釣れないナマズ
かみさんが妊娠してから今に至るまでボクは釣りに行けていない。
行けないとなると行きたくなるのはなぜなのだろうと考えることがある。
禁止されるとやりたくなってしまうという心理状態がまさに今のボクにあてはまるのかもしれない。
と言いつつも身重の妻を置いてそうそう釣りに行けるわけもなく、昨年は数回しか釣りに行けなかった。
かみさんが妊娠したと行っても通常であれば釣りには支障がない。ただ実のところ、かみさんの妊娠は2回目であり、1回目は残念なことに流産してしまいかわいそうなことになってしまったので、昨年、妊娠が分かってからというもの、ボクは釣りどころではなかったというのが正直なところである。
その時はそうだったのだが、今、これを書いている時点では元気な7か月の息子の顔を毎日見ることができているので、そういう安心感がボクを釣りにいざなっているのかもしれない。
何が言いたいかといえば、子供も無事に生まれたことなので、そろそろ釣りに行きたくて仕方なくなってきたというのが本当のところなのである。
『釣りに行きたい。』と強く思うようになって、ボクはかみさんが妊娠してから今に至るまでの釣りの回数を数えてみた。
すると行ってない、行けていない、と思っているのは気のせいで、まったく行っていないかのようなことを言っているが実のところしっかり釣りには行っているのだ。
ただやはり回数は少ない。数えたら3回しか行っていなかった。
そのうち1回がうちの近所の池での釣りである。
以前に『鯉に恋して』という箇所で書いた池である。
ここは地元の人の情報によると人工の池らしい。生息している魚は鯉、フナ、ブラックバス、オイカワ・・・あとおまけに亀などもかかってしまうことがある。
ここへは自宅から近いということもあってよく行った。
主に狙う魚は鯉である。
以前も話したがボクはブラックバスにはまったくもって興味がない。
オイカワは釣りたいのだがこの池のオイカワもブラックバスの餌食になってしまっており年々数が少なくなっているのが目に見えて分かるのが残念で、こちらもまた狙ってもなかなか釣れなくなってしまった。
それで残りの狙いがフナか鯉になるわけだ。
最近分かったのだが、同じ吸い込み仕掛けでも、針とハリスを小さく細いものにしないとフナはかからない。これを大きいものにすると基本的には鯉しかかからないのだ。
吸い込み仕掛けで鯉が釣れることはもう前から分かっていて、基本的にボクがここで釣りをするときには吸い込み仕掛けにして、リールのドラグをゆるゆるにして魚がかかるのをひたすら待つというスタイルにしていたのだが、いつもそのスタイルで釣るのはつまらない。
だもんで、昨年は立ち浮きを使って、同じポイントに何度もエサを打つというスタイルで鯉を狙ってみた。
これがまた悲しいぐらいに釣れない。
結局、その日も吸い込み仕掛けの方には70㎝を超える大きな鯉がかかってそのパワフルな引きを楽しませてくれたのだが、浮釣りの方はさっぱりであった。
原因はなぜかよく分かっていなかったりするが、釣り座から近いポイントには魚が回遊していないのかもしれない。とにかく今度・・・この今度がいつになるかは分からないが、もう一度、この釣りには再チャレンジしてみたい。
鯉を釣る際には浮釣りと吸い込み釣りの他にもう一つ方法がある。
それがコ式釣りである。これは水面に浮くルアーを鯉がエサと間違えて食いつくという釣りであり、ボクはルアーではなかったが学生時代にパンを使って似たようなことをしていた。
鯉が水面に浮いて来ている時には有効な釣りであり、瀬上池でも十分に通用しそうな釣りではあるのだけど、なんだかこれは簡単に釣れてしまうような気がするのでやりたくないのである。
ちなみにボクは実際のコ式はやったことはない。
2回目の釣行は東京湾の岸壁からの釣りである。
季節が6月ぐらいだったと記憶しているが、投げ釣りでキスなどを狙ったのだがさっぱり何も釣れなかった。
ボクがよく行く岸壁は横浜市金沢区近辺の岸壁だが、昔はここにも多くの魚がついていたし、回遊してきたのだがここ近年はさっぱりである。
あまりに釣れないのでボクはここの釣り場は見限って行かないことにした。
人も多いし、ゆっくり釣りができない上に釣れないのでは、何のために余暇を使って釣りをしにきているのか分かったものではない。
なんだかんだ、昨年は時間があっという間に過ぎて行ったような気がする。
気が付けば桜は散り、新緑から深緑になり、少し涼しくなったなあ、と思ったら秋が来てしまった。
夏から秋口にかけて釣り人はそわそわする季節である。というのもこの時期ほど釣れる時期はなく、仕事をしていても気が付けば釣りのことばかりを考えてしまう季節だからである。
ただ昨年のその時期はボクは出産を控えたかみさんの大きなお腹を見ながら生活しており、釣りのことなど考える余裕などなかった。
・・・というのは嘘である。
もちろん釣りには行けなかったが、いつも『釣りに行きたい』と思っていた。
この頃には男の子が生まれてくるのが分かっていたので、将来は生まれてくる息子に釣りの面白さを教えてやりたい気持ちでいっぱいだった。
そんな高尚な気持ちだけでなく、ただ単純に夏の青い空を見上げると『ああ。釣りに行きたいなあ。』と思うことも多かった。
9月に子供が生まれる予定だったので、8月の暑い時期にボクはもう一度釣りに行った。
これが数えて3回目の釣りである。
とにかくここは外したくないので確実に釣れる釣りがしたかった。
だから管理釣り場に行くという選択をした。
ここなら下に魚が泳いでいるので確実に釣ることができるからだ。
『セニョールトルネード』というルアーを使えばそれなりに釣果は期待できるわけだ。
子供が生まれる前の最後の釣りはそこそこの結果に終わった。ニジマスが数匹に岩魚が1匹混じるという結果だったので、まあ・・・そこそこではあると思う。いつも行っている管理釣り場も最近では岩魚を入れることが少なくなったのか、岩魚を釣りたくても釣れないことが多くなってきた。それに全体的に魚がすれてきている感じでニジマスのかかりもなんだか悪くなっている。
ボクの腕が悪くなっているのか、条件が悪かったのか・・・。
本来ならもう少し何度か通って釣ればそれなりに大釣りすることもあるのだろうけど、いかんせん釣りに行くこと自体の回数が少なかったので結果もともわなかった。
それもこれも腕が悪いと言ってしまえばそれまでなのだが・・・。
昨年に釣りに行ったのは以上の3回である。
満足の行く釣りはできなかった。
こうやってあらためて考えてみると夏から秋にかけてのこの時期というのは大抵ボクは海か湖にいることが多い。
海や湖・・・と言ったが、基本的には海釣りが多く、毎月のように友人と一緒にメバルやイシモチ釣りに出かけたり、時にはワラサを釣りにでかけたりもした。
昨年のその時期は、今まで体験したそう言った釣りの妄想をしてなんとかごまかしてきた。9月には息子が生まれてきたので釣りどころではなかったのだが、越冬して暖かくなってくると、なかなかそんな妄想だけではなく本当に釣りに行きたいと思うようになってきた。
この回ではメバル釣りやイシモチ釣りに関しては触れていないのでそこに少し触れて行こうかとも思う。
メバル釣りは非常に面白い。
この釣りはけっこうな種類があり、岸から普通に釣るメバル釣り、ルアーを利用して釣るメバリング、それから船で釣る夜メバル、同じく船で沖に出て釣る沖メバル。
ボクはこの中で今までやったことのない釣りは沖メバルだけである。
これは実は沖に生息する赤メバルを狙った釣りであり、狙いはボクが今まで釣ってきた黒メバルではない。個人的には赤メバルは実に美味と聞いたことがあるので一度やってみたい釣りではある。
岸から普通に釣るメバル釣りに関して言えば基本的にメバルだけを狙って釣ったことはない。ただアジとか他の魚を狙って釣りをしていたらたくさん黒メバルが釣れたということがあるということだけである。
横浜近郊の東京湾では岸から釣れるメバルなどたいして大きくもないし、それに最近では魚も減ってきているので釣れないから、岸からメバルを狙って釣ることは少なくなってきている。
それに比べて東伊豆にいたころは春の季節にはゴロタ石からルアーをぶん投げてよくメバルを狙った。
ここで釣れるメバルの大きさが尺どころの話ではなく非常に大きい。大きい分少し大味になってしまっているので味は今一つであることは否めない。
ボクはここでメバルを釣りあげたことはない。
何度かメバリングをやったがうまく釣ることが出来なかった。どうも軽いルアーを遠くまで飛ばすことがうまくできなかったからだ。
ではなぜその場所ででかいメバルが釣れることをボクは知っているのか?
それは簡単である。
つまりは隣りで釣っている友人が釣りあげたからである。
いつの日か・・・ここでのメバル釣りはもう一度チャレンジしてみたいものである。
さて・・・。
一番面白い釣りは夜メバルである。
夜メバルは夕方から船に乗り込んで行う。
通常夜釣りというのはデコライトをしながら手元に明かりを確保してやるので、仕掛けを作るにしても魚をとりこむにしても昼間の釣りよりも苦労は大きいのだが、この釣りの場合、船にはある程度明かりがあるから、夜とはいうものの非常に楽な釣りである。
ボクが船酔いすることについては以前話したとおりだが、問題の船酔いに関しては沖に出るわけではないので、揺れが少なくまったくもって平気である。それでも一応、薬を飲んでから船に乗り込んでいるが、もしかしたら薬すらいらない可能性も高いかもしれない。
まあ・・・そんなことを言って体調管理を怠ると船酔いしてしまうのかもしれないのでなんとも言えないのだが・・・。
メバルを釣るポイントは岸壁周りである。
つまり堤防の壁の真下がポイントになる。
そんなところであるならば何も船で行かなくてもいいではないか・・・と思うかもしれない。しかしこれにはそれなりにわけがあるのだ。
というのも岸壁周りは岸から攻めるのは非常に難しい。
真下に落として釣るというのはやってできないわけではないものの、実はテクニックを要するのだ。
クロダイを釣る時に、堤防の真下を狙って釣る『落とし込み釣り』という釣り方があるのだが、それが非常にテクニックが必要で、本命のクロダイはおろか、素人では魚を釣ることすら難しいという事実は、岸壁周りの釣りを岸から行うことの難しさを説明するに足る事実であると思う。
船で行くには他にも理由がある。
釣れるポイントでもある岸壁は岸からだと立ち入り禁止になっていたりするのだ。
海から船でポイントに近づく分には問題はないので船釣りになってしまうのである。
さて・・・この釣りは仕掛けをたらせば面白いように魚信がある。
ただし仕掛けをたらすだけでは魚は釣れない。魚信はあってもなかなか釣れないのだ。
これはどの釣りについても言えることであり、一見してエサをつけて投げてそのまま待っているだけに見えるような釣りに関してもそれなりの工夫があったりするのだ。
ポイントに仕掛けをたらして、少し誘いをかける。そして数回誘いをかけてあたりがなければ、すぐに仕掛けを回収し、またポイントに投入する。それを粘り強く繰り返すのである。
力がいる釣りではないし、常に魚信のある釣りであるので、何度やっても面白い。
少し胴調子の柔らかい竿を利用して釣れば、メバルやカサゴのようなあまり大きな魚でなくてもその引きを存分に味わえる。
両軸受けのリールを使用しているので錘が15号以上のものを使わなければ、糸が出て行ってくれないのでポイントまで仕掛けが届かないということがあるのだが、これも自由に仕掛けを変えて、スピニングリールを利用して、錘も軽いものにすればもう少し面白いのではないか・・・と模索している最中ではある。
なんといってもメバルもカサゴも美味しい。
夜メバルの船から釣れる魚は基本的にはそんなに大きくない。
もちろん大きいものも釣れることもあるが、前述の東伊豆の釣り場に比べれば魚はどうしても小ぶりなものが多い。
そういうことなのでキープする魚は考えてキープした方が良い。あまり小さいものをキープしてしまうと骨ばかりで食べるのに非常に苦労する。
まあ・・・それでも小さい魚は鱗をとってエラを取り、はらわたをキレイに洗ってから味噌汁に入れて食べると美味しいのだが・・・。
『小さい魚はリリースしてあげた方がいいのかな??』
なんて子供が生まれた最近では仏心が出てしまう。
大きめの魚はどう食べても美味しいのだが、ここはオーソドックスに煮つけをお薦めしたい。
昨年から今年にかけてボクはこのメバル釣りには行けていないのだが、友人から大きめのメバルを分けてもらって煮つけにして食べた。
確か、息子が生まれて1ヶ月経つか経たないかの頃の話だった。
片手鍋に水と酒を入れて軽く煮たたせたところで、火を弱火にして刻みしょうがと魚を入れる。
魚はエラとワタをキレイにとって、飾り包丁を入れて下処理したものを入れる。
そしてその後、しょうゆとみりんを1:1の割合で入れて、落し蓋をし、弱火で10分ほど煮る。
たったこれだけのことである。
こういう料理がめんどくさいという人が多いが実にもったいない話である。
というのも魚料理を覚えると今度は釣りに行けなくとも魚屋に行って、旬の魚を購入して調理するという別の趣味を楽しむことができるからだ。
それにこんな簡単なことだけで酒のお供にも美味しい魚料理が楽しめるのだから、かなり安上がりでお得感がある。飲み屋で同じものを頼むとそれなりの金額がかかるのだから、一人で家呑みするときは自分で調理することをオススメしたい。
ちなみにだが・・・もらった魚は実に美味しかった。その日はかみさんの実家にいたので酒を飲むわけにはいかなかったのだが、阪神タイガースがクライマックスシリーズで奇跡的にジャイアンツを4連勝で下して日本シリーズに出ることを決めた日だったということもあって、それがまた美味さを引き立てていた。
話は変わるが、少し前に夜メバルをやりに行って、大きなアナゴを釣ったことがある。
実はこのメバル釣りは外道も楽しませてくれる。
メバル釣りと言いながら、メバルよりたくさん釣れてしまうカサゴは実に面白い上に美味しい魚であるし、運がいいとスズキなどの大物が釣れることもある。アナゴが釣れるのもけっこうある話ではある。
それにしても個人的にはヘビの親戚のようなアナゴは好きではない。
もちろん調理してあるものは大好きで寿司屋などにいけば必ず食するが、生きているアナゴを触ったりするのは好きではない。
だからいくら大物でもアナゴが釣れてもリリースしてしまうことが多い。
はるか昔、独身時代に多田くんや保田くんと夜釣りに行った時もそうだった。やたらアナゴが釣れたのだが触りたくなくてすべてリリースしたのである。
ただ夜メバルの時のアナゴは過去に釣ったどんなアナゴよりも大きかった。
丸太みたいな感じのアナゴでかかったときは重い引きに何がかかったのか・・・と期待したものである。
釣りあがってくる前に船長が『ああ、それはアナゴだわ。』と言ったのでやり取りしながらも少し憂鬱だった記憶がある。幸い、同行した友人がメゴチばさみの大きなものをもっていたので手で触れずに済んだのは不幸中の幸いだったのだが、船長が言うには噛まれたら指の皮がひどいことになるので触らない方が良いとのことだった。
本来ならリリースしたかったのだが、船に乗っている釣り人すべてからの羨望のまなざしにリリースすることができなくなった。確かにちゃんと調理すれば美味しい魚なのではあるが・・・できれば調理はしたくないというのが正直なところだった。
家に持ち帰ってもかみさんが調理してくれるわけもない。
仕方なく翌日の朝早くに起きて、アナゴを調理していたらかみさんが起きてきて、スマートフォンでカシャリとアナゴの写真を撮って一言・・・『気持ち悪い・・・。』とつぶやいてまた寝床に入ってしまった。
やはり・・・というところである。
まあ・・・そもそもは自分で釣ってきた魚なのだから責任上、自分で捌くべきなのではあるが・・・。
アナゴは包丁でしっかりしごいて表面のぬめりをとってから三枚おろしにして骨切りをしてから醤油とみりんに漬け込んで、みりん干しにした。その後、焼いて食べたらかなりの美味だった。
ただ少し身に弾力がありすぎるのが気になるところだったので、今度、アナゴが釣れたら、醤油とみりんで煮てみようかと思っている。
やはりなんでもめんどくさがってはいけないのである。
まあ・・・この場合はめんどくさいというよりは気持ち悪いから触りたくないという気持ちの方が強かったのだが。
食べると美味という魚はどうしても釣魚の対象としてボクの中ではランキングが上がってしまう。
そういう意味でイシモチ釣りはボクが今までやった釣りの中で一番好きな釣りである。
中にはこれ専門にやる人もいると聞いたことがあるのだが、それも分かるような気がする。というのもイシモチという魚を食べることができるのは釣り人の特権だからである。
というのもこの魚は非常に足の速い魚で『生き腐れ』と呼ばれるサバと同じような処理をしないといけない魚だからである。鮮度が命なので滅多に市場には出回らない。釣れたそばから血抜きをしないと臭くて食べられない。そしてあまりに鮮度が落ちてしまうとあからさまに味が落ちてしまう。
そんな魚であるからして、釣ってすぐに鮮度のいいところを調理して食することができる釣り人なら、このイシモチ美味しく食べられるのである。
実はイシモチという魚は岸からでも釣れる魚ではある。
海底が砂地であることが生息している条件であるので外道にはシロギスがかかったりするのだが、鎌倉の腰越漁港あたりでもお目見えできる魚なのである。腰越と言えば保田くんがテトラで遊んでいたら誤って竿を海に落としてしまったり、正月に釣りに行ったら釣具屋が空いておらずエサを購入できなかったために、仕方なくコンビニでパン粉を購入して釣ろうとしたり・・・とまあ釣りに関してはろくな思い出しかない。
しかし一度は太っちょの茨木くんと釣りに行って、夕方ぐらいにイシモチや舌平目などを爆釣した思い出もある。つまりちゃんとした釣り方をすればちゃんと釣れる場所でもある。
残念なことに腰越漁港は車が進入できなくなってしまったので、最近では足が遠のいている。
もし50㏄の原付を購入するようなことがあれば行きたい釣り場ではある。
イシモチの良いサイズのものを釣りたければ岸からではなく、船に乗った方が良いのでは??とボクは思っている。と言ってもこの魚専門に岸から釣りをしたことがないのでなんとも言い難いのだが、それでも夜メバルの例から考えても船からの釣りはかなり高確率で釣れる。
多少の出費をしても確実に釣れる方が釣りは面白いのだ。
『釣れなくてもいい。その雰囲気を楽しみたい。』
という釣り人は本当の釣り人ではない。
ボク自身そんなことを言うことがたまにあるが、言っていることとは裏腹に『あわよくば釣りたい。』と思っているのだからこれは間違いのない話なのである。
イシモチを船で釣るとなると船はけっこうな沖に出ることになる。
だから夜メバルの時と違って薬の効きが遅いと船酔いに襲われることがある。
ただワラサのような大物釣りではないのでイシモチはかかってやり取りをしている時に気持ち悪くてもしんどい思いをしなくても済む。なんとか魚を取り込むことが出来るのだ。
船酔いしていて苦しいのは何と言っても下を向かなければいけないときがしんどい。
つまり、船酔いしているときに魚がかかってしまうと、魚とのやりとりは十分に楽しめるのだが、魚を針から外して、エラにナイフを刺して締めて、バケツに放り込んで、仕掛けにエサをつけて投入するまでのこの一連の行為がしんどいのである。
まあ・・・基本的には酔い止めを飲んでいるから薬が効くまでのガマンなのではあるのだが・・・。
前述したようにイシモチは砂地にいる魚なので時に面白い外道が釣れることがある。
それもこの釣りの魅力ではあるのだ。
よく釣れる外道としてはシロギスがある。
この魚は天ぷらの天だねとして有名な魚で白身で非常に美味しい魚である。刺身や焼き魚でも食べることができるが基本的にはやはり天ぷらが一番美味しいのではないかと思う。キスは天ぷらにすると、白身でほろほろとして、実に美味しい。
江戸っ子は天つゆで食べるというが、個人的には塩で食べてもらいたい。
白身の少しタンパクな繊細な味は天つゆにつけてしまうと損なわれてしまう傾向にあるので、あまりごてごてと味をつけずにそのまま味わってもらうのが一番だと思う。
そもそもイシモチという魚自体が天ぷらにすると美味しい魚なので、外道で釣れたシロギスと一緒に天ぷらにして食べると実に美味しいのだ。
またボクは釣ったことはないが、外道でなんと真鯛が釣れることもあるらしい。
確かに春先には真鯛は産卵のために浅い砂地に移動してくるからそういうこともあり得るのだ。そして春先の真鯛は旬であるので実に美味しい。今度釣りに行く時はできればそういう嬉しい外道が釣れるといいな・・・とも思っている。
さて、イシモチ釣りの仕掛けは至ってシンプルである。
岸から投げ釣りで釣る際はテンビンに仕掛けを付けてぶん投げるだけだが、船釣りの場合は胴付仕掛けを使う。潮の流れがあるので錘は30号を使う。
ちなみに岸から投げて釣る場合でも錘は大きくても20号前後、30号の錘などは使わない。
やはり沖に出ると潮の流れが速いのだとあらためて感じさせられる。
船でポイントにつくとエサを付けて仕掛けを投入する。
底に仕掛けが到達したらそのままにしてしばらく魚信を待つ。
実にシンプルな釣りで素人でも釣れる釣りである。細かなところではうまい人と下手な人の釣果が分かれるのだろうけど、この釣りは簡単な釣りである。
このエッセイではよく保田くんや多田くんと釣りに行ってはろくな釣果を残していないことをネタにしているが、できれば彼らとこの釣りをしてみたいと思う。というのもこの釣りならよほど条件が悪くない限りは一定の釣果が得られるからだ。
当然のことではあるが船から釣るので他の釣り師に迷惑をかけてはいけないわけだから、間違えても呪いなどをかけるわけにはいかないので釣りに集中することができるだろう。
さてイシモチの食べ方ではあるが、前述のように天ぷらにして食べるのが美味しいのだが、その他にも刺身、酢漬け、さらには開いて干物にすることもできる。
刺身に関しては、鮮度が命なので、これは釣ってきた日かその翌日ぐらいまでしか食べることができない。
だから20数匹釣ってきても刺身で食べるのは1匹か・・・多くて2匹である。
ボクはイシモチ釣りをする前からその魚の存在は知っていた。
前述した腰越漁港では岸からイシモチがよく釣れるからである。
ただ、教えてもらうまでイシモチという魚が刺身で食べられる魚であることを知らなかった。
釣れてすぐに血抜きを完全にやってしまい、下処理を早めに済ますなら、刺身にして食することができるということを教わってからは刺身でも食べるようにしている。
この刺身が非常に美味しい。
身が柔らかいので刺身にすると、引くときに少し身崩れしてしまうのだが、口に入れると柔らかいのと程よい油加減とタンパクで白身魚独特の味わいが重なって、うまく表現のしようがないような味わいが楽しめるのである。
刺身が食べられると聞いて、これは絶対に美味しいだろうと思って作ったのは酢漬けである。
三枚におろして、皮はつけたままにして、熱湯をかけた後に氷水をくぐらせてから昆布と三杯酢で締めるのである。
こちらは身がきゅっと硬くなってくれるので、切り身にする際に身崩れしないので刺身よりオススメである。しかもやっぱり美味しい。
さらに、イシモチは白身の魚なので干物にするとかなりの美味ではある。
いつも1回の釣りに20匹以上は釣って帰ってくるのだが、その大抵を天ぷらにしてしまうので、干物になる数が少ないのだが、これがアジの干物を超えるぐらい美味しい。いつも干物をたくさん作ろうと思うのだが、釣果の中にシロギスが入ってしまうので、天ぷらがメインになってしまうので干物が少なくなってしまうのだ。
干物も美味しいのだが・・・天ぷらも実に美味しい。
こんなにうまい魚がいたのか・・・と言うぐらい美味しいのである。
アジの干物が好きな人にはこのイシモチの干物はオススメである。白身で若干タンパクな味ではあるものの、朝食べるにはちょうどいい。夜に食べるのでも酒の肴にはピッタリである。
骨もそんなに固くないので、骨せんべいにもできるのではないかとボクは思っている。
嘘だと思う人は一度食べてもらいたいのだが、まずはイシモチを釣りに行くところから始まり、その後、開きにして干物を作るという工程が待っているので、非常にハードルが高いことではある・・・。
イシモチと言う魚そのものがあまりメジャーな魚ではないので、食べ方をこのように書いてもそんなにピンと来ないのかもしれないが、とにもかくにも食べ方が豊富な魚というのは釣って帰るのが非常に楽しみになる。
最近では大物を釣ることよりもいかに調理して美味しい魚を釣れるかが、ボクにとっての楽しみにもなりつつある。
基本的には食べられる魚を釣りたいのがボクの釣り人としての心情ではあるのだが、それでも食べられない、もしくは食べられないことはないけど調理の仕方が分からない魚を好んで釣る場合もある。
その代表例は鯉やフナであり、この釣りをする大半の人間は間違いなく釣れた魚をリリースしている。
鯉釣りだけでなくとも、ヘラブナ釣りの人間などもそうであり、釣るのに非常に技術を要する釣りは、『釣る』ということだけに特化した楽しみ方をする場合もある。これは今でいうゲームフィッシングである。
ゲームフィッシングがあまり好きではないボクも、お手軽に楽しめる場合に関してのみそれを楽しむことがある。
若い頃に戸塚を流れる柏尾川で釣りをしたことを前述したと思う。
あの川は戸塚駅のすぐ横を流れているから、あんなところで釣りをしていれば非常に滑稽ではある。
若気の至り・・・とはよく言ったもので、20歳そこそこの頃にそんな場所で釣りをしたことがある。なんといってもすぐに釣れるというのが魅力で釣りをしたのだ。
これが本当にすぐに釣れる。
水面をのぞくと鯉が大量に泳いでいるのが良く見えるから、まあ竿を出せばだれでも釣れるのだろう。
それにしても『見える魚は警戒心が強いからなかなか釣れない』というのだが、そんな話がにわかに信じられなくなるぐらいここはよく釣れるのだ。
エサはパンで、針にパンをつけて川に落とせば数秒で鯉が食いついてくる。
そこには何の警戒心もない。
あまりに簡単に釣れてしまうので、逆の意味で飽きてしまったのを覚えている。
当時は保田くんと多田くんと3人で釣りに行った。
この3人で釣りに行くとまったくもって釣れないことの方が圧倒的に多いのだが、あそこだけは特別だった。
そして柏尾川にはボラも上がってくる。
一応、戸塚、大船近辺は汽水域らしく、春先になるとボラが上がってくるのだ。
『ボラを釣りたい。』
あろうことか当時は本気でそう思っていた。
今でこそボクと保田くんに『ぼら王』というあまり嬉しくもないあだ名をつけられている多田くんだが、ここではボラは釣れなかった。
何をやってもボラがエサのパンに食いついてくることはなく、奴らはあそこで何を食べて生活していたのかが非常に気になるところではある。
結局その日は鯉しか釣れなかったが、ボク自身は大満足だった。
鯉の強烈な引きを楽しむことができたというだけでも十分だったからだ。
余談になるが、保田くんに鯉の取り込みを頼んだのだが、彼は当時、なんと魚に触れることができなかった。
びびりながら『うわー』とか言いつつ網をかまえている彼にボクはこう言った。
『まさか・・・君。魚に触れないんじゃ・・・。』
『まさかもなにも・・・やだよ。ぬめってるし、でかいし、暴れるし・・・。』
非常に複雑な表情をして保田くんはボクに言っていた。
ただ・・・取り込むと言っても魚に触れることはほとんどなく、ただ網で魚をすくうだけのことである。
確かに魚が暴れて水が少しかかってしまうぐらいのことはあるかもしれないが、それにしてもそんなに大変なことではないと思うのだが・・・。
ま・・・あくまで余談である。
たくさん釣り過ぎて飽きてしまったのでボク自身、今となってはこんなにも簡単に釣れる柏尾川の鯉を釣りたいとは思わない。
ではなぜ、こんな話をここで書くのか。
それは柏尾川にナマズが生息しているという話を聞いたからである。
柏尾川といえば自宅からもそんなに離れているわけではない。だから釣りに行くと言っても非常にお手軽に楽しめるスポットなのである。
鯉釣りだけなら前述したように簡単に釣れすぎてなんの魅力もなかっただろう。
以前にも話した通り、今までに釣ったことのない魚を釣るということは非常に魅力を感じるものであり、ナマズという魚は身近なようで実はボクは一度も釣ったことがない。
似たような魚で海に生息するゴンズイという魚は釣ったことがあるのだが、これは毒針をもっている魚で触ると大変なことになるので釣れたところで全く嬉しくもない。
ゴンズイといえば・・・。
以前に太っちょの茨木くんと釣りに行ったときにボクはゴンズイの話をした。
『やべ・・・ゴンズイがいるみたいだな。』
海の水面を堤防から覗き込んだら、多くの魚が泳いでいるのが見えたのだがその大半がゴンズイだったのでボクは思わずそう言った。確かその日は茨木くんだけでなく、保田くんも多田くんもいたと記憶している。
『ゴンズイ?食えるの??』
一事が万事、茨木くんはこうなのだ。
確かにボク自身、釣る魚は美味しいものが良いと思っている。
それは前述の通りではある。しかし何が何でも食べられる魚ばかりを釣魚に求めているわけではない。
鯉やフナを釣るときはそのゲーム性を楽しむし、海の魚を釣る時も食べることだけでなく、自然の中での自分の息遣いを感じながら、その中で魚との知恵比べというゲーム性を楽しみつつ、釣れ上がった魚が美味しいものであるならば、美味しく調理していただくということなのである。
それを茨木くんは最初から食べることしか考えていない。
これを例えて言うならば、女性との恋愛の仕方に例えることができる。
恋愛というのは相手との会話を楽しみ、相手が持つ人間的な魅力に触れながら、時間をかけて愛をはぐくんでいくものだとボクは思う。
茨木くんの釣りのやり方はいわば、そういうことをすっとばして、結婚だけを考えるやり方である。
まったくもって無粋で野暮な奴である。
『食えるよ。白身で美味しいらしい。』
ボクはめんどくさくなってそういう風に答えた記憶がある。
『あ・・・でもね・・・。』
ボクはそのあとちゃんとゴンズイが毒針を持っており釣れたらまずは素手でつかむことは避けなければいけないことを伝えた。
確かに伝えるには伝えたのだが、彼はそんなこと耳に入っていなかった様子だった。
今思えば、あの日、茨木くんがゴンズイを釣って彼が痛い思いをしたら・・・。
彼には大変申し訳ないが、ボクはとりあえず大笑いしただろう。
こうやって書いている今もそんなことを勝手に想像してニヤニヤしている。彼が『うわ!』とかなんとか言いながらあの太く毛深い身体をよじらせながら、『くはああ!』とか言って、必要以上にオーバーリアクションで悶えている様子は・・・言っちゃ悪いが大変おもしろい。
残念ながら茨木くんの竿にゴンズイがかかることはなかった。
当時から夜勤をやっていた彼は途中で眠くなって堤防で眠ってしまった。
そんな中、釣り場にはボラが回ってきたのだ。ボラと言ってもそんなに大きなものではなく、どちらかと言うとボラというよりイナと言った方が良さそうな大きさの魚ではあったが、今では考えられない話だがそんなボラでもボクらは釣りたいと思っていた時期があり、その頃はまさしくそんな愚かな時期の真っただ中だった。
サビキ釣りの仕掛けを使ってボクと保田くんは釣りをしていた。
サビキ釣りはよほどの悪条件下でなければ釣れるという仕掛けで、ボクらの中では『保険』という名前で通っていた仕掛けだが、釣りたい気持ちが高いボクと保田くんは釣りを初めてすぐさま『保険』を投入した。
安易な方法へすぐに逃げるのがボクの特徴なのである。
そこを行くと多田くんは最初から最後まで釣れなくても初志貫徹して浮釣りで釣るからたいしたものである。
ボラが回ってきたらチャンス到来!そう思ってボクは自分の仕掛けの周りにエサをまいた。
ボクの隣で釣っていた保田くんにも釣ってほしくてそうしたのだ。
おかげさまでボクは数匹のボラを釣ることができた。当時は呪いでもなんでもなく本気で釣りたいと思っていたから嬉しかったのだが・・・正直、今では嬉しくもなんともない。
『仕掛けを少し上下して少し誘いをかけてみ?』
ボクは自分の釣りを中断して保田くんに言った。
『ああ。』
保田くんは言われた通りにした。
するとすぐに保田くんの竿がしなってボラが釣れた。
『おし!!』
『おお!!やったー!あ・・・。』
保田くんが『あ・・・。』と言ったのは釣り上げる手前でボラが暴れてしまい針から外れて、寝ている茨木の顔に落下したからだった。
『おい!!』
茨木くんはむくりと起き上がって保田くんにすごんだ。
保田くんだってわざとやったわけではないのから、怒るのは筋違いである。いつもは悪乗りして、いたずらばかりしているボクだが、その時はそんなことをしていたわけではなかったので、茨木くんにそう伝えたのだが彼はぶつぶつ怒っていた。
茨木くんはいい奴だ。
しかしちょっと野暮なところがある。
空気が読めないところがあるのだ。
彼のやることが例え合法で正しいことであっても、なぜか頭にくることがあるのは彼のそういう無粋な気質なのだろうと思う。
こう考えてみると野暮で無粋な考え方の持ち主には釣りというスポーツには向かないのかもしれない。
さて話を元に戻すことにする・・・。
何が言いたかったかと言えば・・・それは今まで釣ったことのない魚というのは非常に魅力的であるということと、若かりし日のボクにとってのボラがそうであったということ、またゴンズイという魚がナマズに似ているということである。
で、今はナマズがその部類に入る。
釣ったことのない魚というのは一度釣ってみたくなるものなのである。
ただそれにしてもナマズという魚は決して気持ちのいい姿をしていない。
どちらかと言えばグロテスクな風貌であり、あまり釣っても気分のいいものではないだろう。それに関してはどう考えてもボラ以上なのかもしれない。
それに・・・噛みついてきたり、毒針で刺されたりするようなイメージがつきまとう。
実際にはそのようなことはまずないのだが・・・。
ナマズを釣りたいと思っているのは何もボクだけではない。
ナマズは今、釣り人の間でムーブメントを起こしているのである。
どこの釣具屋に行ってもナマズ釣りについて特集しているコーナーがある。ボク自身も柏尾川にナマズが生息し釣れることを釣具屋で知ったのだ。
何故、ムーブメントを起こしているのだろうか?
それは何を隠そうルアーフィッシングの人気に便乗したというところが正直なところであるとボクは思っている。YouTubeの動画などを見てもナマズ釣りの動画が多数見れる。
水面に浮かぶルアーに誘いをかけると、それに食いついてくるナマズの動画は釣り人なら確実に心を惹かれるであろう。
そういうわけでボクは柏尾川にナマズがいるという情報をキャッチしてから釣りに行きたくなったわけである。行きたくなった・・・というのは語弊があり、実は過去に一回釣りに行っている。
こればかりは一人で行った釣りなので、おもしろエピソードは何もない。
ただ結果から言えば・・・『Yes!ぼーずぃー!』であった。
ナマズは夜行性であるということから、日が落ちて暗くなってから釣りに行ったのだが、暗いとルアーがどこに飛んで行ったのかが目視できず、ルアーをどうやって動かせばよいかも分からずに、数投のうちにもっているルアーの大半をなくしてしまった。
これだからルアー釣りはキライなのである。
素人にやさしくない釣りである。
ボクのようなヘッポコ釣り師にはエサ釣りが一番向いているような気がしてならない。
ルアーを多数失くしたそのポイントもいい感じで流れ込みがあり、川辺にはコンクリートではなく、土と草がボウボウに生えており、見るからにナマズが潜んでいそうなところであった。あそこでエサ釣りすれば一発でナマズが釣れそうな気がするので、もう一度このナマズ釣りにチャレンジしたいと思っている。
子供ができてからなかなか釣りに行けない日々が続いているボクだが、なんとか釣りに行けないか・・・いつも模索している。最近では仕事をさぼってでも釣りに行きたいと思うようになってきたから少し重症なのかもしれない。
しかしイシモチやメバルのような船での釣りならいざ知らず、お手軽な釣りなら少しは行けるのではないか・・・と思っているところがある。
実際にはそんな暇はないのだが・・・。
まあ・・・。
一言で言ってしまえばあきらめが悪いのである。