雨の日は入れ食いというのは何かの夢だったのかもしれない
その日は大雨だった。
台風が少し遠くに存在しており、その影響で雨が降っていた。
少し遠くにいるので、台風の影響は雨ぐらいで、災害が起きる可能性は低く、大雨ではあっても風はそんなに吹いていなかった。
『え? 行くの??』
釣りに誘うと保田くんはそう言った。
当たり前である。
外は大雨なのだ。
まともな感覚で言えば釣りなど行かないのが普通である。
『管理釣り場なら安全に釣れるって聞いたから』
『まあ、そりゃ池タイプの釣り場ならよほどじゃなければ危なくはないだろうけどさ』
『だろ……。じゃあ戸塚で待ってて』
『いや、待て』
『なんだ? 何か問題でもあるのか?』
『ある』
『何?』
『釣れるのか?』
『釣れるよ。雨の日は釣れるんだよ』
『え――と……君のその言葉にボクは何度、だまされてきたか』
『だましたつもりはないぞ』
『実際、釣れた試しなどないではないか』
『気のせいだよ』
『嘘つけ』
『親友の言葉を信じられないのか?』
『逆に信じられる根拠を教えてほしいのだが』
『いや、だから雨の日は釣れるんだって』
『いや、だから雨の日に釣れた試しはないんだって』
『ああ、すまんすまん。それは海釣り限定だ。今回は管理釣り場だから間違いない』
『……本当か?』
『ボクは嘘をついたことはないぞ』
『まあ、確かに……。結果的に思ってたんと違うことはあったが君は嘘はつかんな』
『だろ。戸塚集合ね』
釣りに行き渋る保田くんを説得してボクは戸塚に車を走らせた。
貴重な土曜日。
1時間でも長く釣りがしたい。
その日、保田くんとは9時ぐらいに合流し、管理釣り場に着いたのは12時ちょっとすぎだった。
途中で寄ったコンビニでお昼を買って、車の中で食べたのだが、そこでも雨が酷かった。
『うわあ……すごい降ってる……これで釣れなかったら最悪だな』
『え? 釣れなかったら?? 雨の日は釣れるんじゃないのか?』
『100%はないよ』
『ちょ……ボクは君が釣れるというからそれを信じて来たのだが……』
『雨の日は釣れる……確率が高いということなのだが何か?』
『確率……君というやつは……』
保田くんは絶望的な顔をしてボクを見た。
いやいやいや……。
物事に100%というものはないのだ。
絶望的な顔をしていた保田くんだが……。
カッパを着て濡れながら釣りを始める頃には、なぜかハイテンションだった。
男という生き物は基本バカなことを喜んで行う生き物なのだ。
だれかがそんなことを言っていたが、確かにボクらにはその言葉はピッタリとあてはまった。
雨の中の釣りは寒く、体力を消耗し、前述したようにすぐ飽きるのだが……。
魚が釣れるとなれば話は変わってくるのである。
その日の釣りは入れ食いだった。
こうなるとボクも保田くんもアドレナリンが出まくるので寒さなんか感じない。
二人して、大雨の中、大喜びでガンガン釣りまくったのだ。
その日以来、ボクは管理釣り場にいく日は雨が降ることを期待するようになった。
ただ……
雨の日に釣りに行って入れ食いだったのはこの日だけで、二度目はまだ経験していない。