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第1話 今からXXする?それともお風呂でする?

「お風呂出たけど……それで、今からセックスする? それともお風呂でする?」


 ――は?


 俺――画地野がちの 真地しんじの目の前に、裸にバスタオルを巻き付けただけの黒ギャルが立っていた。


 いや待て。状況が理解できない。


 しかも、瞳に♡が浮かんでいてエロそうな笑みを浮かべて俺を見ている。


 湯上がりの褐色の肌からは湯気が上がり、金色の髪からはポタポタと水滴が滴っている。


「………………」


 バスタオルで胸や大事なところは一応隠れているけど、わがままなボディラインが丸わかりじゃねえかっ……!!


 まだ濡れた体が、なんかこうっっっ……やたらと艶めかしいんだがあっっ???

 

 あらわになった肩と鎖骨の生々しさ、それと豊かな胸の谷間がガツンと主張してくる。


 ぐっ…………何だこの状況は……まて、状況を整理しよう。


 目の前にバスタオル1枚の黒ギャル。風呂上がり。誘ってくるような目で迫ってくる。


 どれだけ論理的に考えても、これはマズイ。


 俺はアパートで1人暮らしをしているが、普通に真面目な高校2年生だぞ。


 もともと2人で住んでいたからリビングもそこそこ広くて、男子高校生が1人暮らしするには余し気味の広さなのだが。


 だが今、その持て余し気味のリビングに逃げ場がない。


「さすがに朝までとかは無しね。明日学校だし……ね?」


「…………」


 紅潮させた顔で俺を見つめるんじゃねぇっ!


 いったいなにを期待してんだよ!


 なぜだっっ……いったい、どうしてこうなったあああああ?


 ――遡ること、約30分前。


 今日も何事もなく、1日が終わると思っていた。

 ◆


 コンビニに行って夜飯用にカップ麺とおにぎりを買って、アパートに帰る途中だった。


 時計は夜の8時過ぎくらい。


 特に話す相手もいない1人暮らしの夜は静かなものだ。


 今はもうこの静かさにも慣れてしまったけどな。


 アパートの部屋へ続く階段を上がったところで、俺の足が止まった。


 ドアの前に……誰かいる。


 少し近づくと、俺の部屋のドアの前に制服姿の女子が座り込んでいるのが分かった。


 膝を抱えて、ドアを背にしてうずくまっている。


 中学生……じゃないな。多分、俺と同じ高校生か?


「あの……もしかして具合でも悪いのか? 大丈夫か?」


 声をかけるべきか迷ったが、彼女が座っているのは俺の部屋の入口だ。


 さすがに見て見ぬふりもできない。


「なんなら救急車呼ぶけど。でも……もし寝てるだけなら、どいてくれると嬉しいんだが」


「ううん……」


 声を掛けると、座り込んでいた女子がゆっくりと顔を上げた。


 金色の髪に派手なメイク。褐色の肌。


 耳にはいくつものピアスがついている。


 おい……この顔には見覚えがあるぞ。


 こいつの名前は黒豹アゲハ(こくひょう あげは)だ。


 俺のクラスメートで、カースト上位に君臨するスーパー陽キャの黒ギャル。


 陰キャの俺は当然だが、こいつと話したことなど無い。


「あっ、アンタもしかしてクソ真面目じゃん?」


 ……クソ真面目?


 確かに俺は真面目だと自覚しているが、クソはつけなくてよくないか?

 

 クソってさ、う◯こって意味だろ?


 ファーストコンタクトで『う◯こ呼び』って、そりゃねえだろ!!


「俺はそんな名前じゃねえよ。画地野だよ」


「おー真面目くん。おつー」


 人の話聞いてないなコイツ。


 それに、ギャルだからか妙にノリが軽い。


「だから……画地野だっつーの」


 俺がいくら目立たないと言っても、名前くらい覚えておけよ。


 もう半年くらいは、同じクラスにいるんだぞ?


 俺ですら黒豹のこと覚えてるってのに。


 いや……まあ俺と黒豹じゃ住んでる世界が違うのは分かってるよ。


 俺は教室で静かに本を読んでるタイプで目立たない。


 黒豹は教室の中心で友達に囲まれてキャッキャしてるタイプでとにかく目立つ。


 接点なんてあるはずがない。


 だけど、俺たち一応クラスメートなんだが……


「あのさ……なんで黒豹がこんなとこにいるんだよ。ここ俺んちなんだけど」


「まあ、私にもいろいろあってさ。泊まるとこ探してたんだよね~。どうせなら優しい1人暮らしのリーマンのお兄さんに拾ってもらおうと思ってたんだけど……」


 なんじゃその、エロ漫画みたいなノリ。


 つーか黒豹よ。お前はココがサラリーマンの部屋の前だと思って待ち伏せしてたのか。


 どこのヤバい世界から来たんだっ、お前は!


 貞操観念どうなってんだよぉぉ!


「あーあ。よりによってクラスメートか~」


「はあ? それはこっちのセリフだぞ?」


「アタシだってクソ真面目に拾われるつもりはなかったんですけど~」


「だから俺は『画地野』だっつってんだろ……」


 もうこんな奴に、かまってられん。

 

 俺はコンビニ袋をガサガサさせながら、ポケットから鍵を取り出した。


「お前みたいな陽キャは、もっとこう賑やかっつーか、派手なところで一夜を明かすのかと思ってたけどな……」


「アタシにだって都合ってもんがあんのよ……それよりさ。アタシを拾ったんだから、中入れてよ。ここお尻痛いし」


「はあ? だが断る」


 当然の如く、俺は即答した。


 そもそも黒豹なんぞ拾ってないし。


「えーーーっっ!!」


「俺の部屋に……クラスメートとはいえ女子! しかも、お前と俺はほとんど話したことない! さらに、俺とお前は真逆の属性の人間だ。そんなやつと関わるとか、さすがに無理があるだろ」


 論理的に考えて、ありえない。


 陰キャのインテリ男子がスーパー陽キャの黒ギャルを家に入れる、だと?


 そんなのラブコメかエロ漫画の導入でしかないだろ。


 現実でやったら事案だぞ。国家権力が武器持って突入してくるだろ?


 俺がなぜエロ漫画の導入を知っているかは……察してくれると嬉しい。


「え……マジ? 困ってる可哀想な女子高生を見捨てるの?」


「まあ……結果的にはそうなるな」


 俺はそう結論付けた。


 これは人間として冷たいとか、そういう問題じゃない。


 セキュリティ上の問題だ。


 見ず知らずの――いや、一応クラスメートだから知ってるけど。


 ほぼ話したことのないの異性を自分の部屋に入れるなんて、どう考えてもリスクが高すぎる。


 俺は黒豹がどんな奴なのかも知らないんだぞ。


 もしかしたら、なにか目的があって俺の家に来たのかも知れないわけだし。


 だからそんな潤んだ目で見たってムリなもんはムリだ!


「ふーん。いいのかな? ここでアタシが叫んだらさ、真面目くん……100%捕まるよ?」


「……はあぁぁ?」


「人が来たら『レイプされそうになりましたぁぁ』って涙ながらに言うからね?」


 そう言った黒豹の手には目薬が握られている。


 ほう、これは用意周到なことで……じゃねえっ!


「……おいおい、まさか本気じゃないよな?」


「ん~。まあまあ本気だけど?」


 黒豹はスッと立ち上がると、まっすぐ俺の目を見た。


 薄暗い照明の下で、金色の髪が揺れている。


 そして悪戯っぽい目で俺に微笑んだ。


「でもまさか……困ってるクラスメートを見捨てたりしないよねっ。真面目くん?」


「っ!…………」


 ぐぬぬ。くそっっ! 何も言い返せない。


 断れば俺は犯罪者として捕まるだろう。


 黒豹が俺を告発すれば、いかに真面目に生きてきた俺であろうと信じてもらえないだろう。


 涙する女の前では、男の意見など聞いてもらえるはずがない。


 頭の中でどうするべきかシミュレートを開始した。


 ――が、どうやっても捕まる未来しかないんじゃねえか、コレ?


 引き伸ばされた体感で20秒程度。だが現実は2~3秒くらいだろう。


 いろんなパターンを考えたが、どうやっても無罪放免は難しいぞこれぇ!


 が、よく見ると……黒豹が微妙に震えている。


 コンクリにずっと座っていたから寒いのか――それともなにか、別の理由があるのか?


「……ちっ、仕方ないな。入れよ」


 俺はため息をついて鍵を開けると、そのままドアを開け家に入った。


 背後で「やったー♡」という陽気な声が聞こえたが、相手にしないことにした。

「ちょっとおもしろいかも?」「続きが気になる!」

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