アジが好き
ボクが釣りを始めたきっかけは父親の存在が大きかったのだが、それだけではこんなに釣りバカにはならなかったような気がする。
やはり中学の時に友人たちと行った釣りがとても楽しかったというのが一番ではないかと思う。
というのも、何を狙うかということから、どう釣るのかということに至るまで、自分で決めることができたからだ。
父親に教わって釣りをしているうちは父親のやり方でしか釣りをできなかった。それはそれで楽しいのだが、自分で釣ったというよりは釣らせてもらったという感じの方が強い。釣りの面白さが本当の意味で分かるのは自分で工夫をするようになってからではないか……と思う。
さて、釣りを始めた当初はできるだけ大きくて人に自慢できる魚が釣りたかった。
そして魚拓にして自分の部屋に飾れるような魚が釣りたかったのだ。
前述もしたがクロダイが釣りたかったのはそのせいでもある。
ただそういう魚はなかなか釣れないのも事実であり、ボクのように飽きっぽく、何事においてもたいした努力をしない人間にとっては非常にハードルが高い。
若い頃はそんなことは分からなかったが最近は実にそういうことがよく分かるようになった。
暇はあってもお金がなければ釣りというものは道具やエサに投資することができず、尚且つ釣れる場所にも行くことができない。
何事においても努力……と前述したが、若い頃は暇はあるがお金はないし、大人になれば逆にお金はまあまああっても暇がない……結局、こうなると努力のしようがないのである。
本題に入る前にそのあたりの話をきちんとしておきたい。
一回の釣行にかかる費用はなんだかんだで、ちゃんとやれば1万円以上はかかる。
良い道具を購入するのであればもっとかかるだろう。
釣り竿やリールなど良いものを購入すれば、それだけで釣果は変わる。
良い竿で釣りをすればわずかな魚の魚信も感じることができるし、良いリールを使えば軽い仕掛けでもより遠くのポイントまで投げることができるのだ。
ここをけちって安物で済まそうとすると……わずかな魚の魚信は感じることはできず、仕掛けも遠くのポイントには届かない。ここで釣果に大きな差が生まれてしまうのだ。
もちろん安い道具でもそれなりの釣果を得ることができる。そういうところが釣りの魅力ではあるが、クロダイのように釣るのが難しい魚を釣ろうと考えるならそれなりの投資が必要なのである。
また残念なことだが、お金をかけても釣れない……ということもある。
それは釣り場に狙った魚がいない場合である。
魚がいないのだから、いくらお金をかけようが釣れるわけがない。
そこで重要なのが情報である。
過去にどこでどんな魚が釣れているのかを事前に調査しておくのだ。
ただこれもあてにならないことがある。
過去にいくら釣れてもその場所はその情報のせいで多くの釣り人が行く釣り場になってしまい、場が荒れてしまい魚が警戒し居なくなってしまうということがあるからだ。
つまりお金をかけても釣れるという情報があてにならないと、まったく何も釣れないということがある。
ただ……まあ。
それはそれで面白いし、釣れない時間を楽しむこともいい。
しかしいつでも釣りに行けるだけの時間の余裕があればそれでもいいのだが、結婚して子供ができてしまうとなかなかその時間も取れなかったりする。
そうなると1回の釣りに対して、それなりの釣果がほしくなってしまうのである。
話を本題に戻すが、そいうわけでクロダイのように釣れるかどうか分からないような魚をボクは追いかけなくなった。同時にクロダイは釣れてもそこまで美味しい魚とはいいがたい。釣れてもあまり美味しくない魚はつまらない。
これはボクだけなのかもしれないけど、釣れたら美味しく食べるところまでが釣りの楽しみだと思うので美味しくない魚や釣るだけを楽しみとするような釣りは忙しい中で行く釣りとしてはなんだか物足りない。
そう考えると一番面白いのはアジ釣りなのである。
有名な話だが、アジという魚は回遊魚である。
回ってこれば、そこそこだれでも釣れる魚である。
よく堤防釣りで、素人にオススメされるのがサビキ釣り仕掛けを使ったアジ釣りである。
しかし回ってこれば釣れるのだが……当たり前の話だが回ってこなければ釣れない。
回遊魚の回遊コースは何かない限りは変わらないので、前に釣れたところに行けば大体同じ時間で釣れるのである。ただこれが曲者で確実に回ってくる回遊コースというのは季節などの条件によっても随分と変わる。
つまり『何かない限り』といったが『何かない』ということは自然界においてはそうないということだ。
前にアジが大漁だった堤防に意気揚々とアジを釣りに行ったのにボラしか釣れないという悲劇は普通にある。
そんな嫌われ者のボラだが、ボラが回遊してくる場所というのは魚のエサが豊富にある場所であることが多く、他の魚も釣れる好ポイントであることには変わりがない。
本当に何も釣れない場所になるとボラすらいない。
ただアジを釣りに行ってボラばかりというのはいささか嫌なものである。
アジを確実に釣るにはどうすればいいのか。
前述もしたがこれはどの魚においても同じことだが一番大事なのは場所だと思う。
いろんな釣り動画を見ているとアジはいとも簡単に釣れているように見える。
最近ではアジをルアーで釣る、アジングという釣り方まで流行っているようだ。これはすごく難しい釣りのように見えるが、それでもいとも簡単にアジが釣れているように見えるのは、釣り動画を撮っている場所がアジが常に回遊してくる場所なのだろうと思う。
つまりは、地方の条件の良い場所にはアジが釣れる場所が多く点在するということだ。
動画を見ながらいつも指をくわえて『いいなあ……』と言っているボクだが、いくら『いいなあ……』と言い続けたところで自分が地方に行けるわけもないのだからこれに関してはあきらめるしかない。
自分の地元でアジが確実に釣れる場所を探すしかないのだ。
それには確実な方法がある。
それは釣り船に乗ることである。
そんな確実な方法なら何もアジを釣らなくてもいいじゃないか……と思う人もいるだろう。
どうせ船に乗って魚のいるポイントまで行ってもらえるのだからそれなら真鯛とかもっと高級で見栄えの良さそうな魚を釣ったほうがいいのではないかという意見もあるとは思う。
以前……まだボクが船釣りというものを分かっていない時はそう思っていた。
しかし……
釣りというものはそんなに甘いものではないのだ。
高級魚は船で釣ろうがなかなか釣れない。
だから高級魚なのだ。
そして釣れると価値があるのである。
ところが……大衆魚で場所さえ良いところに行けば釣れるアジは違う。よほど条件が悪くなければ必ず釣れるのだ。
逆に釣れない理由を探すのが難しい。
以前に船に乗ってアジ釣りをした際に、素人のお兄ちゃんが何人か乗ってきて……船酔いでダウンして何も釣れていなかったところを目撃した。
そう。
ボクの経験上、船酔いで釣りができないという状態でなければアジ釣りでボウズというのはない。
以前、ボクは釣り船はまだ慣れないので一人で乗るのはかなり勇気がいる……と言っていたが、あれから数年、意外と簡単に慣れてしまった。
船釣りは慣れると楽しいものである。
気難しいかな……と思っていた同乗の常連らしき釣り人は優しかったし、船長も釣り方を教えてくれたり気さくに話しかけてくれたりして、船の上は和気あいあいとして本当に楽しい。
自分も素人に毛が生えたようなものなのだが……隣にたまに素人らしき人が釣り座を構えることがある。これはあくまでボクの場合だが、隣は素人さんの方が嬉しい。というのも自分もそんなにうまくないからだ。
確かに隣が素人さんだと、錘が海底に着いたあとの糸を張るタイミングが遅く、こちらの仕掛けと絡まってしまうことが多くある。ただそれはお互い様なのだ。
これが隣がうまい人が座ってしまう場合はそういうわけにはいかない。こちらから絡まることは多いが、向こうはうまいからそんなことはない。
そうなると本当に気まずい。
もちろん、そんなことで嫌な顔をする釣り人はそんなにいないのだが、申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまうのだ。だから自分の隣に座る釣り人はできれば『釣りに初めてきました。』というような素人さんの方がありがたいのである。
船釣りの嬉しいところは、手ぶらで行っても釣りができるところである。
竿もリールも貸してくれるし、エサも用意されている。
釣った魚を持って帰るためにクーラーボックスも販売されている。氷は無料でくれるし、船酔いに関しては市販薬の酔い止めさえ飲んでしまえばまったく船酔いしない。
そんなわけで最初は敬遠していた船釣りも最近では慣れて良く行くようになっている。
アジ釣りに関してはボクが住んでいる近辺では間違いなく船で釣った方が釣果が見込めると思う。
それにアジ釣りは奥も深い。
簡単なようで難しい。
これがいいのだ。
何が難しいのか……これについて触れると長くなるので次回何かの折に触れていきたいと思う。