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釣りの小説は恋愛小説になってしまう理由

 釣りの小説が書けない……と以前に話したがしっかり書いてしまっている。

『じっと待っているだけでは魚は釣れない』とその続編でもある『満月の夜には魚は釣れない』だ。


 これを書いて思った事がボクは恋愛小説を書くのが好きだということだった。

 恋愛小説を書こうなどとは独身の頃は間違いなく思わなかった。

 というのも、学生時代は恋愛には興味がなかったし、社会に出てからは恋愛してみたいと思っても彼女がいなかったからであり、恋愛というものがどういうものかがわからなかったからである。


 振り返ってみると散々な独身時代である。

 魚は釣れないし、彼女もできない。

 何が楽しいんだ……という感じである。


 実は『じっと待っているだけでは魚は釣れない』の主人公である保高靖男は、高校時代の友人でもある保田くんがモデルである。

 保田くんとはよく釣りに行った。

 彼は釣りには興味がなかったのだけど、なんだかんだ休日に一人でいたくないボクに良く付き合ってくれた。


 とにかく休日に一人でいるということは20代のボクにとっては耐えがたいぐらい寂しいことだった。

 これが30代になるとそうでもなくなるのだが、一人が寂しくないと感じる頃に彼女ができてしまうというこのなんとも言えないぐらい空気の読めない人生は、なんだかボクらしくて面白い。


 20代の独身の頃はずっと恋に恋してきた。

 とにかく惚れっぽいボクは誰かを好きになっては、届かない恋愛に悲しい思いをしながら、その痛みを癒す為に釣りに行ってぼ――っと海を見ていた。

 そんなときは何も釣れなくていいのだ。

 ただ、海を見る。

 潮騒が心を癒し、潮の匂いが気持ちをリセットしてくれる。


 保田くんは釣りをしながらボクの愚痴をよく聞いてくれた。


 いや……

 聞いてくれていたのだろうか?

 なんか聞き流されていたような気がしないでもない。


 当時は小説は書かなかった。

 書かなくなったのは高校を卒業して、専門学校を卒業して……それでもしばらくは書き続けていた。


 確か……介護の仕事を始めて、仕事に慣れてきたころにはすっかり書かなくなってしまった。

 書かなくなったというよりは……書けなかったと言った方が適切かもしれない。

 高校時代にはあんなに書いていた小説も、高校を卒業し、社会に出て実生活に没頭しなければならなくなってからと言うもの、空想の世界を創作していくのがバカらしくなったのだ。


 自分のために創作をするという感覚は高校生の頃はなかった。

 読んでもらえる作品にこそ意味があると思っていた。

 その割に独りよがりな作品が多かったが……

 まあ……それには主な読者が高校時代の同級生だったということが主な要因の一つなのだろうけど……


 若い頃に書いた小説は、いろんな人に読んでもらおうと思って書いた作品ではないことは確かだった。つまりボクの創作活動は、当時、高校の頃の同級生でもある保田くんを始めとする数人に向けて行われていたものであり、高校を卒業して、同級生にも滅多に会えなくなってしまうと興味も薄れてしまうようなものだったのだ。


 小説を書くのを辞めても釣りは続けた。

 一方的な片思いのせつない気持ちを癒すためによく釣りに行った。

 考えてみればあの時のあの記憶は、その後の創作に生きていると自分では思っている。


 創作活動を再開しようと思ったのは結婚してからである。

 通常、結婚すると余計に実生活に没頭しなければならなくなるから、書けなくなりそうではないか、と言われそうだが、仕事にも慣れ、ひとしきり恋愛も経験し、好きな釣りも家庭があるとなかなか行けず……となるとやはり生活に刺激が欲しくなる。

 そんな時に思い立ったのが創作活動である。


『投稿サイトに投稿すればいいじゃん』


 そんな風にボクに薦めてきたのは保田くんだった。

 明らかにボクの駄作を読むのがめんどくさくなったのだろう。

 読書の習慣のない彼は、高校時代からつづくこの呪いのような関係を断ちたかったに違いない。


『いや、ボクの小説なんか誰も読まないよ』

『そんなことはない!大丈夫だ!!』

『大丈夫じゃないだろ。やだよ』

『うまくすれば作家にだってなれるかもしれないんだぞ』

『いやいやいや……夢が見れるほどボクは若くないよ』

『夢に若いとかそういうのは関係ないよ』


 こんなやり取りが続いたのだが、結局ボクは根負けして自分の書いた小説を投稿サイトに投稿することにした。この時点で保田くんはボクの作品を読む気はなくなっていたのかもしれない。

 いや……この時点というより最初から読みたくもなかったような気がしないでもない。

 細かいことを気にするのは辞めよう。

 たぶん、保田くんとしては釣りやその他の遊びは付き合って行っているとはいえ、それなりに楽しいのだけど、小説だけは読書の習慣がない彼としては本気で勘弁してほしかったのだろう。


 それで出会ったのが『小説家になろう』だった。

 投稿サイトに投稿する以上、何を書いてもいいというわけにはいかない。

 多くの人が見る可能性があるのだから、見えない読者のためにどのような作品を書くかを考えた。


 そうやっていくつかの作品を書いたのだけど、前からボクはエッセイを書いてみたいと思っていた。


 それで書き始めたのがこの『ヘッポコ釣行記』

 意外と長く書き続けている。

 途中で書くことがなくなって放置していた時期もあるのだけど、アクセス解析を見てみるとビックリするぐらい読まれているのに気づいたので、いろいろネタを思い出しながら書いている。


 釣りの小説が書けない、と言ったのは随分前の話である。

 冒頭でも話したがボクは釣りにまつわる小説を2作書いている。


『じっと待っているだけでは魚は釣れない』という作品が書けたのはたまたまだった。

 あの作品は釣り場で釣れない時に保田くんと話した妄想話が元になっている。


『保田くん、最近どうよ』

『おう。元気だ』

『そんなん知ってる。病気だったら釣りに来ないだろ』

『そうか、じゃあ聞かないでくれ』

『他の話を聞きたいのだが……』

『他の話?そんなものはない』

『え?新たな出会いとかは?』

『職場に新たにおっさんが入ってきた』

『まさかの……』

『辞めろ! 違う!!!』

『じゃあなんだよ……』

『つまり君の期待するような話はボクにはないということだ』


 この手の話をしたがらない保田くんではない。

 何かあればきっと話すとボクは信じているのだが、実際はどうか分からない。というのも信じているのはこちらだけ……ということもあるからだ。

 とにかく『何もない』だけでは面白くもなんともない。

 ただでさえ釣れないで海だけを眺めているのである。

 魚信(あたり)の『あ』の字もない。


『今日さ、さっき釣具屋に寄ったじゃん』

『寄ったな。何か買い忘れたか?』

『いや、それはない。てゆうかルアーのところにいた店員さんだけどさ』

『いた?』

『いたよ。そういうのを見逃すから出会いがないんだよ』

『関係ないと思うが……』

『あの店員さん、ちょっと可愛くなかった?』

『嫁に言うぞ』

『いや、別に可愛いと言っただけだし』

『で、なんだ。何が言いたい』

『ああいう子がさ、君と付き合うことになったらどうする?』

『悪徳商法だと思って警戒する』

『え?なんで、そんな寂しいこと言わないで。保田さん』

『つぼは絶対に買わんぞ!』

『つぼなんか売りつけないから』

『そ……そうなのか?』

『おう。100万の竿を売りつけるよ。釣具屋で働いてるし』

『……結局俺にはそういう出会いしかないんだ』

『ああ、だから警戒を緩めるなよ』


 これは『満月の夜には魚は釣れない』という小説にこのエピソードを元にした話が書いてある。

 釣りは好きだけど釣りそのものの小説はなかなか書けない。

 ただ恋愛や他の話に絡めて小説にするとそれなりに書けることに気づいたので、今後もまた挑戦しようとは思っている。


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― 新着の感想 ―
[一言] 釣り人としてもそれなりに評価する。ごめんなさい、偉そうに。
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