贈物-S→I バレンタインSS
バレンタイン小話、幼馴染編です。小話なだけに短いです!
その日、毎年の決まりきったことのように春日家のキッチンに志野原愛美〔しのはら いつみ〕は立っていて甘ったるい香りを漂わせて、その家の長男である真を出迎えると「おかえりなさい!」と無邪気に笑った。
「ただいま」
部活から帰った彼は、呆れてはいるもののもう彼女の存在には慣れたもので驚きはしない。
それどころか、(もうそんな季節かよ)と気づきさえする。
「真ちゃん、真ちゃん!」
冷蔵庫の中に作っていたものを納めた彼女は、ご主人様にまとわりつく子犬のようにやってくると真の腕にしがみついた。
「なに?」と目だけで問えば、頬を染めて告げる。
「もうすぐ、バレンタインでしょう?」
「ああ、……ソレ? さっき、気づいたよ」
「えぇ?! なんでっ??」
「……まあ、いいじゃん。で?」
心底驚いている愛美を(なんで、じゃねーよ)と心の中で力なく反論しつつ、笑みを含んで促した。
エヘヘ、と照れた様子で笑うと、「新生志野ちゃんの見せ所だよ!」と胸を張る。
大きくはない起伏の胸だけれど、そうすると少しだけ形がわかる。
目の端に映った、それをつい記憶して真は我ながら(男ってヤツは……)と自制する。自らを厳しく律しなければ、触ってしまいそうな空気が怖い。
(あー、もう。ほんと、男ってメンドクサイ)
たぶん、志野は拒まないしな……ため息が出た。
「バレンタイン・デート企画したのっ、お金は全部、わたし持ちだよ! 行こうよ~14日じゃなくてもいいし~」
なんとなく空気の重い真にまとわりついて、愛美は必死に売りこんだ。
この日のために、バイト代(なかなか一つのところで定着できないものだから、金額は当初より少ない)を貯めたのだ。去年とは違う、イロイロな意味で 大好きな彼 に喜んでもらいたい。そう、願っている。
「いいけど」
「ホント!」
ヤッター! と両手を挙げて跳ねる彼女に、真は困った顔で息をつく。
(あれ? なんで、そんな顔なの?)
「真ちゃん? 行きたくない?」
だったら、別のプランを考えなくちゃ! と真剣に考えて、愛美は彼を覗きこんだ。
「ばーか。行きたくない、ワケじゃねーよ」
「あいた!」
デコピンをされて、「ひどいー」と嘆けば彼は謝った。
「行きたくないんじゃなくて、イロイロあるんだよ。男には」
プライドとか、自制とか……なんとか、すっごく低い声で言ったから、よく聞きとれなかった。
「えー? 何? 詳しく教えてよー」
「はぁ? ヤダよ。絶対教えねー」
顔を顰めて、彼はそっぽを向いてしまった。むー! イジワルー。でも、好きーっ。
結局、デートプランは割り勘にされてしまった。
映画(ホラーにしたよ、だって抱きつけるもん!)とランチ、本当はディナーにしたかったけどお金と年齢がね……って言ったら、ものすっごく呆れられた。そういう問題じゃない、ってどういうコト?
で、ホテルに誘ってみたら見事に叩〔はた〕かれた。
でも、諦めずに真ちゃんの部屋まで粘ってみたらキスはしてもらえた(もちろん、わたしからもしたよ!)。胸も少しだけど触ってくれたし……この先は次回に期待、だよね!!
最後に手作りのチョコレートと、ちょっと高めのブランドチョコを渡したら変な顔をされた。うーん、真ちゃんって 難しい なぁ。
次は、義兄妹編です。引き続き、よろしければお付き合いください。




