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苦笑する日々

 仕事が怖い……


 そう感じたのは初めての経験だった。

 以前からメンタルクリニックにはちょくちょく行っており、その手の病気はいくつか抱えているという自覚はあったのだけど、すべて軽症だと思っていたので、朝、通勤のバイクに乗る手が震えるほど怖いと感じたのは、自分でも驚いている。

 診断名は『鬱病(うつびょう)


 不思議なもので仕事を辞めてからは『怖い』という気持ちは綺麗になくなっている。

 一体何が怖かったのだろうと振り返ってみて思うことがある。

 良くなってきた証拠なのだろうか。

 

 昨年の12月に仕事を辞めてから通院を続けて調子も良くなってきたので仕事を始めなければならないのだけど、そもそもボクは仕事が嫌いだし、仕事せずに家にいることはまったくもってストレスを感じない。まあ、ストレスと言えば生活が成り立たなくなるというストレスなのだが、こんなことを言っては怒られてしまうかもしれないが、最悪、仕事が見つからなければ車を手放して生活保護にでもなればいいやぐらいにしか思っていないので、どうにも就職活動には力が入らない。

 とは言うものの、本当に生活保護になるというのはこんなボクでも世間体というものもあるのでちょっと困る。だからなんとか就職できるように何度も履歴書と職務経歴書をいろんな会社に送りまくっているのだけど……40代の……職歴がやたらと多いおっさんなど採用になるわけもなく、面接まで行くこともなく、送った数日後には書類選考で落ちて、郵送で戻ってくるということを何度も何度も繰り返している。


 こうなるとやっぱりもう家にずっといたいという気持ちが強くなってしまい、なんだか家でできるような仕事はないのかな?などと変なことを考え出したりもする。

 もちろんそんなわけにもいかないので、一生懸命、やたら職歴の多い書類を送り続けているのだけど、できあがった書類を眺めて『こんな奴、本当に採用になるのかな』と自分でも思ってしまい、鬱が悪化したりして急にやる気がなくなり困ったりもしている。


 仕事を辞めてからはしばらく何もできなかったのだけど今年に入ってからはなんとなく『創作でもやろうかな?』と思い立って数年ぶりに再開したら、これが面白くて継続できている。

 まあ、ストレス解消と言うやつで、自分の鬱々としたやるせない気持ちを文字にぶつけているとなんとなくすっきりする感じはする。


 こういう活動に関しても才能は必要なわけで、本音を言えばこれで生活していければ言うことはないのだが、ボクにそれほどの才能がないことはなんとなく分かってしまうので、創作も、やっているうちにストレスになり、やたら落ち込んでしまうことがある。


 こんなボクは才能のない太宰治のようだな……と思って一人笑ってしまったりもする。

 太宰みたいに才能があればいいのになあ、と思うこともあるが、現実にないものを願ったところで生活は成り立たないわけだから何とかして仕事を探すしかないと思う今日この頃である。


 こんなストレスを抱え続けている毎日だから、就職活動をしているとき以外はストレス解消をしたいと思うのは人情というものだ。

 ボクのストレス解消と言えば、前述の創作活動と、阪神タイガース、そして魚釣りである。

 創作活動は他の作家さんたちのキラキラ光る才能を目の当たりにしたりすると精神衛生上、良ろしくない。

 だからと言って文字をつづる作業は好きなので、落ち込むことはあっても辞めはしないのだけど、こうなると必ずしもストレス解消になるとは限らない。

 だから落ち込んでしまった時は書かないことにしている。


 ちなみに今は書けているので落ち込んではいない。


 阪神タイガースに関しても今一つピリッとしない。

 くだらないエラーをするところは昨年と変わっていないし、巨人戦に至っては八百長ではないかと疑ってしまうぐらいに負けるし、がっかりすることが多い。

 大山が今年は思い切りバットが振れているように見えるところや、近本の調子が上がってきたところ……さらにはボーアやサンズの外国人選手が当たっているところなど、いいところもあるのだけど、負け試合を見続ける精神的な強さは今のボクにはない。


 もうそうなるとボクを救えるのは魚釣りしかない。


 そんなわけで、この夏はかみさんが嫌な顔をするのを尻目に何度か釣りに出かけた。

 熱中症になりそうなぐらいに暑かったし、納竿後はものすごく疲れもしたが、気持ちは大分軽やかになったのを覚えている。


 友人から聞いた、公園と一体化している足場の良い釣り場を発見したので、そこにはこの夏、3回以上は足を運んだ。

 こんなことを書くと『釣りに行っている暇があれば早く仕事を探した方が良いのでは?』と言われてしまいそうで、実際にかみさんにも何度かその点は指摘されたのだが……結局、釣りに行こうが行くまいが見つからないものは見つからないし、不採用なものが採用になるわけでもない。ボクのあり得ないぐらい多い職歴が少なくなるわけでもない。

 行っても行かなくても結果が変わらないのならストレスがなくなる分、行った方がいいではないか。

 だから仕事は探すが、釣りもする。


 てゆうか、このまま真面目に仕事など探そうものなら、あまりに不採用が続く中、またもや鬱病が悪化するに違いない。そうやって冷静に考えると、もうこうなったら仕事なんかより釣りの方が大事なのだ。

 仕事なんか探して鬱病が悪化するぐらいなら、釣りに行って鬱病の悪化を防いだ方が絶対に良いのである。


 何度か釣りに出かけた場所はそれなりに釣れる場所だった。

 これから水温が低くなる冬に向かって何らかの魚が釣れるのであればこれは本当に穴場なのだが、たぶん釣れるのはこの時期だけではないかと思われる。


 釣れた魚は小アジが大半だったが嬉しかった。

 アジという魚は以前にも話したし『隣の二階堂さん』という小説でも取り上げたことがあるのだが、何をしても美味しい魚である。

 陸から釣れるアジは小さいサイズが多く、今回も塩焼きやなめろうにはできるサイズではなかったので、はらわたとエラを綺麗に取り除いて丸揚げにして食べたがとても美味しかった。


 他にも大きなコノシロが釣れた。

 酢で締めて食べたらめちゃくちゃ美味しかった。

 小骨も固くないのでまったく気にならないし、これを釣りにまた同じ釣り場に行きたいぐらいだった。


 しかし……よく釣り場を見回すとこの魚……釣れてもばんばんリリースされているではないか。


 え――――!

 いや捨てるならくれよ……


 ……と思ったけど気の小さいボクがそんなことも言えるわけもなく、周りで釣っている釣り人たちがコノシロを海に返しているのを指をくわえてみているしかなかった。

 てゆうか、なんでリリースしていたのかボクにはよく分からない。

 コノシロというとちょっと分からない人がいるが、分かりやすく言えば寿司のネタにもなっているコハダが大きくなったものがコノシロという魚である。

 あんな美味しくて調理しやすい魚を捨てるなんて考えられない。


 基本的にボクは釣れた魚はリリースしない。

 釣れた魚は美味しく食べるというのがボクの考え方なので、もちろん否定はしないけどキャッチ&リリースという考え方はボクの辞書にはない。


 他人が魚を釣ってリリースするところを見ると……

 もったいないなあ……と思う。

 釣り番組などを見ているとプロの釣り人(アングラー)が大きなスズキを画面に映してその後、リリースしているシーンが多く見られる。


 いや、食べればいいじゃん。

 なんで逃がしちゃうかな?

 というのがボクの正直な感想である。


 以前も話したことがあるけど、キャッチ&リリースの釣りやルアーを使った釣りが出始めてから新たな釣りファンが出てきたのも事実で、ボク自身はあまりそういう釣りは好きではないけど、釣りというスポーツ自体が好きだという人が増えるのは嬉しい限りではある。


 ただその反面、少し手間をかければ美味しく食べるところまで楽しめるのも魚釣りの醍醐味の一つでもある。


 その辺の楽しみももっと広く知られるようになればいいな……などと偉そうなことを海にリリースされるコノシロのことを思い出しながらぼ――っと考えてみる。


 そんなことを考える暇があれば、どうすれば就職できるかを考えた方が実際には良いのだろうけど、頭の片隅にもそんなことは思いつかず、このエッセイのオチのためにようやく思いつくあたりがボクのダメなところなんだろう。


 落ち込むわけでもなく、ただ苦笑する日々はいつまで続くのだろうか。


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