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見かけた魚は?

 社会に出てからというものの、ボクが本格的に釣りに行くのは年に数回になっていた。

 なんでそんなに釣りに行く回数が少なくなってしまったかと言えば、それは仕事を始めて社会に馴染めず、そんな自分と悩みながら向き合い……気持ちが鬱々(うつうつ)することが多かったので、好きな釣りにさえ行く気になれなかったというのは正直なところだ。

 介護の仕事に就いて、仕事に慣れた頃には今度は仕事が面白くなってしまい、釣りにはあまり行かなくなってしまった。


 人生の無駄遣い……


 後になってそんな言葉が脳裏に浮かんだ。

 社会に馴染めないのは社会も悪いのだ……ぐらいに思っておけば良かったのだし、仕事が面白いわけがないということに早く気づけなかったのは愚かであるとしか言いようがない。

 仕事なんて面白くないからお金をもらえるのだ。

 楽しんで仕事をしてお金がもらえる人なんてごくわずかなのである。


 そんなことに頭の中の大半を持って行かれて若い時間を楽しめなかったのは痛恨(つうこん)の至りである。


 さて……

 介護の仕事が面白いのではなく、ただ単に恋人がほしかっただけということに気づいた時にはボクの隣にはすでにかみさんがいた。


 結婚してしまうと独身時代と違ってやらなければならないことが多くなる。

 日常生活においてさえ、自分一人でなんでも決めて行うことができない。

 まず決める前に妻の意見を聞いてから判断しなければならない。


 それが夫婦というものであり……

 家族と言うものだからだ。


 そうなると好きな釣りには早々行けるわけもない。


 そんな毎日を送っていたボクだが……

 子供ができてから転職した会社が大岡川の近くに事務所を構えていたのだ。


 毎日の仕事はあまり良いこともないし疲れることの方が多い。


 外回りの最中にため息をつきながら川を覗き込むことも少なくなかった。

 すると水面には様々な魚が見える。

 一番多いのは鯉なのだけど、事務所の近くは海水が上がってきている淡水と海水が混じった汽水域(きすいいき)という場所で、海の魚も目にすることが多かった。

 海の魚で一番目にするのはボラなのだけど、ごくたまにスズキを見かけることもあった。

 そして……なんと!


 クロダイを見かけることもあったのだ。


 仕事で辛いことがあって、ため息をつきながら川を覗き込むとそこにクロダイが泳いでいるのを見かけるとなんだか得した気分になる。

 それで仕事のモチベーションが上がったわけではないのだけど、それでも釣り人の本能を刺激されて、気分は少しだけ上向きにはなるのである。


 釣りに行けない。

 そして毎日の仕事がしんどい。


 そんな少しだけ辛い毎日を耐えることができたのは、かみさんと息子の支えが一番なのだけど、大岡川から見えた風景もちょびっとだけボクを癒してくれていたに違いない。

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