魚は深い場所に住むがボクらの考えは深くない
勝手な想像なのだけど魚は基本的に深いところにいるような気がする。
この勝手な想像なのだけどたぶんそんなに間違ってない。
ああ……釣れないなあ……
そう思ったら真っ先にやることは仕掛けを一番底に落とすことで、実際にそうしたら釣れる場合が多いからだ。
この深いところを釣るのに役立つのが胴付き仕掛けである。
どんな仕掛けか……
簡単に言えば一番下に錘が付いていて、途中にいくつかの枝糸がありその先に釣り針がついている仕掛けだと思っていただければ良い。
う――ん……。
百聞は一見に如かず。
もしこの仕掛けに興味のある方はネットで検索するとどんな仕掛けかが出てくるはずである。
さて、最近ではこの胴付き仕掛けで釣ることがボクの中でのブームなのである。
とにかくこの仕掛け、なんかやたらと釣れる。
もちろん以前に話したサビキ仕掛けに比べると釣れないが、あれは釣れない時の保険なので、保険を除けばこの胴付き仕掛けは実に良い仕掛けだと個人的には思っている。
ここ数年。
ボクは友人と釣りに行くことが少なくなり、息子と釣りに行くことが多い。
最近では彼も釣りの面白さが分かってきたらしく、釣り場でも他のことをせずに釣りに集中していることが多い。
うん。
釣れないとすぐにボラの呪いをかけだす父とはえらい違いだ。
いい釣り人になれるような気がするのは親バカなんだろうか。
『午後から釣りにでも行こうか?』
ボクが軽い感じでそんなことを言うと息子は『行く!』と二つ返事で答えてくれる。
たくさんの宿題が残っていようがおかまいなしだ。
きっとかみさんにバレたら怒られるに違いない。
『船だよね?』
息子は半信半疑でボクに聞く。
先日、船釣りデビューした息子は船だとそれなりの釣果が得られることを覚えてしまった。
船酔いに関しても薬を飲めばまったく酔わなかったし、もう彼にとっては楽しい時間だったのだ。
それで釣りといえば迷うことなく『船に乗る』という発想になってしまったのである。
ただ……
残念ながら釣行の度に船に乗れるほど時間もお金もないのだ。
『いや……そこらへんの堤防だよ』
『えええ――――。釣れないじゃん』
『まあ、釣れないだろうね』
『う――ん……』
『でも釣れるかもしれない』
『可能性は低いじゃん』
『まあね』
『どうしようかな――』
『家にいてもママに宿題やれと言われるだけだぞ』
悪い父親である。
結局、息子は勉強が嫌なので釣りに行くことにする。
かみさんが不在にしている時間を狙って外出してしまえば、釣りをしていてもそんなにバレない……ような気がする。
ボクら親子は悪い笑顔を浮かべながら車に乗り込み海に向かう。
釣り場に着くとすぐに胴付き仕掛けを使う。
本来はいつも行く場所ではカゴ釣りしかしないのだけど、最近では……カゴ釣りではあまり釣れなくなってきている。
ここのところどこへ行っても場が荒れているのか釣れないことが多い。
下手だからということもあるのだろうけど、周りを見回してもそんなに釣れてないから単純に魚が少なくなっているのだろうと思う。
そんなわけで一番底に仕掛けを落として釣る、胴付き仕掛けがマイブームなのだ。
『パパ!! なんかゴツゴツ来た!!!!』
息子は竿をあおりながら言う。
心配するな。
それは錘が底に当たった感触だから。
せっかく楽しんでいるのに横から気分の覚めるようなことを言うのも悪いのでボクは息子に『おお! 何かいるのかな?』と言っておく。
もちろん何もいないので釣れないのだけど。
なんど仕掛けを海に投入しても、魚は一切、仕掛けにかかってくれない。
ただ不思議なものでエサだけはなくなるのである。
たぶん、フグの類がエサだけ持って行ってしまっているのだろうけど。
時間は無常に流れていき、気が付けば周りも暗くなる。
エサもなくなり納竿にすることとした。
『ゴツゴツ来てたんだけどなあ』
息子は車の中でも少し興奮気味に言った。
『なんか釣れたら面白かったのにね』
呑気な会話をしながら、いい時間を過ごしたなあとボクは満足だった。
しかし……ボクは大事なことを忘れていた。
家に帰ったらかみさんがいるのだ。
何一つ勉強に手を付けていない息子とそれをチェックもせずに遊びに連れ出してしまったボクが、目を三角にしたかみさんから烈火のごとく怒られたのは言うまでもない。