ボクたち男の子
子供が女の子でなくてよかった……と思う瞬間がある。
もちろん、女の子は女の子で可愛いと思う。
息子の保育園の送迎をするときに女の子が寄ってきて髪型を変えたことをしきりに見せにきたりするが、そういう可愛さは男の子にはない可愛さなので、けっして女の子が可愛くないということではない。
ただ……。
日常生活の中で釣りに行きたくて仕方ないボクとしては、この重大な問題においては間違いなく女の子よりも男の子の方が与しやすい。
うちのくまさん……
ではなく……
かみさんなどは、本人に言えば絶対に否定するが、非常に飽きっぽい性格なので、魚が釣れる時間まで待つことができない。
これから釣れるという時間になのに……
『もう帰ろうよ』
と言い出す始末。
もう何度、かみさんのせいで釣れる時合を逃したか分からない。
鮭……釣れないよ。それじゃあ……。
さて……
もし、うちの子供が女の子だったとしよう。
間違いなく性格はかみさんそのものだ。
なぜかと言えば女の子は顔は父親に似て、性格は母親に似るというのが定説なような気がするからだ。……ということはものすごく飽きっぽいということだ。
その上、釣りというスポーツを一般的に女の子はそんなに選ばない。
性格がかみさんに似ているという前提で話を進めているが、ボクに似ていたとしても果たして釣りに興味を抱くかどうかは別問題である。まあ釣りが好きな女の子なら言うことはないが、その可能性はどうにも低いような気がする。
もちろん、女の子なのに釣りなんか……とかそんな風にはボクは思わない。
ただ、一緒に釣りに行くというのはあくまで一般的な話だが女の子ではなく男の子なのである。子供を使って釣りに行く、という作戦に関しては女の子では成り立たない可能性が高い。
それでは困るのだ!
『どっかいくか?』
『うん』
『ザリガニ釣りと川釣りと海でのハゼ釣りとどれがいい?』
『うーん。公園!!』
『よし! 川釣りに行こう!』
『いいねえ! 川釣り!!!』
このノリは完全に男の子である。
もう衝動的にノリで行動するので、あまり物事を深く考えない。
これが女の子だったら間違いなく『お父さん、あたし公園って言ったじゃん。滑り台やりたい!』とか『釣りしか選べないじゃん!』とか訳の分からないことを言いだすのだ。
仮に娘にこんなことを言われたら……
いいか。
お父さんは釣りに行きたいのだよ。
滑り台とか……空気読めよ……。
と心の中で言うだろう。
もちろん口には出さない。
だってかみさんが怖いじゃん。
同時に娘も怖いじゃん。
どうせ二人で攻撃してくるんでしょ。
下手したら父親としてどうかと思うとか言ってくるんでしょ。
お父さんは釣りに行きたいだけなのに……。
そこを行くと、息子はありがたい。
この会話を見て、賢明な読者はお気づきだろう。
息子は最初『公園』と言ったのにボクは『川釣り』と答えているのだ。
こういうことを女の子は鋭く突っ込んでくるのに対して男の子はあまり深く考えない。
これが助かるのだ。
さすがだ。
なんて空気の読めるいい子なんだ!
いや……
ちょっと待て。
これは男の子とか女の子とかいうことは抜きにして、ただ単にうちの息子が鈍いだけなのかもしれない。
まあ……深く考えるのはよそう。
さてこんな感じで釣りにはそこそこ行けているので本当に息子には感謝している。
実はこんな単純な作戦はかみさんにはバレバレであるのだが……『子供が喜ぶのなら』と許してくれるので本当に大助かりである。
息子と行く釣りは楽しい。
川釣りにしても、海釣りにしても、釣れなくてもそれなりに楽しめる。
飽きっぽい性格の息子も釣りの時だけは積極的にエサをつけたりしているし、魚が釣れると大喜びだ。
そもそも男というものは何歳になっても好きなものが変わらないのだ。
だから子供だろうがおっさんだろうが、男同士なら趣味を共有することができるのである。
ボクとしては船釣りなどの釣りにも行きたいところだが、5歳の息子を船に乗せるわけにもいかないからそれはしばらくはあきらめることにしている。
健やかに大きく育ってほしいものだ。