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久良岐公園

 中学生の頃はそんなにお金もなかったし、高校受験や当時、神奈川方式と言われていたアチーブメントテストなどがあって、中学2年の頃から忙しかったのでそうそう遠出をして釣りをするわけにも行かなかった。


 それでもボクは、その頃から釣りが第一の生活をしており、勉強などしたいとも思っていなかったので隙を見つけては釣りに出かけていた。このころ、こんなに釣りばかりせずきちんと勉強していたら少しは違う人生が待っていたのかもしれない。

 だけど、もしここでボクがきちんと勉強し、違う高校に進学していたら保田くんをはじめとして多田くんや茨木くんなどの素敵な仲間と出会うこともなかったということを考えると人生というものはうまく帳尻が合うようにできているのだなと変に感心してしまうことがある。


 さて中学の頃……。

 お金もなければ、そこまで暇もないボクはどこに釣りに行ってたかというと、当時住んでいた自宅から歩いてでもいける久良岐公園という公園に行っていた。

 その公園には大きな池があって、そこでは鯉、フナ、クチボソなどが釣れたし、大きな池の隣には少し小さな菖蒲が自生している菖蒲池という池があり、そちらの池にはザリガニがおり、子供たちは夢中になってザリガニやクチボソなどを捕獲して楽しんでいた。

 

 ボクは家から近いということと、エサ代がほとんどかからないという利点からこの公園にはよく通っていた。エサ代がかからないのはなぜかというと、小麦粉と卵黄を混ぜたものをエサに使っていたからだ。冷蔵庫からちょっと拝借して……といっても返す予定はまったくなかったのだが、エサを作って釣りに出かける。


 たまに母親に嫌な顔をされるが、バレないようにうまくやる。

 まあ、卵一つぐらいならなくなってもそうバレはしない。


 このエサだが……案外釣れるのだ。


 でも今考えてみると別に卵黄は混ぜなくてもよかったような気がする。

 小麦粉を使っていたけど、別に古いパンを使えば十分だったと思う。

 後述するが、現に最終的にはボクはそのことに気づいて、この公園に釣りに行くときはパンしか使わなくなった。


 小麦粉に卵黄を混ぜたちょっと贅沢なエサを使うときはクチボソを釣る時だった。

 そもそも、クチボソにしたってこんな贅沢なエサはいらないのだ。

 そんなことに気づいたのは随分と後になってからである。


 さて、クチボソという魚は、その名の通り口が小さい小魚である。

 正式名称はなんというのだろうか。

 ちょっと調べたところ、モツゴというらしい。

 8㎝から11㎝……場合によってはそれ以上大きくなることもあるということだから、もしかしたらボクが過去にアブラハヤだと思って釣っていた魚はこのクチボソだったのかもしれない。

 ただこの公園ではそんな大きなクチボソは釣れなかった。

 大きくてせいぜい5㎝ぐらいのものだったので、口も小さく、針がかりもしづらかった。


 タナゴ釣りの外道に釣れるという話を聞いたが、タナゴはこの池にはあまりいなかった。

 一度、釣れているところを見たことがあるが、一度だけであるから、生息はしているが数が少なかったのか、それとも誰かが離したブラックバスにすべて食べられてしまったのか……。

 いずれにせよ、タナゴがいればもう少しこの釣りも楽しかったのかもしれないが、クチボソだけでは今一つ盛り上がらない。


 なぜ盛り上がらないか……。

 小物で釣れてもあまり抵抗もなく釣れてしまうから今一つ面白味に欠けるからである。

 まあ、これもボクの主観であり、好きな人には盛り上がる釣りであったに違いない。


 そんなわけで、ボクは久良岐公園に釣りに行くときは、クチボソ釣りではなく、鯉を釣ることが多かった。

 

 最初……

 ボクはまともに鯉を釣ろうとしていた。

 釣り竿の先端に少し太めの釣り糸をつけて、ゴム管をそこに通す。そのゴム管に長い棒のような形状のカラフルな立ち浮きをつけて、ヨリモドシと呼ばれる小さな金属の接続部分に釣り糸を結ぶ。ヨリモドシのもう片方の部分には少し細目の釣り糸を結んで、その糸の先に釣り針を結ぶ。

 釣具屋で練餌と呼ばれる粉のエサを購入して、水と混ぜて練る。

 耳たぶぐらいの柔らかさになったらちょうどいい。

 針に練りエサをつけて仕掛けを池に投入する。

 エサは水に溶けていくので数分待ってエサを付けなおす。

 何度も同じ場所にエサをつけては仕掛けを投入する。

 エサが溶けると匂いと溶けだしたエサの様子で鯉が寄ってくる……という具合の釣りだ。


 この釣り方は野鯉を釣るのに適した方法だと聞いたことがある。


 公園の池とかではなく、河川の三日月湖などにいる警戒心の強い野鯉の場合は何度も同じ場所にエサを投入し、釣れるまでに1週間ほどかかるという話も聞いたことがある。

 そんな釣りを一度でいいのでしてみたいものだが……果たして一週間もこのボクが我慢することができるだろうか……甚だ無理という文字が頭に浮かんでくる。


 大人になった今でさえ我慢できず、釣れるまで待てない性格のこのボクが、浅はかな中学生だった頃の話なので、こんな釣りができるわけもない。

 今、思えば、ボクにもう少しこらえ性があればこの頃行ったほかの分野の釣りでも、それなりの結果が得られたと思うのだが、このこらえ性のなさのおかげで、未だにボクはヘッポコ釣り師のままである。


 そうは言うものの大人になった分、今はあの頃よりはこらえ性があると思う。

 だからごくたまにだが、大物に出会えることもある。

 なんだかんだ釣りは忍耐のスポーツなのである。

 

 鯉釣りにはパンの耳が有効だと知るのにはそんなに時間はかからなかった。

 パンの耳は途中のパン屋さんでタダでもらえたので、こちらもエサ代はかからなかった。

 

 釣り針にパンを引っ掛けて池に投げる。

 パンは浮くから、そのパンをずっと見る。

 数分も立たないうちに鯉はパンを食べにくる。その瞬間がスリリングだった。

 鯉がパンに食いついてからアワセまでが早すぎると釣れないし、遅すぎてもかからないことがある。

 鯉はパンを加えて少しでも違和感を感じると、パンを吐き出してしまうのだ。

 つまりこの釣りは針につけるパンの大きさがポイントである。

 大きすぎてもダメだし、小さすぎてもパンが沈んでしまう。

 

 ここの鯉は小さくても40センチをゆうに超える大きさで、引きはかなり強烈だった。

 ある意味、簡単なようで、意外にも難しい。

 そんな釣りが面白かった。

 

 そんなある日のこと。

 久良岐公園の池にはブラックバスがいるという噂を聞いた。

 今でこそブラックバスなんて邪道だと思っているが、その頃はブラックバスは憧れの魚だった。やはり釣ったことのない魚というのはすごく憧れるのである。


 そういう意味ではクロダイは未だにボクのあこがれである。簡単に釣れない奥の深さや、釣ったことのない未知の引きというのは釣り人を魅了してやまないのである。


 逆に簡単に釣れてしまう魚はあまりありがたくないのも事実である。

 ボラは引きも強いし、水質の良いところの魚なら、かなりの美味だが、釣り人に嫌がられるのは回ってきたら簡単に釣れてしまうことがその大きな要因となっていると思われる。

 通常だと鯉はなかなか釣れない魚なのでありがたいのであるが、久良岐公園のようにパンで比較的、簡単に釣れてしまう場合はやはりあまりありがたくはないのである。

 

 そんな理由でちょうど鯉釣りにも飽きが来ていた頃の出来事だった。


 ブラックバスがいるなら、目先を変えてブラックバスを釣りたいと思った。

 それで噂を聞いたその日から数回、ブラックバスを狙ってみたが、当時の小遣いではルアーはそうそう多くは買えない上、引っ掛けてなくすことも多かった。

 だからボクはすぐにあきらめて鯉釣りを楽しんでいたのである。


 すぐに安易な方に走る癖は中学の頃から変わっていない。

 

 さて……その日はいつものように鯉を数匹釣って、その強烈な引きに満足していた。

 もう一匹釣りたいと思いボクはパンを釣り針につけて池に投げた。

 鯉が数匹、ボクが投げたパンの周りを泳いでいた。

 鯉はボクが投げたパンに食いついたが、違和感を感じたらしく、吐き出してしまったらしい。

 ボクの合せは空合わせになってしまったが、それにしては変な手応えがあった。

 たいして引くわけでもないが、間違いなく魚の引きだった。

 ボクはたいしてやりとりをするわけでもなくその魚をいとも簡単に引き上げた。

 

 これがボクとブラックバスとの出会いだった。


 そのときは嬉しかったが、今思うとそれは今まで釣ったことのない魚を釣ったことの喜びであって、そのときも今もそうだが、あの引きをもう一度味わいたいかというと、答えは否である。

 バス釣りの魅力は引き味ではなく、ルアーで魚と知恵比べをするゲーム性だろう。

 そういうものをあまり釣りに求めていない釣り人にとっては、バス釣りにボクと同じく、さほど魅力を感じず、邪道であると評することもあるだろう。

 

 久良岐公園には高校3年の頃、実家が公園から遠くに引っ越したのをきっかけに足が遠のいている。

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