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文化祭-K 愉悦

 趣味が悪い、と我ながら思うことがある。

 けれど、それには彼女の方にも一定の要因があるのだ。

 まず、反応が 素直 だ。素直すぎて制御がきかない。表情にはすぐに出るし、誤魔化すよりも逃げることの方が多かった。

 そして、行動が面白い。予想よりも上をいく墓穴を掘るのは、彼女の専売特許と言ってもいい。

 そんなに襲われたいのかな? だったら、期待には応えるけどね。



「美晴、手が早いよ」


「おまえが、言うなっ! この、バカ要!!」

 顔を真っ赤にして吠える義妹は、横で頬をさする(お察しとは思うけど渾身の平手を食らいましたとも……美晴が誘ったクセにね)義理の兄を睨んでズカズカと大きな歩調で歩いている。修道女姿としては、いささかいただけない乱暴な歩き方で、つい頬がほころんでしまう。

「その格好、似合ってるね。美晴」

 制服のスカート姿以外、スカートはあまりはかない彼女のその格好は 貴重 である。

 しかして。

 ご機嫌ナナメの美晴は不機嫌な表情のまま、「世辞はいらねぇ……」と上機嫌の兄に低く唸った。

「似合うワケねぇじゃん、こんなの」

 ばっさばっさ、と紺色のスカートの裾を蹴りあげて、ぷいっとそっぽを向いたから、要は目を瞬いて(解ってないなあ)と苦笑する。

 美晴の可愛さは、常人世間一般の標準でははかれないものだ。つまり、要の趣味が少数派であり、むしろかなりの特殊な領域にあるのは否定できないし、自覚もしている。

( でも、僕は――君が好きなんだ )

 って、こと。

 美晴は全然理解をしていない。馬鹿だからね。

「笑うな! 馬鹿にしてんのかっ」

「まあ、ある意味 馬鹿 だとは思ってるかな?」

 途端、傷ついた表情。なに、それ、楽しくて仕方ない。

「可愛い、美晴」

 この本気の言葉が、どれくらい伝わっているのだろう。ほとんど通じていない気はしているけれど(兄妹の一線を越えても、意味はなかったな)、少しくらい肉体関係で流されてくれればいいのに。

「あ゛ーーっ! うるさいうるさいっ」

 頑なな彼女はブンブン腕を振り回し、手を繋ごうと伸ばした彼の手をバシンと振り払った。


「残念」


 ほんの少し、後悔の過ぎった美晴の表情に(今のところは)満足して要は並んで歩き出す。

(いつか、美晴から強請るように――したいな)

 なんて、心の内でほくそ笑んでいる。




 はぐれてしまった志野原愛美〔しのはら いつみ〕と春日真〔かすが しん〕の二人とは、なんとか合流出来た。それなりに賑わっている文化祭の人の多さでは、流石に歩いて探すのは無理かと思ったが……携帯を取り出す必要もないほど、ある意味想像以上の仲の良さに目を瞠る(腕組んで、屋台の食べ物を大量に買い込んでイチャイチャしていればイヤでも目立つワケだけどね? ご両人)。

「ごめん」

 顔を背けながらの美晴の謝罪に、突き飛ばされた側の彼女は「ううん」と何でもないことのように首を振ってふわりと笑った。

 それを見て、美晴は苦々しく舌打ちして「おまえ、甘過ぎだ。どんだけ優しいんだよ、バカじゃねぇ」と最後は詰〔なじ〕ったから、天の邪鬼過ぎて笑ってしまう。

「こらこら。美晴、そうじゃないだろう?」

「……ほんと、悪かった。反省してます」

 ペコリ、とようやく渋々(素直じゃないな!)頭を下げる。

「ンフフ、いいよ~テンパった美晴ちゃんも可愛かったし。その格好もすごくイイよ~撮っていい?」

 あたかも、どこかの芸人夫婦(とは言っても、春日の方は引き気味)みたいにカメラ(最近ではあまり見ないポケットカメラだ)を構えてくる。

 真っ赤になったあと、表情を引き攣らせた美晴が怒号を上げるまで、そう時間はかからない……だろうね。


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