聖夜-M 合コン
義兄妹のクリスマス編です。
栗石美晴〔くりいし みはる〕は焦っていた。というのも、自分には絶対にお呼びのかからないものだと思っていた集まりに、不覚にも参加するハメに陥ったからだ。
しかも、である。
慣れない携帯を操って、真っ青になる。
(ば、バレてる――って、なんでだよっ!)
『 迎えに行くから、覚悟するように 』
映し出された画面には、義兄〔あに〕である要の短いけれど端的に意図を伝えるメールの文面があった。彼の怒りはもっともだ……ここまで、何とか美晴は自分でこの場を切り抜けようと嘘をついて誤魔化してきたのだ。
なのに。
クリスマスに、黙って合コンに参加しているなんて知れたなら……。
「や、やばい……」
ガッと携帯を閉じて握りしめ、周囲をキョロキョロと確認した。
とにかく、可及的速やかにここから離れなければ……。
「栗石さん」
ポンと肩に置かれた手は、クラスメートの女生徒のもの。鈴成百合〔すずなり ゆり〕といって、美晴をここに連れてきた張本人である。
うっすらと化粧をほどこした可愛い顔と、制服なのにおしゃれな身なりは同じ学校のクラスメートの中でも目立つ方の部類に入る。女子校だから校内ではほとんど男性との関わりがない分、彼女たちはこういう他校の男子生徒たちと交流を深めて楽しんでいるのだ。
「何してるの?」
「べ、べつにっ! なんにもしてねぇっ」
プイッ、と顔を背けて、くすくす笑う彼女に嫌な気分になる。
「お兄さん、いつ来てくれるかしら?」
「来ねぇよ! 来るわけねぇだろっ」
場所は伝えていないのだ、いくら嘘だとバレたとしてもここまですぐに要が迎えに来れるとは考えにくい。
即帰ろう、と踵を返した美晴の手首を百合がとって、ギュッと握りこんできた。
「ダメ、帰さない。お兄さん、紹介してよ……いいじゃない。あなただって今日の志方くんや古田くんとか嫌いじゃないでしょ? 兄離れしてみたら?」
ビクッ、とふるえて、美晴は「兄離れ」の言葉に反応してしまった。
「一度離れてみたら、案外平気かもよー?」
「……ふん」
睨みつけながら、振り払えずに渋々戻る。
それから、美晴のいるカラオケボックス店のその一室に栗石要がやってくるまで、小一時間もかからなかった。
予告なく開いた扉から現れた彼に、目を見開く。
「 美晴 」
名前を呼ばれて、素直になれるくらいなら天の邪鬼は名乗っていない。
「な、なんでっ?!」
ここが……わかったん、だ……?
ぐいっ、と腕を引っ張り上げられ、居心地の悪かった空間から離される。正直(肩とか足とか)不必要にベタベタされるのは我慢の限界だったから、ホッとする。
だけど。
「胡散、臭すぎるぞ……要」
「悪いけど、君のせいだよ――妹は、連れ帰らせて貰うよ。箱入りなのでね」
最初の部分はそばにいる美晴にだけ聞こえる声で、後半部は室内の人間にも聞こえるように告げる。
「箱入り」という単語が、美晴に見合うものとは到底思えない。けれど、要がそうだと言うのなら納得してしまうくらいには、彼の声には強い 説得力 があった。
要を合コンに誘い込もうと目論んでいた百合たちも、「帰るよ」と一縷の隙もなくふわりと微笑まれてはそれ以上縋ることもできなかったようで、恨めしげに美晴の方を見つめてくる。
特に、掴まれた腕のあたりだ。
「ホラ、行くよ。美晴」
促されて、その声のやわらかさにゾクッとした。
「兄離れ、できそう?」
低く密やかに耳のすぐそばで囁かれて、(コイツは、なんでっ、こんなに、意地悪! なんだろう……っ)と美晴は無性に腹が立って泣きたくなった。泣かない、けどなっ! くそったれ!!




