第1話 言葉だけでは伝わらないもの。それってなーんだ?
ヴィーナスとアルテミス。聖杯。詩人。愛の詩。竜灰病。伝説の聖なる竜を追いかける。
言葉だけでは伝わらないもの。それってなーんだ?
竜灰病 だんだんと体が白いうろこにつつまれて、やがて竜になってしまう不思議な病気。不治の病。
聖杯 この器で清らかな水を飲むと、あらゆる病気を治すことができる神さまの器。
自分の手がだんだんと白くなってくのがわかった。真っ白な、うろこみたいなものがある見慣れた手。
竜灰病。
人がだんだんと白い竜に変わっていく不思議な病気。
治療法はなくて、かかった人はみんないずれは竜になってしまう。
私ももう少ししたら、竜になってしまうのだろう。
真っ白な竜に。
竜になったら、どんなことをして生きていこうかな?
お友達はできるだろうか?
竜たちは私のことを竜の仲間だって、そう思ってくれるだろうか?
それともお前は違うって言われていじめられてしまうのかもしれない。
やっぱり竜になるのはこわい。
今の私がいなくなってしまうことが、とってもこわい。
「ヴィーナス。どうかしたの?」
横に座っているアルテミスがヴィーナスの顔を見て言った。
「ううん。なんでもないよ」
にっこりと笑ってヴィーナスは言った。
ヴィーナスの笑顔はまるでそこに新しい花が今、咲いたような、そんなとても美しい(命に祝福されたような)笑顔だった。(思わずアルテミスは顔をほんのりと赤く染めた)
ヴィーナスは本当に信じられないくらいに美しかった。(はじめてヴィーナスと会ったときには、絵の中から天使が抜け出してきたのかと思うくらいにびっくりした)
金色の髪と青色の大きな瞳。
白い肌に美しい子供っぽい顔。
形。
まるで芸術家の創作した絵画や彫刻のように(あるいは音楽や詩のように)完璧だと思える。
そんなヴィーナスは自分の竜灰病にかかっている白いうころの手を隠そうともしていない。
「アルテミス。詩を書くって楽しい?」
ヴィーナスは言った。
今二人は白い馬のひいている白い馬車の中にいる。馬車に乗っているのは二人だけ。(もちろん魔法の馬車じゃないから御者さんはいるけど)屋根のない風がとっても気持ちいい、空の見える古風な馬車だった。
「うん。楽しいよ。ずっと小さなころから好きだったし、詩人の私にとってはお仕事だしね。でもね。ずっと楽しいばっかりじゃない。どうしても言葉だけでは伝えることができないものがあるんだ。詩を書けば書くほど、それがすごくよくわかるようになるの」
ヴィーナスはアルテミスの話をとっても真面目な顔で聞いている。
「とっても楽しそう。私も詩を書いてみようかな?」
ふふっと笑ってヴィーナスは言った。
「なら、一緒に書こうよ。きっと素敵な詩がいっぱい書けるよ。こんな詩が書けるんだって、詩を書いている私たちがびっくりするような詩がたくさんね」
子供みたいな顔で笑ってアルテミスは言った。
「じゃあ約束だよ。『この旅が終わるまでに、私が詩が書きたいなってお願いしたら、私と一緒に詩を書いてね』」
ヴィーナスは言った。
「もちろん。いいよ。私たちは友達だもんね」
にっこりと笑ってアルテミスは言った。(そんな詩人のアルテミスはもう頭の中でヴィーナスのための詩を考えて書き始めていた)
見上げる空はずっと青色だった。永遠の青色。
この青色の向こうに伝説の聖なる竜がいる。
どんな病気も治すことができる聖杯を守りながら。
「愛の詩がいいな」
「え?」
「愛の詩がいいなって言ったの。アルテミス。私のために愛の詩を書いてね。とっても素敵な詩だよ。私がいっぱい泣いちゃうくらいにね」
とふふっと笑ってヴィーナスは言った。




