大岡川での奇妙な釣行記
先にこれだけは言っておきたい。
これは夢の話である。
以前の会社に勤めていた時、事務所の横に川があった。
その川の名前は『大岡川』
横浜市在住の方なら耳馴染みのある川かもしれない。
そんなに大きくない川だと認識していたのだけど、夢の中では大きな川だった。
川幅も15mぐらいあった。夢の中では……。
ただ実際にはその半分ぐらいの川幅である。
なぜかボクは目の前にある川が大岡川であることを認識していた。
何の違和感も感じなかったのは夢だからだろう。
側道を歩きながら水面を覗き込むと、いつものように大きなボラが鯉と仲良く泳いでいた。
海が近く、汽水域でもあるこのあたりはボラなどの海の魚が上がってくるのだ。
さて……
実釣開始。
この川の近くで仕事していた時はここで釣りをしようなどとは思わなかった。
なぜかと言えば水質が今一つなような気がしたからだ。都会の中心を流れる川に水質のいい川などあるわけがないという勝手な思い込みで、ボクはこの川で釣りをしようとは思わなかったのだ。
……なのになんでここで釣りをしているのだろうか。
理由は分からないけどあそこはそれなりに魚がいるので釣れるような気がする。
釣るだけですぐにリリースするなら問題はない。
そんな思いがここで釣りをさせようと思ったのだろうか。
大岡川の周りには多くの桜の木が植わっており、春になると花見客でにぎわう。
川沿いには旧区役所の大きな敷地があり、川を渡った反対側には野球で有名な市立高校が存在する。そこの学校はボートでも全国大会にでているらしく、大岡川でボートの練習をしている姿を頻繁に確認することができる。
夢の中ではそんな風景はなかった。
まあ、所詮夢である。
周りの風景などほとんどない。
薄暗い曇り空の中にいるような感覚である。
そんな中、ボクは釣りを始めた。
これがまた奇怪な仕掛けを作って釣り始めるのである。
長さが5mもある少し重い釣り竿。
磯竿か……と思いきやそんな感じでもない。
そもそもリールすらついていない。
こんな竿で何を釣ろうというのだろうか。
それにしても上から覗き込むと水面からは結構な高さだ。
これで大きな魚がかかったら取り込むのは難しいような気がする。というのもタモ網を持ってきていないからだ。
いや……実際にボクは何を釣りに来たのだろうか。
仕掛けを川の中央に投げるのではなく、際に落としていく。
落とし込み釣りだ。
ということはボクはクロダイを釣ろうとしているのだろう。
夢の中ではクロダイを釣っていることが多い。
そっと仕掛けを落としていく。
長い竿が少し邪魔くさい。この釣りはもっと短い竿でやる釣りなのだ。
すぐに手ごたえがある。
何かが釣れた。
すごい引きだ。
え?
おお!!
これは夢だし……
ここは一発、いい魚に違いない!
ボラだった……。
なんだよ……
ボラかよ……
と思いつつかかったボラを豪快に引き抜くと糸は切れずに無事に釣りあがってきた。
もちろん釣れても嬉しくもない。
ところが……だ。
いつの間にか隣にいる息子は大喜び。
『やった――!! 大きい!!!』
いや。
辞めろって。
恥ずかしいじゃん。
『ねえねえ、持って帰りたい!』
興奮気味に話す息子。
仕方ない。
持って帰るか……。
ボクはいつの間にか持っていた調理用のハサミでボラを〆て、これまたいつの間にかあった水くみバケツを使い水を汲み、ボラをそこに突っ込んだ。
よし。
とりあえず期待はできる。
ボラさえ釣れなければ、もうそこでは何も釣れない。
とにかくボラは釣れた。
ちょっと前向きに頑張ろう。
そう思ってボクは仕掛けを投入する。
残念ながらここで目が覚めてしまった。
この手の夢はなんで釣れる前に目が覚めてしまうのだろうか……。
え?
ボラ??
いや、現実にボラなら何回も釣ったことあるからできれば夢の中ぐらいクロダイが釣りたい。