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第2話 ビンビンは女子に対するマナー

 スーパー陽キャの黒ギャル。黒豹アゲハを家に入れた……俺と真逆の属性の人間を入れてしまった。


 リビングに案内された黒豹は、物珍しそうに部屋を見回している。


「へー、意外と広いじゃん。真面目くんって、1人暮らしなのにこんな広い部屋住んでんの? もしかしてお金持ち~?」


「もともと親父と2人で住んでた部屋だからな。親父が海外に単身赴任中じゃなければ、家になんか入れないっつ―の」


「ふーん。じゃあ……部屋余ってるってことだよね」


「余ってるけど、お前に貸す気はないからな」


「え~! まだそんなこと言ってんの? ウザ~」


「ウザくねえしっっ!!!!」


 黒豹はスタスタと歩いて、ソファーにボフンっと座った。


 他人の家なのに遠慮なんてまったくない。なんだコイツ?


 コスメなのか香水なのか体臭なのか知らんが、甘い匂いがリビングに充満し始めている。


 ……この空間に女子がいるだけで、男臭かった空気が上書きされていくのが分かる。


「なあ、黒豹。ひとつ聞いていいか?」


「ん、なに?」


「なんでお前、泊まるところがないんだ。友達なんてめちゃくちゃ多いんだろ?」


 これは純粋な疑問だった。


 黒豹アゲハといえばクラスの中心人物だ。


 女友達だって多いし、男子からの人気も高い。


 頼めば泊めてくれるやつなんて、いくらでもいそうなものなのに。


 なんでわざわざ知らない他人の家の前で、座り込みしてたんだ?


「まあ……友達に迷惑かけたくないし?」


「俺には迷惑かけていいってことかよ?」


「真面目くんはクラスメートだけど……友達じゃないじゃん?」


「うん、とんっでもない理屈だなっっ!!!」


 確かにそのとおりだ、筋が通っている。……が、それを言うか?


 ……だが、一瞬だけ黒豹が目を伏せたのを俺は見逃さなかった。


 いや、見逃すべきだったのかもしれないが。


「……ていうかさ。アタシ、お風呂入りたいんだけど~」


「はあぁん?」


「だってさー、ずっと外にいたから埃っぽいし。年頃のかわいい女子を汚いまま放置するとか鬼畜の所業だよね?」


「俺は汚いとは言ってないぞ……」


「あっそ。でも、お風呂入っていいよね?」


「なんでそうなるんだよ?」


「やっぱり真面目くんって、鬼畜なの?」


 おいおい、そんな目で俺を見るな……


 俺か? 俺が悪いのか?


「くっ…………勝手にしろ」


 なんで俺の家のシャワーを、こんな黒ギャルが浴びるんだ。


 何だこの状況。こんなの絶対おかしい。どう考えてもおかしい。


 っていうか、コイツ着替えなんかあるのかよ?


「あ、そうだ。真面目くん、服貸してよ」


「……やっぱりそうきたか」


 予想はしていた。


 だが実際に言われるとドッと体中の力が抜けるようだ。


 仕方なく俺は、自分の部屋からスウェットのセットアップを持ってきて、黒豹に渡した。


「ほらよっ。サイズ合わねえと思うけど……いいのか?」


「いいんじゃん? どうせ寝るだけだしね!」


 黒豹はひらひらと手を振って、風呂場に消えていった。

 

 俺はリビングのソファに座って、天井を見上げた。


 なんだこの状況?


 俺の家の風呂場で、クラスの黒ギャルがシャワーを浴びている……だと?


 マジで意味がわからない。


 一旦、出来事を整理してみるか。


 1、コンビニに夜飯を買いに行った。

 2、帰ったらドアの前に黒ギャルがいた。

 3、脅されて部屋に入れた。

 4、さらに脅されて風呂に入りたいと言われた。

 5、仕方なく服を貸した。

 6、黒ギャルが風呂に入っている。


 これさ……俺、普通に被害者だろ?


 考えを巡らせているうちに、バスルームのドアが開いた音がした。


 そして現在に戻る。


 ◆


 さっきまでの経緯を説明するとこうなる。


 で、今に至るわけだが。


「お風呂出たけど……それで、今からセックスする? それともお風呂でする?」


 バスタオルを素肌に巻き付けた黒豹が、蠱惑的な笑みを浮かべて俺の前に立っている。


 俺のクラスメートで、カースト上位に君臨するスーパー陽キャの黒ギャル。


 最も俺と接点のなさそうな黒ギャルが、しかも俺の家で……風呂上がりにバスタオル姿で立っているのか。


 しかも向こうからめちゃめちゃ誘ってきている。


 確認だが……そんなエロい展開だったか?


 俺たちはエロい話なんてこれっぽっちもしてなかったはずだが……


 俺は自分の置かれた状況がまったく理解できず、即答できなかった。


「さすがに朝までとかは無しね。明日学校だし……ね?」


「…………」


 俺の返答を待たずに勝手にスケジュールを組み始めるとはな……


 朝までは勘弁。つまり、多くても6~8回で済まそうっってわけか?


 俺の性欲を舐めるなよ……じゃないだろっ!!


 落ち着けぇ……落ち着けぇ、俺……。


 大きく深呼吸をして、冷静さを少し取り戻してからこう言った。


「いや、俺……黒ギャルとか興味ないんで……」


 これは嘘じゃない。


 俺には心に決めた女子がいる。


 同じクラスの星城院せいじょういん 日香里ひかり


 清楚で成績優秀。その上、品がある。完璧な女子。


 黒豹みたいな黒ギャルとは正反対の存在で、儚い妖精のような美しさがある。


 ……俺の理想そのものだ。


 つまり、目の前にいるビッチ――黒豹アゲハは俺の理想から何万光年も遠く離れた存在ってわけだ。


 肉眼では黒豹なんぞ視界に入ることすら無いのだ。


「ふーん」


 黒豹は腕を組んで、ニヤニヤと俺の足元の方を見下ろしている。


 ……なんだよ、その顔。余裕そうだな。


「そっかあ、アタシに興味ないんだぁ……」


「ああ……まあな……」


「そのわりにさ、すっごい元気じゃん? それっっっ!」


 黒豹の視線が、俺の下半身を捉えていた。


 …………しまったぁぁぁぁぁ!


 俺は咄嗟に目線を逸らしたが、息子のご機嫌さは誤魔化せない。


「言っておくが、これは俺の意思とは関係ない。女子に対するマナーだと思ってくれ」


「マナー……?」


 黒豹が数秒黙った。それから、腹を抱えて笑い出した。


「ぎゃはははっ! マナーって何www 童貞丸出しで、ほんとウケるんだけどぉぉぉwww」


「うっせえな。童貞をバカにするな。ハートがピュアなだけだ……いや、まあ童貞にはかわりないけど。それは今関係ないだろっ」


「関係あるでしょ。だからビンっビンに立ってんじゃんw ウケるぅぅ!」


「立ってない。これは生理現象だ。いいか、これを生物学的に説明するとだな――」


「はい、難しいのムリ~! ていうか面白すぎてムリぃぃ~! ぎゃはははっ」


 ……俺の下半身が意思に従ってくれなかったばっかりに、恥かいたぞまったく。


 言うことを聞かない息子を持つと大変だな。


「しっかし、真面目くんヤバいね。そのビンビンをマナーって言う人、初めてなんだけど!! ほんっとピュアピュアしすぎてウケるw」


「うるせえ。もう笑うなっ。いいから服を着ろっ!」


「え、なんで? 泊めてくれるお礼だよ。好きにしていいのに」


 す、好きにしていいのか?


 あんなことや……こんなこととか……?


 いやいやいやっ!!!!


 俺には星城院さんという、心に決めた人がいるんだ!


「あのなぁ~。俺はそういう目的でお前を入れたんじゃないんだよ」


「……意味わかんないなぁ。真面目くん、もしかしてアタシの体じゃ不満なわけ?」


「……そんなこと言ってないだろ」


「じゃあ……アタシの体に不満があるわけじゃないんだね?」


 あるわけねぇだろっ!


 ……って叫べたらどんだけ楽だろうか。


「いいから、早く服を着てくれって……」


 息子が暴発したらどうするんだよ!


 洗濯物が増えるだろう?

「ちょっとおもしろいかも?」「続きが気になる!」

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