもない」
「でも、将来俺がミュージシャンになったとしたら、苛酷な重圧と相対することを覚悟しなければならないんだ。なぜなら民衆の期待に応えるというとんでもないプレッシャーと闘うことを意味するからね」
「大介、たとえ世界中の誰もあなたの夢に気づかなくても、わたしだけはいつも傍にいてあなたの夢を見ていたいな」




