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贈物-M→K バレンタインSS

バレンタイン小話、義兄妹編……際どい場面(単語)はありますが、Rはつかない程度だと思います。セキララな単語だけ、ご注意ください!

「って、やってられっかぁぁぁああ!」


 ぶんっ、と振り回した手から投げられた可愛らしい梱包をなされた小さな箱は、栗石美晴〔くりいし みはる〕の手を離れ、部屋の向こう側の壁に叩きつけられポトリと落ちる。

「 ……… 」

 自分の部屋の床に落ちた、その箱を無言で眺め(わ、わかってる。わかってるっつーの!)と平静を保とうと努力はした。が、恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。

 自他共に認める「天の邪鬼」としては……こんなものを、頬を染めて可愛らしく「はいっ(はぁと)」と手渡せる世の女子たち全員を全身全霊をかけて罵倒……じゃなかった、尊敬する(←コレ!)!

 大人しく落ちたままになっている小箱に、ソロリと近づき拾い上げる。

(せ、せっかく買ったんじゃねーか。あげなくて、どうする……そうだ、アレはすっげー恥ずかしかった! 志野原のヤツが春日にあげるってチョコ選ぶのに、無理矢理付き合わされて……つい出来心で)


 ……べつに、あげなくていいんじゃね?


 と、思い始めた。

 美晴の部屋の片隅には、バレンタインだからと託された恒例(クラスメートや元クラスメート、それに通学途中の見知らぬ女子とか、年上も年下もまんべんなく……毎年増えてやがる)兄宛のチョコレートが紙の手提げ袋いっぱいに鎮座しているのだ。あえて、自分があげる必要性を感じない。

 チラリ、とその山を眺めて、手の中にあるこじんまりとした箱を抱きしめる。

 唇が突き出してしまうのは、悔しいから。

「あたし、だって……好き、なんだよ」

 どんだけ好き、と思っても素直になるには天の邪鬼な性格が邪魔をする。

 親の再婚で義理の兄となった要〔かなめ〕は、そういう美晴の性格を熟知して「わかってるよ」と柔和な天使の微笑みで油断させ、とんでもないエッチなことをしてくる男〔ケダモノ〕だ。言わなくても察して、体をドロドロに融かして言わせるくらい……その時の美晴は、いつもより素直で少しだけ女の子になる。

 野生の動物みたいに、なる。

(ああああああっ! 思い出したら、死ねるっ!!)

 渡すか、渡さないかで堂々巡りを繰り返し、本能的に思い出してしまった過去の醜態にのたうち回る。


(なんか……なんか、要の言いそうなことが想像できるのが、イヤだ!)


 妹なんかよりも ずっと 複雑な思考回路を持つ兄が想像通りの行動〔こと〕をするとは考えにくいが、想像すると手渡す恥ずかしさも相まって神経が高ぶる。

 そんなことは、望んでない。ハズ――!

「ないないないない、絶対ないっ!!」

 叫んで、唸る。自己暗示にかけなければ、要の前に立つことすら今は無理そうだった。




 今日、何度目かのお断りの返事を口にして要は微笑んだ。


「ごめんね、今は恋人をつくるつもりないんだ。妹以外からはチョコレートも受け取らないよ」


 きっぱりとした言葉に、チョコレートの箱と一緒に何かの入った紙の手提げ袋を持った女の子が涙目になる。「どうしても、ダメですか?」と訴える根性には敬意を評するけれど、誰とも付き合う気はない。

「うん、ダメなんだ。期待されても応えられないから、僕のことは忘れてくれていいよ」

 僕も君のことは忘れる、と我ながら冷たいな……と思う言葉で突き放して背中を向ける。



 朝から呼び出されたり、校門から出れば呼び止められたり、といつもよりも時間がかかったことで、義理の妹である美晴の通う女子校に辿り着いた時にはすでに逃げられたあとだった。

 予想はしていたけれど、先に帰ったと言われて(少し……躾が必要かな?)などと物騒な閃きが脳裏を過ぎる。まあ、冗談だよ……今のはね。もうちょっと優しい ヤツ にしてあげる。

 また呼び止められそうな周囲に気づいて、首に巻いたマフラー(学校指定の灰色)を靡かせて早々に退散する。

 家の扉を開ければ、シンとしたまま灯りもついていない。靴はあるから、戻っているのだろうけれど自分の部屋に閉じ篭もっているらしい美晴は顔を見せなかった。

「美晴、戻ってる?」

 部屋のドアをノックして声をかけると、そろっと顔を出した彼女は上目遣いで「なんだよ?」と素っ気なく口にする。

「先に謝っておく、ごめんね」

「はぁっ?!」

 半開き程度のドアを力づくで開け、要は美晴に襲いかかった。

「なっ、なにすっ……ぅん!」

 ドン、と扉に背中を押しつけられた美晴が要を睨み、悪態さえ憎らしくて、愛しくて、それを紡ぐ唇を奪う。

「……はっ、ぁ」

 深く口づけた口の端から、どちらのものとも判断のつかない唾液がこぼれ、垂れる。

 艶めかしいそれを、指で拭い要は微笑んだ。

「美晴は。今日が何の日か、知ってるよね?」

「……知ら、ねぇ!」

 キッ、と睨んでくる彼女の顔は真っ赤で、明らかに嘘をついている。

「 だから、コレはチョコレートの代わり 」

 そう告げて、再び強引に口づけようとすると、「うわぁぁぁああ! あ、あ、あるっ!!」とグイグイと要の胸に何かを押しつけた。どうやら、ずっと胸に抱いていた モノ らしい。

 妹には似つかわしくない可愛らしい梱包の、今の季節よく目にするデザインだ。


「え?」


「ちょ、チョコレートが欲しいんだろ! やる。正真正銘、あたしが買ったヤツ!!」

 胸を張ってそっぽを向くと恥ずかしいのか、「じゃっ!」と慌てて部屋の中へ逃げようとした。

 けれど。

 甘いよ、美晴。

「待って」

 逃がさない、とばかりに扉に彼女を押しつけ、耳元に囁く。

「今日が僕の誕生日だって、知ってるよね?」


 知らない、はずがない。


「………」

「誕生日プレゼント、貰うよ――美晴。いいよね?」

 ひっ! と奮えた義妹の首筋に兄は舌を滑らせる。

(――大丈夫)

 今日は安全日じゃないから 最後 まではしない。残念だけれど、ね……ただ、そうだな。このチョコレートがなくなるくらいまでは、ゆっくりと「食べて」あげるよ。


以上、バレンタイン小話でした!

また、ネタが降ってきたら追加する予定です。が、いつになるか謎なので「完結」扱いにしておきます。


短い小話にお付き合いいただき、ありがとうございます。

少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです。


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