収穫祭-M おちこぼれシスター!
栗石美晴〔くりいし みはる〕は悩んでいた。
が、高校生になっても女友達が少ない(女子校の生徒として致命的!)彼女には話を聞いてくれるような相手はいなくて、一人悶々とする日々。
その日は一人、電車に乗り自宅最寄り駅に着いた時だった。
「み・は・る・ちゃーん」
バァ、と改札の角から出てきた影に仰け反る。
「な、なにしてんだ?」
「ンフフ、美晴ちゃんのストーカー」
「すんな! つーか、「ちゃん」づけは止せっ」
「やだ」
即答かよ、くそっこういう時だけソッポ向くな……とウンザリしつつ、一ヶ月に一度程の頻度でやってくる自称ストーカー(つーのも妙だよな?)に目を遣る。非常に不本意ではあるが、コイツくらいにしか相談できそうにない自分の交友関係の狭さ浅さに、今更だが悔しさがこみ上げる。
けっして友人がいないわけではないけれど、煩わしい関係のほうが多いのだ。
それもこれも。
「要のせいだ……!」
「え? 栗石くん? そういえば、今日は一緒じゃないんだね」
パン、と無邪気に手のひらを鳴らして存外に嬉しそうに言う志野原愛美〔しのはら いつみ〕に美晴は「まぁな」とニヒルに微笑んでみせた。
愛美が栗石家自宅の前や駅の中、桂女(美晴の通う高校、桂林女子商業高校の略)の門などなどで待ち伏せするたび、美晴の隣には大抵彼女の義兄・栗石要〔くりいし かなめ〕がいる。
一度、門の前に彼=要と彼女=愛美が揃って立っていた時などは(何故に、いるっ!)と頭を抱え蹲ったものだ(遠い目)。
兄がいては、相談などできない。美晴の相談事とは、ズバリ要のことなのだから!
「志野原!」
「なに? 美晴ちゃん」
この際、「ちゃん」づけは黙認するしかあるまいっ!
「……ちょっと、いいか?」
「いいよ~、栗石くんのこと?」
「 ! 」
何故、ばれているのか……頭のいい人間っていうのは、察しがよすぎて怖すぎる……。
駅前のファーストフード店に入って、相談内容を聞いた愛美はニコニコ笑って……次第にキラキラとした輝きを放った。
な、なんでだ?
「ねぇ、美晴ちゃん」
……嫌な、予感がした。もしかして、いやもしかしなくてもコレはアレか。
「文化祭、わたしも行ってい?」
――墓穴?
「来・ん・な! 要が来るのをどうにかしたいって相談してんだよっ! 話を聞け!!」
おまえまで来てどうする?! 恥の上塗りかっ。
「えー? だって栗石くんが美晴ちゃんのメイド? だった? を見逃すなんてナイよ、ナイ」
断言かよ、と項垂れながら「メイドじゃねぇ、修道女〔シスター〕だ」ととりあえず訂正を試みてみる。まあ、大して違いはないがなっ!
「シスターかあ、なーんか背徳的だねぇ」
ギクリ。
つい肩を竦めそうになり、美晴は慌てて手元のバニラ味のシェーキに口をつけた。まだまだ外は暑いな!
「栗石くんに手、出されたりなんかしたりしちゃったりして!」
「ブゥッ!」
「いいね、いいね、青春だね♪」
ウキウキと弾んだ声で、彼女は楽しそうに(見たい見たい! と爛々と輝く)目を細めた。