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雨は釣れるのかもしれない

 ボクは雨男である。

 ちなみにかみさんも雨女なので、結婚してから予定していたイベントが雨になることが多かった。

 そもそも結婚式も雨だったし……。


 そんなわけではないのだろうけど、ボクが釣りに行こうと思って予定していた日が雨になるということが残念ながら非常に多い。


 釣りに行こうと空を見上げると黒い雲が空に広がり、世界の終わりのように朝から暗いということが、けっこう高確率であるのだ。


 釣りというスポーツは自然の中でのアクティビティーなので、基本的には悪天候の日は行かないに尽きる。条件にもよるが、雨が降って荒れている日は海や山に近づくと命の危険があるので、そんな場合は行かないという選択をするしかない。

 とは言うものの、忙しい中、ようやくやってきた貴重な休みの日を指折り数え、待っていたという事実があるとどうしてもあきらめきれない時もある。


 天気図とにらめっこし、にわか雨とか梅雨時のしとしと雨なら、雨は降ってはいるもののそんなに荒れていないという場合もあり、そういう場合は雨の中、釣りに行くという選択をすることもある。


 雨の日の釣りは過去にいい思い出がない。

 濡れる中、釣りをしても魚は釣れず、寒くなってきて、1時間も釣らずに帰ることが多い。

『雨の方が釣れる』

 そんな愚かな妄想をいつもするのだけど、雨の方が釣れた試しはほとんどない。

 まあ、実際には晴れていてもそんなに釣れないのだけど……。


 高校時代の親友である保田くんと多田くんを誘って釣りに行った日も雨であることが少なくなかった。

『釣れないなあ……』

『ダメだねえ』

『なんでかな……』

『さあ? 寒いからか?』

 季節は梅雨時期なのでそこまで寒くはないのだけど、やっぱり雨の中、濡れながら釣りをするというのは非常に体力を消耗する。

 しとしと……雨に打たれながら、竿を握って、水面に浮いているウキを凝視する。

 身体は少しずつ冷えていく上、ウキにはなんの反応もない。

 出てくる言葉と言えば『つらい』しかない。

 だからだんだん釣りにも飽きてくる。


『よし!! 寄せ餌(コマセ)だ!!』

 ボクは寄せ餌(コマセ)を保田くんの仕掛けがあるところに投げる。

 もちろん呪いの言葉は忘れない。


『ぼら――――!!』

『やめろ……』


 このやり取りで本当にボラがかかってくれればそれはそれで面白いのだけど、こんな日はボラですら現れない。


『寒いなあ……』

『寒いな』

『終わりにしねえ?』

『え? もう?』

『今日は無理だよ』

 一応断っておくが、『終わりにしねえ?』と言ったのはボクである。

 3人の中で一番根性がないのは間違いなくボクなのである。

『まだ始めたばかりではないか』

『無理だって。王でもボラが釣れないぐらいだぞ』


 ボクの言葉に保田くんはボクらから少し離れたところで釣っている多田くんを見る。


 多田くんの仕掛けにはかなりの高確率でボラがかかるという笑い話は以前に『多田くんとボラの微妙な関係』という話しの中でしたが、そんなぼら王でもある多田くんでも、この日はボラを釣ることができなかったのだ。


『確かに……王でも無理か……』

『だろ。今日はもう辞めようぜ。寒いし』


『君と言うやつは……』

 保田くんは半ばあきれた顔でボクを見るが、彼もボクに負けないぐらい根性はないので終わりたかったに違いない。そもそも保田くんに根性があればボクの友人であるわけがないのだ。

 お互い根性がないからこそ、こういうときに気が合うのである。


 まあ……。


 それが良いかどうかはこの際考えるのはやめておこう。

 多田くんは優しいからそんなボクらに合わせてくれる。


 結果として雨の日に気合を入れて釣りに行ってもこういうことになるのだが……

 なぜかボクは雨の日は釣れるという迷信のような話を信じ続けていた。


 雨の日は釣れる。

 この何の根拠もない話を信じ続けて十数年。


 ついにボクは保田くんと雨の日に釣りに行って、入れ食いという状態を体験したのである。

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