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「灰宮先輩と秘密の共有(あと、汚部屋の掃除)

本作をお読みいただきありがとうございます。

この章では、前回の気まずい「事件」を経て、結城ゆうきと灰宮先輩の距離が急速に縮まる様子を描いています。

無愛想に見える彼女の意外な素顔と、二人の間に流れる少し不器用で温かい空気感を楽しんでいただければ幸いです。

家に帰り着いても、結城の脳裏にはあの光景がこびりついて離れなかった。

「……あんなものを見て、明日、生きて学校にいられるのか?」

独り言が静かな部屋に空虚に響く。不安と緊張で、その夜は一睡もできないまま朝を迎えた。

翌朝。登校した結城は、下駄箱で靴を履き替えている時、灰宮山城はいみや やましろの姿を見つけた。彼女はパーカーのフードを深く被り、どこか人を寄せ付けないオーラを放っている。

「……おはようございます、灰宮先輩」

勇気を振り絞って挨拶をしたが、彼女は何も答えず、結城の横を素通りしていった。

(やっぱり、怒ってるよな……)

授業中も昨日のことが頭をよぎり、結城は生きた心地がしなかった。放課後、意を決した彼は、彼女がいるであろう保健室へと向かった。

保健室のソファには、昨日と同じように彼女が座っていた。

結城はそっとその場を立ち去ろうとしたが、「……どこへ行くの」という鋭い声に呼び止められた。

「あの、昨日のこと……怒ってますか?」

恐る恐る尋ねると、彼女は素っ気なく答えた。

「殴るつもりなら、昨日やってるわ」

「あ……じゃあ、怒ってないんですね?」

「ええ」

結城はホッと胸を撫で下ろしたが、一つ疑問が残った。

「でも、朝の挨拶は無視されましたし……」

すると、彼女はパーカーのフードを脱ぎ、顔を上げた。

「……昨夜、コンタクトを洗浄液に浸けるのを忘れててね。視界がぼやけてて気づかなかっただけ。それに、耳にはBluetoothのイヤホンをしてたから、何も聞こえてなかったのよ」

そのあまりにマヌケで日常的な理由に、結城の緊張は一気に解けた。

「ふふ、なんだ。……っ、あ!」

結城が笑いそうになると、彼女は急に真剣な表情になり、結城の襟元を掴んで引き寄せた。

「ねえ、連絡先を交換しなさい」

「えっ、なんでですか?」

「さっき、私の話を聞く前はあんなに怯えてたじゃない。普通の男なら、あんなものを見たら正気じゃいられないでしょ?」

「それは……まあ、少しは覚えてますけど」

「『少し』ね……。いい、誰かに言いふらしたら殺すから。ほら、スマホ出しなさい」

強引に渡されたスマホに、彼女は自分の番号を「灰宮先輩」という名前で登録した。

二人はそのまま一緒に保健室を出た。その背中を、養護教諭の女性(20代後半)が温かい眼差しで見守っていた。

「あら……あの子、やっと友達ができたみたいね。入学してからずっと一人だったのに」

結城は彼女を駅まで送り、自分のアパートへと戻った。

部屋は相変わらず、足の踏み場もないほど散らかっている。シャワーを浴びた後、結城は迷った末に彼女へメッセージを送った。

『無事に家に着きましたか?』

その頃、自宅のベッドに座っていた灰宮は、スマホの通知を見て小さく微笑んだ。

「……メッセージなんて来ないと思ってたのに」

頬を赤らめながら、彼女は静かにタイピングを始めた。

翌日。最後の授業を受けている最中、結城のスマホが震えた。画面を見て、彼は思わず身を固くする。灰宮からのメッセージだった。

「明日は休みだから、しっかり休めよ」

先生の言葉と共に終礼が終わり、生徒たちが帰路につく。

結城が一人で廊下を歩いていると、後ろから灰宮が呼びかけたが、考え事をしていた彼は気づかない。

バシッ!

背中に軽い衝撃が走った。

「何ぼーっとしてるのよ」

「あ、灰宮先輩。……実は、明後日母さんが来るんです」

「それがどうしたの?」

「アパートの掃除が終わってなくて。一人でやったら丸一日以上かかるレベルなんです……」

すると、彼女は意外な言葉を口にした。

「……手伝ってあげようか?」

「えっ、本当ですか!?」

「ええ、もちろん」

しかし、実際に連れてこられた部屋の惨状を見て、彼女は結城の肩を強く小突いた。

「保健室は綺麗に掃除できるのに、自分の家はこれなわけ!?」

「二週間に一度は掃除してるんですけど……」

「お母さんが来るんでしょ? 覚悟しなさいよ」

二人の掃除は夜遅くまで続いた。

気づけば窓の外は真っ暗。時計を見た彼女が声を上げる。

「……嘘、終電が終わってる」

「あ、すみません……。じゃあ、今日はここに泊まっていってください」

「この時間に、他にどこへ行けって言うのよ」

少し不機嫌そうに、でもどこか照れくさそうに彼女は言った。

結城は急いで二食分の夕食を作った。

「……美味しい」

彼女は満足そうに完食し、結城が食器を片付けながら提案した。

「先輩はベッドを使ってください。僕はソファで寝ますから」

「そう……わかったわ」

彼女は結城の部屋のベッドへ入り、すぐに深い眠りについた。

結城はロビーにある窮屈なソファに身を沈め、不思議な高揚感と共に目を閉じた。

最後までお読みいただきありがとうございました。

ただの「秘密の共有」から始まった二人の関係が、掃除を通じて一つ屋根の下で夜を明かすまでになりました。

結城の家庭的な一面や、灰宮先輩の少し素直になれない可愛らしさが伝わっていれば嬉しいです。

次章では、翌朝の少し気まずくも甘い空気感を描ければと思います。

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