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文化祭-S 不惑

 志野原愛美〔しのはら いつみ〕に謝ったかと思えば、すでに栗石美晴〔くりいし みはる〕は怒鳴っていた。


(志野が怒らせている、つーのが……正解、だよなー?)

 二人の少女の奇妙な関係にいつもながら傍観を決め込み、笑っている彼女を眺める。

 今まで付き合ってきた「彼女」とは、最初から立場の違う愛美である。戸惑う感情があるのは当たり前で、だけれども手放す選択肢は選べなかった。

 校門で売り子姿の女の子たちに囲まれた時、一人で輪の外で途方に暮れる姿を放ってはおけなかった。

 フリとは言え「彼女」なのだから 当然 のことだと思う反面、アレは自分たちの通う帝都浦川高校内だけでの関係ではなかったか?

 人付き合いの不得手な愛美を守るための 手段 に過ぎない、そのハズだ。

 なのに。

 手を差し伸ばさずにはいられない。

 愛美を守るのは、真の仕事だと思うから。

(庇護欲か、それとも――独占欲?)

「真ちゃん……どうかした?」

 目が合ってすぐに、愛美は真の様子がおかしいと感じたようだ。心配そうに見上げてくる顔を、指で触れそうになって一瞬頬が熱くなる。

(なに、血迷ってんだ! 志野相手にっ)

 そう自らを叱咤するが、彼女と手を繋いだり腕を組んだりするのは思いの外、好きなのだ。

 今まで付き合った「彼女」には感じなかったクセに……愛美には感じる。そばにいるのだと思えるせいか、ひどく心地いい。


 君は、いつも知らないところで傷つくから――。


 だから。


 触れていたい、と思うのだ。

 甘えてくれたら、いいのに……と願うのだ。




 「真ちゃん?」と再び発せられた彼女の呼びかけは、それよりも大きい美晴の叫びに打ち消された。

「おまえら、付き合ってんの?! マジかよ……」

 確か、校門のところでの騒ぎの時に公言したと思ったが、その直後に要の問題発言を聞いた彼女には耳に届いていなかったらしい。

 胡乱げにこちらを眺めると、「聞いてない」と何故か拗ねた。

 なんでだ?

「志野原……おまえ、無駄にあたしに会いに来るくせに何で黙ってんの?」

「えー? あのね、美晴ちゃん」

「だぁっ! だから、「美晴ちゃん」じゃねぇっ!」

「もう、諦め悪いんだから……あのね、正規じゃないのよ?」

 諦め悪い、にカチンときたようだが、彼女は愛美の言葉に「はぁっ?」と怪訝に眉をひそめる。

 なおも、説明しようと口を開いた愛美の口を手で塞いで、真は自分の行動を抑制しようとは思わなかった。まったくもって、全然。

「志野、言わなくていいから」

 無性に腹立たしい気持ちになる。彼女に対してではない……自分、に対してだ。

「ふぉご〔でも〕! ふぉはいはれふふぉーっ〔誤解されるよーっ〕」

 必死にモゴモゴしつつ、真が放さないと知ると愛美は従順に大人しくなった。


「なんだよ? 春日が口止めしてんの?」


 仏頂面で美晴は真を見て、愛美へと視線を戻すと「よかったじゃん」と意外なほどにやわらかに笑った。

 (どうしたのかなぁ?)という愛美の探る目が見上げてきて、なんとなくため息がついて出た。


(不甲斐ねぇな、俺)


 この胸をしめる厄介な感情は……いまだ名前が見つからない。


次回、クリスマス編に続きます。

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