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聖夜-K 秘密

R15程度の際どい会話を含みます。ご注意ください。

 キャンキャン吠えている義妹・栗石美晴〔くりいし みはる〕を要は眺めていた。一見柔和な微笑を浮かべるだけの彼だったが、内情はそう穏やかでもない。

 「兄離れができそうか?」という義兄の言葉に、逆上した彼女が「できる、なんて思ってねぇクセに聞くな!」と彼の手を力一杯撥ねつけてくる。

 キッ、と強く凄んで。

「できるんだったら、してるっつーの! できねぇから……あたしがどんな気持ちで……知ってるクセに遊ぶなんて趣味悪ぃ、バカにすんなっ」

「してない」

「今更言っても信じねー! 絶対、信じねーっ馬鹿にしてっ、からかってるだけだろっ」

「からかってないし、馬鹿にもしてない。馬鹿な子だな、とは思うけどね」

 微笑むと、警戒した眼差しが唸った。

「嘘つきは 嫌い だ」

「美晴」

 呼べば真っ赤になって、要の両の手のひらがその頬を包んで親指の腹が唇をなぞるとカチコンと固まった。

 何度もしているというのに、彼女の反応はいつも初めてみたいに初々しい。

「好きだよ」

 唇を重ねて、吸いつく。開いた中に舌を潜らせ、歯列をなぞる。

 ちゅ、と舌同士を絡めると淫らな水音が響いて、唇を離すと銀色の糸が互いの舌を繋いでいた。

 つい笑みがこぼれてしまう。

(初々しいのに、慣れちゃって……ホント困るな)

 ここは、カラオケボックス店の通路のど真ん中だ。いまはたまたま人がいないだけで、いつ見られたって不思議じゃない。

 こんなんで誤魔化されないからなっ! といまだ敵意をむき出しにして毛を逆立てている美晴を見つめ、要は彼女の手を取った。

「証明してあげる。――でも、場所は移そう。ここじゃ最後までできないし、僕はともかく美晴の裸を他人〔ひと〕に晒すのは嫌だよ」

 カーッと体中を真っ赤にして、「なっ! どっ! はぁっ?!」と狼狽えた彼女は恥じればいいのか、怒ればいいのか、あるいは逃げ出せばいいのかを悩むように彼の手を振り払おうとする。

 けれど、振り払えずに大人しくなって「エロい」と一言、手を握る兄を断じたのだった。




 夜更けになって、家の台所のテーブルで鶏肉にかぶりつく美晴に要は(いい食べっぷりだなあ)と目を細めた。

 その彼の表情をどう受け取ったものなのか、彼女は不機嫌に目をつり上げて「腹減ってんだよ、文句あっか!」と唸る。

「いや」

 文句はない。美晴のお腹を減らすような行為〔こと〕をしたのは要であるし、用意していた料理を食べるよりも先に彼女を食べてしまったのも 彼の 所業だ。

 首を傾けて「美味しい?」と微笑めば、唐揚げを頬張った美晴がポロリとそれを口から落とした。

 真っ赤になって狼狽える彼女の(油でテラテラになった)唇が、「無駄に色気を出しやがって……」と罵るのを見て「美晴ほどじゃないよ」と皮肉げに口角を上げる。


 つまりは、似たもの兄妹ということか?


(食べながら、――君を食べるのもアリかもしれない)

 などと、まさか要がほぼ本気の域で考えているとは知らずに(しかし、本能的には身の危険を感じている)美晴は「なんだよ?」と顔をしかめる。

「何も……ないよ。でも、さっき言ったことは本気だからね」

「さっき?」

「言っただろ? いつかちゃんと体裁を整えるって」

 そしたら、ちゃんと付き合える。

 今はどうしても世間体が悪いから、秘密の関係になってしまうけれど……義兄妹は結婚だって出来るんだし。

「忘れたの? 君の中で動いてる時に耳元で言ったろう?」

(ああ、そうか。あの時、美晴はほとんど意識がなかったんだな……気持ちよさそうにしてたのに)

 記憶にない、というふうに一生懸命思い出そうとしていた美晴が、「うわーっ!」と驚いて羞恥のせいか? ガタンと椅子から立ち上がって泣きそうな顔で否定した。


「 しっ、知らね―っ! 」


 ……真っ赤になって、可愛いね。


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