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真相解明

......よし、これで全ての準備が整った。


「行こうか、お姉ちゃん」


「ええ」


私達は自分達の客室を出て、ラウンジへと向かう。



「皆さん、お集まりの様ですね」


私は全員を見渡す。マサさん達に一ヶ所に集めてもらったのだ。


「華凛ちゃんが言った通り、本当に来やがったぜ」


津川さんが驚きつつも納得した表情をしている。


「ええ、それ位しか方法がないだろうなって思ったんです」


谷崎さんは拘束されて、憔悴し切っていた。


「おっ...俺は...堤に言われて......!」


「さっきからこの調子でよ。コイツが何言ってんのかサッパリなんだよ」


津川さんは呆れた様子だ。


「そうですね...では先ず津川さん、皆さんに状況を理解していただく為に、ここまでの経緯を簡単に説明していただけますか?」


「おう。客室のチャイムが鳴ったんで、カメラを確認してみたら誰もいなくてよ。気になってドアを開けて見てみたら、"6年前と今回の事件の事で話がある。夕食の前に404号室まで来い"って書かれた紙が置いてあったんだ。

そんで、その前に華凛ちゃんに言われてた通り、いきなり旅館でボヤ騒ぎだの、急病人が出ただの騒ぎになって慌ただしくなったんだが、事前に分かってたから旅館側も素早く的確に対応して、俺が404号室に行く時にオーナーのせがれと、華澄ちゃんが付いてきてくれたんだ。

んで、俺がチャイムを鳴らす時に二人に隠れてもらって、ドアが開いた瞬間に、これも華凛ちゃんが言ってた通り、いきなり谷崎がハンカチを持って襲い掛かって来たんだよ。

その後は、二人の助けもあって、俺は無傷で殺人犯も捕まったって訳だ。

それと、部屋の中には華凛ちゃんの推理通り、鋸と鉈と黒いポリ袋、そしてクロロホルムが入った瓶と液体が入った注射器が長い鞄の中に入ってたぜ。鋸と鉈を何に使うつもりだったかは......正直考えたくねえな」


津川さんが要領よく話してくれた。


上川さんが先週の午後11時過ぎに大浴場にいたのは、大浴場が津川さんを殺害する場所の候補地になっていたからだが、しっかりマサさんが見回りに来る事が分かったので候補地から外したと考えると、あとはもう谷崎さんの部屋に誘う以外には考えられなかった。


「ありがとうございます、津川さん...でも谷崎さんは今回の事件でまだ誰も殺害してませんよ」


「えっ、そうなのか?なんかさっきからおかしな事ばっかり言ってるし、俺はてっきり6年前の事件絡みでおかしくなって仲間割れでもしたのかと思ってたぜ。あの中で真っ先にうたったのは安藤だったしな。

大方、堤は殺す予定はなかったが、何かの行き違いで殺しちまって、それを認められないから精神的におかしくなっちまったとかそんな感じじゃねえのか?」


「ええ、実はそれが犯人が仕掛けた二つ目のトラップだったんです」


そもそも今の津川さんの推理では、谷崎さんは1週間程前に堤さんを殺害し、バラバラにしたあと、わざわざ旅館まで頭部を持って来た事になる。


しかし、これでは頭部の腐敗がもっと進んでいるはずだし、冷凍した後に運んだとしたら再凍結の痕跡があるはずなのに それもない。


とはいえ、これはお姉ちゃんの能力で、安藤さんの死亡推定時刻等を割り出していたからこその推理であるから、津川さんがそういった推理をするのは仕方のない事である。


「二つ目って事は、一つ目もあんの?」


紬希さんが聞いてきた。なんか眠そうだな。


「ええ、一つ目のトラップは安藤さんのリュックに堤さんの頭部が入っていた痕跡があった事です」


「あー、なるほど、そういう...」


紬希さんが一人で納得していると


「えっ、えっ?どういう事?大体、頭部ってなに!?」


と、鮫島さんが慌てて聞いてきた。


「鮫島さんには言っていませんでしたが、実は今朝、堤さんという方の頭部が串刺しになった状態で、玄関先で発見されたんです」


「えぇ~!!何それ、信じらんない!...はぁ、知らない内に殺人事件に巻き込まれてるなんて、ほんとに私ってツイてない......」


鮫島さんが殺人事件そのものというより、自分の運の無さにショックを受けている様子だ。


「はい、実はそうだったんです。それにこれは貴方もご存じなかったのですよね、谷崎さん?」


谷崎さんは相当ショックだったらしく、幽霊を見たような顔で震えだした。


「だっ...だって俺...本当に......。じゃ、じゃあ、あれは...」


「その話をする前に、先ずは犯人が仕掛けた一つ目のトラップの話に戻りましょう。このトラップの目的は当然、安藤さんに罪をなすりつける事です。

普通に考えればこのトラップだけで上手く行き、旅館にいる私達は、どうやって消えたのかは分からないものの、安藤さんが犯人で、且つ何処かに逃走したのだと思うはずでした。

しかし、私の姉が3Dスキャナーとルミノール溶液を持っていたので、その目論見は崩れてしまった」


「えっ!華澄ちゃん、そんなの持ってるの?すっご!後で見せてよ!」


紬希さんが楽しそうだ。


「はい、それじゃあ、あとで......」


お姉ちゃんもちょっと楽しそうだ。お姉ちゃん的にはそういう話題に興味を持ってくれる事が嬉しいんだろう。


「ただ、この犯人はとても用意周到なので、天気が早く回復して、警察の捜査が早く入る可能性を想定していた。

尚且つ、1つ目の偽装によって、2つ目も偽装だと思い難くするという意図もあったのかもしれません。

その為のトラップだった訳です」


「つまり、犯人の身代わりに選ばれたもう一人が谷崎だったって訳だな」


「はい。それでは谷崎さんを操った"堤"さんとは一体何者なのか?それを知る為には先ず、犯人はどうやって堤さんと安藤さんを殺害する事が出来たのかを考える必要があります」


「どうやってって...普通に部屋に行って殺したんじゃないの?......って、その安藤さんって人も殺されてんの!?」


鮫島さんが投げやりな感じで言ったかと思ったら、突然驚きだす。


「はい、これはここにいる殆んどの方がご存じなかったと思いますが、先程 裏の森で死体がバラバラになって発見されました」


「ちょっ、ちょっと~!冗談じゃないわよ~!どうなってんの私の運!?」


そこでも自分の運について言及する辺り、鮫島さんって良い人なんだろうな。ちょっと微笑ましいなと思った。


「話を戻しますが、普通に部屋に入って殺害したとすると、おかしい事があるんです。というのも客室には全てカメラ付きのインターホンがあるからです」


「ああ...確かに...。じゃあ、知り合いとか、ここの従業員とか?」


「安藤さんの方は特に昨日からピリピリしていて、他人を寄せ付けない感じだったそうです。それは恐らく津川さんを直接目撃した為か、その事を谷崎さんが話したからではないかと思うのですが、どうですか谷崎さん?」


「た、確かに俺が安藤に電話で連絡したんだよ。あの時は俺もあんまり部屋から出たくなくてな」


「つまり夕食を部屋に運んでもらう時以外は、余程親しい人以外、警戒心や猜疑心が強くなっていた安藤さんの部屋の中に入れたとは考えにくいという訳です。それに安藤さんの様子を聞いた感じでは、もしかしたら堤さんに呼ばれた時から既に多少は警戒していたのかもしれませんね。

雅志さん、今日はかかってなかったみたいですけど、昨日まで403号室のドアノブに札がかかってませんでしたか?」


「はい、ずっとかかってました」


「昨夜、最後に安藤さんを目撃した人物は午後7時に膳を下げに行っていた雅志さんですが、仮にその時に殺害したとすると、あとで再び403号室に戻って、安藤さんの遺体を解体した事になるのですが...お姉ちゃん、お願い」


「安藤さんの遺体の切断面の鮮度を見る限り、解体時間は6時間程度だと思われますが、遺体は内臓を抜かれていた他、胴体を二等分されている等、手間がかかっているので、そういった経験が無く、旅館の仲居として働いていらっしゃった雅志さんには時間的に無理だと言えますし、仮に可能だったとしても、一番後回しになった部位は、解体が終わる6時間ほど室温で放置され、その後氷点下15度以下の環境に遺棄されていた訳ですが、そうなると膳を下げた午後7時の段階で安藤さんが殺害されたとするのは、遺体の所見から無理があるように思われます」


実際はそれ位の所見であれば死亡推定時刻に幅が出過ぎて全然無理ではないのだが、能力を隠す為には仕方ない。


「そっ、そもそも、死亡推定時刻はいつなんですか?」


笠井さんがもっともな質問を投げ掛ける。


「先程申し上げた死体の切断面の鮮度や、ポリ袋の上の積雪量などの その他諸々を含めて考えると昨夜の8時から遅くとも10時半頃に殺害されたと考えられます」


お姉ちゃんがそう言った時、犯人の顔が初めてひきつり始めた。


「そ、それでしたら、防犯カメラがあるみたいですし、もしかして犯人の姿が映っているんじゃ...」


これもごもっともな意見を笠井さんが言う。


「それについては私からお話しします」


私はそう言って、再び話し始める。


「私がカメラの映像を確認する限りでは、403号室の方へ向かったと思われる人は雅志さん以外映っていませんでしたし、紬希さんが自動販売機でビールを買って部屋に戻った午後9時58分以降は、今朝の午前5時にエレベーターに乗る笠井さんの姿が映るまでは、誰の姿も映っていませんでした」


「ん?それだったら、さっき津川さんが話してた通り、404号室の谷崎さんって人が、安藤さん殺害の犯人になるんじゃないの?だって隣同士なんだし、カメラに映らないよね?」


紬希さんが疑問を投げかける。


「はい、普通に考えればそのはずなんです。ですがあの映像には映っているべきものが映っていなかったんですよ」


「映っているべきもの...?」


当然の事ながら紬希さんを含め、お姉ちゃんと犯人以外の全員、私が何を言っているのか分かっていない様子だった。


「あの時、私達姉妹は午後10時頃までゲームコーナーでゲームをしていて、自分達の部屋に戻ったのは10時5分だったんです。つまり......」


「あ~、なるほど!当然映っているべき華凛ちゃん達の姿が映ってなかったって訳ね!って事はもしかして映像が...?」


「ええ、そう思ったので映像データは別に保存していただきました。間違いなく映像を5分から10分ほど改竄した痕跡が残っていると思います」


「あー、旅館のフリーwifiが仇になっちゃったって事ね」


紬希さんの理解が早くて助かる。


「やっぱり結構セキュリティとか大変なんだね......。便利だしお客さんにも喜ばれるから使ってたんだけど、僕達、その辺りの知識に疎くてね...」


マサさんがちょっと落ち込んでいる。


「要するに谷崎さんじゃなくても、ハッキングが出来て、安藤さんと親しい仲なら犯行は可能だった訳か...って、待てよ?でもさ、そうすると隠された人間関係でも無い限り、消去法でやっぱ谷崎さんが犯人って事になるんじゃないの?」


「普通に考えれば紬希さんの仰る通りです......が、もし谷崎さんがさっき仰っていた事が真実だとしたら?」


「ん~~?要するに堤さんが本当は生きていたって事かぁ?でもそれって......」


「それを説明する為にも、先週こちらの旅館に泊まりに来た二人のお客さんと、17日にチェックアウトしたという堤さんのお話をさせて下さい」


そこで私は腕を組みつつ間を置く。


「先ずは堤さんから。今朝見つかった彼の頭部からは再凍結した痕が見られませんでしたし、腐敗も殆んど進んではいませんでした。

つまり、少なくとも彼は何処か遠くで殺害された後に首を切断された訳でも、一旦遺体を冷凍されて腐敗を遅らせつつ、運ばれて来た訳でもないという事になります」


「え~っと、じゃあ、バス停から旅館に来るまでの道端で殺害されて首を切られた...?いや、でも雪が割と積もってただろうし、何処か人目のつかない所に運ぶにしても痕跡が残り過ぎる。何より他の宿泊客に目撃される可能性が高いか...」


紬希さんが考え込んでいた。


「はい、ですからちょっと信じられない話ではあるのですが、チェックアウトした時の堤さんは、今朝見つかった堤さんとは違う方という事になります。実際 堤さんが先週泊まっていた303号室の浴室で、恐らく彼のものと思われる血痕のルミノール反応を確認しました。そうですよね笠井さん?」


「あっ、はい!確かに僕も見ました!」


笠井さんが慌てて同意する。


「なるほどな...。なんとなく分かって来たぜ」


津川さんが言った。


「堤の両親は離婚しててな。アイツは父親に引き取られたらしいんだが...まさかそんな事だったとはな」


「えっ、ど、どういう事ですか?」


笠井さんが質問する。


「つまり堤さんは双子だったという事です。もう一人の堤さんは母親に引き取られたのでしょうね」


津川さんの代わりに私が答えた。


「しかも特殊メイクの技術も持っていらっしゃるみたいで、色んな方に扮していますね。ある時は上川さんとして、そして今は...」


私は相手の目を見据える。


「志島 隼人さんとして、ね」


驚きの微表情が表れたものの、志島さんは特に動じる事もなく


「......突然の事で驚きましたが、私がその上川さんや、堤さんの双子の兄弟だという根拠はあるのですか?」


と、冷静に質問してきた。


「それは皆さんのチェックイン日と、堤さんの頭部に再凍結の痕跡が無かった事です。

先ず堤さんの頭部が切断されたのはいつか?それは上川さんが、チェックアウトした17日よりも前という事になる訳ですが、私が先程触れた二人の宿泊客の内の一人で、大きなスーツケースを持っていたという多田さんがチェックアウトした16日には殺害され、切断されていたのだと考えられます」


「なるほどな。つまり堤はそん時に首だけじゃなく、全身をバラバラにされて、身体をケースに入れられたって訳か」


「はい。ですが全部は到底無理だったので、二人で分けて運んだのでしょう。それが荷物をちょっと多めに持っていたという上川さん――志島さんだった。

...ここで少し話は変わりますが、テントのペグで串刺しになった堤さんの頭部が、どうやって玄関から10m先に足跡もなく放置してあったのかを説明しておく必要があります。あれは......」


「小型のドローンを使ったんだよね?頭とペグの重さを合わせても7kg位だろうし、それ位の重さの物なら普通に運べるから。操作範囲も半径30m位はあるだろうし、玄関先に串刺しになった頭部があったとしても何も不思議じゃないよね」


紬希さんが代わりに答えてくれた。


「ありがとうございます紬希さん。私もそうだと考えました。

次に、堤さんの頭部には再凍結の痕が無かったという事を思い出して下さい。

それはつまり外か、外に近い状態の場所に放置してあったという事になりますが、外に放置しておくとなると、雪が積もってしまって、ドローンで回収出来なくなってしまいますし、自分の足で回収するとなると雪に痕跡が残ってしまう。ですから窓を全開にしたテラス――特にお湯の張ってない露天風呂の浴槽に放置したと考えられます」


「でもそうすると、最初は303号室に放置してあったんだろうし、部屋を移る時に暫く持ってなくちゃいけなかった訳だから、やっぱ再凍結の痕は残ったんじゃない?」


「そこで皆さんのチェックイン日の話になるのですが、ここにいる皆さんの中で志島さんだけが堤さん達が滞在していた16日にチェックインしてます。そして上川さんは17日にチェックアウトしてますから、この時彼は一人二役を演じていた事になりますが、だからこそ可能だった事があります――それは二つの部屋のテラスの窓を全開にしておいてテラス内の温度を下げ、ドローンで頭部を移動する事です。あとは、玄関のドアノブに札をかけておけば良い。

また、そうまでして再凍結させないようにしたのは、結晶の二相性から死亡推定時刻等を正確に割り出されてしまう事を避ける為だったと考えられます。

私が304号室に行った時には札がかかっていましたが、昨日まではどうでした?」


「うん、3階の客室は私が掃除を担当してるんだけど、確かにずっとかかってたから、部屋には入ってないよ」


美花さんが答えてくれた。


ここでは言わないでおいたが、志島さんのDNAは双子である堤さんのDNA とほぼ同一で、昔は技術的に区別出来なかったみたいだけど、今の技術なら可能だ。


つまり、お姉ちゃんが堤さんに近いDNAを発見した瞬間に、旅館には双子がいるとすぐに分かったはずだったのだが、結局発見出来なかったのは、ドアノブの件も含め、恐らく意図的なものだろう。髪の毛一本も見つからなかった事を考えると、実際はスキンヘッドであると思われる。


それこそ使用済みの食器や、304号室をお姉ちゃんの能力でスキャン出来れば良かったのだが、事件が起こった後にその機会はなかった。


「なるほど、確かに筋は通りますね。ですが私には死体を解体する技術なんてありませんよ?」


志島さんが少したじろいだ様子を見せたものの、まだ冷静さを保っていた。


「ええ、そうでしょうね。そもそも全ての行程を1人でこなすには無理がある上、もしかしたら貴方は一人も殺していない可能性すらありますし。まあ、貴方の動機を考えると、多分最初の堤さんは貴方が殺害したのかなとは思いますけど」


志島さんの顔が険しくなる。


「どういう事なんだ華凛ちゃん?もしかして、さっき話に出てた多田ってやつが安藤を殺したって事か?」


津川さんが私に疑問を投げかける。


「はい...まあ、正しくは違う人なんですけど」


私がそう言うと、津川さんは何がなんだか分からないという感じだった。


「次の犠牲者が津川さんだと分かったのは、その人が津川さんに関与してると分かったからなんです」


「俺に関与......?」


「はい。だって話が出来過ぎだとは思いませんか?6年前の事件に関わりがある人達が、同じ時期に一ヵ所に集められて、お互いに疑念を生じさせる様に事件が繰り広げられていく......。

それってもう偶然というより、誰かがそう仕向けたからって考える方が自然じゃないでしょうか?」


「おっ、おい...それってまさか......?」


「ええ。その人は6年前のバラバラ殺人事件で被害者の司法解剖をした法医学者であり、福引きで当てたペア宿泊チケットを津川さんに譲り、恐らく今回の犯罪計画の首謀者......ですよね、笠井......いえ、小此木教授?」


「おっ、おい華凛ちゃん、小此木は還暦近くだぜ。こんなに若い訳が......いや、でもあの懐かしい感じはそういう事だったのか?...それに目は確かに小此木だ......」


津川さんは最初驚きつつも、少しずつ納得していく。


「ところで谷崎さん、貴方の名前で旅館の予約をとったみたいですけど、堤さんを名乗る方にそうしろと言われたのではありませんか?」


「あ、ああ...そうだよ。あの事件以降あんまり会いたくなかったんだけど、何て言うか堤には昔から逆らえなくてさ。ただ、一応その分の金はもらったし、アイツが言った通りに予約をいれたんだ。正直そんな事するやつじゃなかったら、正直違和感はあったな」


谷崎さんが俯きながら話す。


「つまり、私達、鮫島さん、紬希さん以外の方達は全員、同時期にここに集まるよう、教授と志島さんに仕組まれたという事です。

あと美花さん、もしかしてなんですけど、教授――笠井さんがチェックインする時、スキー用のゴーグルをかけたままだったとか、マスクをしていたという様な事はありませんでしたか?」


「あっ!うん!確かにマスクしてたよ!あの時は風邪でもひいてるのかなって思ってた」


「髭を剃るだけでも大分印象が変わりますし、恐らく元々顔立ちが若かったのでしょうけど、それだけでは当然、津川さんに自分の正体がバレてしまう。

ですから、志島さんと再び合流してメイクをしてもらうまでは、自分の顔を知られたくなかったのでしょうね。

また、今のキャラ作りは声を悟らせない為という部分もあったのではありませんか?」


「そっ、そんな、マスクをしてた位で疑われるなんてあんまりです!それにぼ、僕は昔からこういう性格で...。大体、しょ、証拠はあるんですか?」


さっきから思ってたけど、なかなかの役者だと思う。


「簡単な話なんですけど、志島さんにしても貴方にしても、顔を調べさせてもらったらすぐに分かりますよね。堤さんの顔は谷崎さんを初め ここにいる何人かがご存知ですし、貴方の事は津川さんがご存知なのですから。

ついでに、上川さん、多田さん共に、教授達と身長に差があったのは、シークレットブーツでも履いていらっしゃったのでしょう」


「わっ、分かりました...じゃあ、私がその教授だったとして、安藤さんの死体はどうやって運んだって言うんですか!?」


「ふふ、おかしな事を仰いますね。死体はバラバラにされているのですから、どうやって運んだも何も、普通に自分の手で運んだと思うはずではありませんか?」


「......!」


「貴方はご存知だったのですよね?死体の周りに足跡が無い事を」


笠井さんの表情が凍りつく。


「大体あれは良くある初歩的なトリックではありませんか?

実際の手順はこうです。

先ずはクロロホルムを嗅がせ気絶させた安藤さんの静脈に高濃度の塩化カリウム溶液を注射して殺害する。

次に、貴方が浴室で死体を解体しつつ、志島さんが1~2mmの太さのピアノ線を矢に結び、レーザーサイト付きのボウガンで目標の木の上部に射出。昨晩は断続的に吹雪いていたみたいなので、吹雪が止んだ頃を見計らったのでしょう。それに失敗したとしても、ピアノ線を引っ張って手繰り寄せれば良い訳ですから、何度でもチャレンジ出来ます。

目標の木に命中したら、小さい穴が空いているタイプのスマートロックのその穴にピアノ線を通しておく。これは死体を運んだ後で、ピアノ線とボウガンを回収する時にスマートロックが落ちない様にする為です。また、スマートロックは2つピアノ線に通しておきます。

そして遺体の解体が進み袋に詰め次第、志島さんがスマートロックに袋を引っ掛け、ある程度移動させたらスマートロックを解除する。それを二回繰り返して、終わったらピアノ線とボウガンの矢を回収するという感じです。

8m位の高さに小さな穴がある木を3本発見してますが、雪華楼の4階の高さは大体17m、手すりの高さは1mちょっと位ですから、高低差10mちょっとなので30m運び切るのは厳しいものの、20mそこらでしたら余裕でしょう。実際、旅館からそれ位 離れた位置に遺体が入ったポリ袋が遺棄されていました。

また、死体が入った袋は6袋ありましたから、一本のボウガンの矢で三回繰り返したか、時間的な事や天候の事を考えると、3本用意しておいて最初に木に命中させておいたと考える方が妥当であるように思われます。

また、どうしてわざわざ死体を多くの部位に分ける必要があったのかといえば、ピアノ線の長さは基本的に30mあり、ボウガンが刺さった部分の強度とピアノ線自体の自重やたわみを計算に入れると、精々15kgまで位の物しか運べないからです。

かといって、あんまり旅館から近い所に放置すると何かの拍子にバレてしまうかもしれないし、露骨に木の近くばかりに袋が落ちていたらトリックに気付かれてしまうかもしれない。だからそうせざるを得なかったんですね。

また、遺体を運んでいる所を302号室の紬希さんや402号室の私達に見られる可能性が無くも無かったものの、深夜に露天風呂に入ったり、テラスでボーっとして、しかも寒いのに窓に近づくとかでもない限りは問題ありませんし、仮にそういった行動をとったとしても、左右に少し死角になっている部分がある上、外は真っ暗ですから、発覚する可能性はほぼ無かったでしょう。

それに用意周到な小此木教授達の事ですから、その辺りの事は計算に入れて矢を撃つ場所を選んだと思われますし、素早く狙いを定めて撃つ訓練もある程度なさっていたでしょうから、レーザーサイトの光が見られる可能性もほぼ無かったでしょう。

万が一見られたとしても見間違いか、レーザーポインターで誰か悪戯したという事で通すつもりだったのではないかと思われます。

それと、教授が遺体を解体している間に、窓を空けて冷えたテラスで、志島さんが安藤さんのリュックに堤さんの頭部を一瞬入れ、その後ドローンで玄関先まで運んだのでしょうね。

そしてこういった数々の細工も、全ては予定していた第三の事件の為のお膳立てだった訳です」


「予定していた第三の事件って、やっぱ俺の事だよな?」


少し悲しそうな顔をしながら津川さんが聞いてきた。


「はい。全ては谷崎さんに罪を着せる為です」


「因みに華凛ちゃん、さっき言ってた木の穴以外にも そのトリックが使われたっていう証拠、やっぱりあるんでしょ?」


紬希さんが楽しげに聞いてきた。


「もちろんです。403号室のテラスの手すりに3筋の直線状の跡や、何か――まず間違いなくボウガンの矢がぶつかった跡があった他、死体が入った袋周辺の雪にも何か細い物を引きずった直線状の跡があるのを見つけました。

また、袋に積もっていた雪が疎らだったのは、死体の解体が出来次第、順次死体を運んだ証拠と言えます」


「さっすが華凛ちゃん!やる~!」


紬希さんのテンションが高い。


「それではついでに、これまでの手がかりから、津川さん殺害計画の流れを推理してみましょう。

実は堤さんや安藤さんの死体の切断の仕方にも仕掛けがありました」


私はお姉ちゃんに目で合図を送る。


「先程も申し上げた通り、安藤さんの遺体については あれだけの行程を6時間程でこなされている訳ですから、かなりの技術なのですが、所々荒く切断している様な痕や、敢えて使用している道具を変えている様な箇所もありました。

恐らく普通はメスや携帯できる専用の器具を使い、所々横引き鋸や鉈を使用していたのでしょう。

鋸と鉈は先程404号室で見つかった物で間違いないと思います。目には見えませんが、血痕が残っているのをルミノールで確認しているので、DNAを照合すれば安藤さんのものと一致するはずです。

また、堤さんの首の切断に、安藤さんを解体した時にも使用した横引き鋸を雑に使った痕跡がありました。ただ、同じ横引き鋸を使ったかどうかは現時点では分かりませんが、いずれにせよ同じ犯人がやったという印象を持たせる為にそうしたのだと考えられます。

そして、わざと素人っぽく見せたり、同じ種類の鋸を使用したのは、谷崎さんに津川さんを殺害させたあと、バラバラにさせて運ばせる予定だった為、堤さんや安藤さんの解体も谷崎さんが行ったのだと思わせたかったからでしょう。

また、谷崎さんが一度は死体の解体を経験していて、解体部位も少ないとしても、10時間近くはかかると見積もっていたのでしょうね。ですから、夕食前には津川さんを呼び出しておく必要があったのではないでしょうか」


能力を隠さなければいけないので、この辺りの説明は毎回遠回しになってしまうが、お姉ちゃんがうまく説明してくれた。


私が先を続ける


「教授達にとって完全に誤算だった事は、私達がルミノール溶液や3Dスキャナーを持っていた事でした。

自分の部屋に来て、浴室で堤さんの血痕を発見された時に、安藤さんが殺害された事にも私達が気付いていると考えた。

安藤さんが殺害されたという事実さえ発覚しなければ、多少早めに吹雪が止んだとしても、警察が来るまで旅館の裏をわざわざ捜索しようなんて思う人はいないと見越してたし、堤さんを殺害した容疑のある行方不明者が出た所で、旅館の内にはいない以上、外に潜伏しているとして、全員の注意が外に向くと考えていたのに、その目論見が崩れてしまった。

内部に対しての警戒心が高まってしまうと、津川さん殺害の計画に支障があるかもしれない...というか、恐らく教授達――特に電子関係は志島さんが担当していたのではないかと思っているのですが――は防犯カメラの映像で旅館の人達の動きをある程度チェックしていたでしょうから、私が谷崎さんに注意しておいて欲しいとマサさんに頼んだ事で、割と頻繁に旅館の従業員の方達が様子を見に4階に来ていた事も知っていたのだと思います。

そうなると何らかの形で従業員の方達の注意を引き付ける必要がある。

そこで考えたのがボヤ騒ぎと、嘘の急病人騒ぎという訳です。

マサさん、その時の様子を詳しく教えていただけますか?」


「うん。ボヤ騒ぎの方は一階の用具室が火の気も無いのに いきなり火事になって、事務室で警報が鳴って分かったんだけど、華凛ちゃんから話は聞いてたから用意は出来てたんで僕一人でもなんとかなったし、急病人騒ぎの方は、笠井さんからいきなり内線で呼ばれて、今朝の事件のストレスでお腹を壊してしまったみたいだから、薬か何かあれば持って来て欲しいって言われたので、そっちは美花が対応したんだ」


私は頷きつつ先を続ける。


「騒ぎのあと、防犯カメラの映像で4階の状況を確認されるだろうし、警察の捜査でも当然調べられるだろうと考えた教授達が、ここでも映像を差し替えると思ったので、私はそれを逆手に取ろうと思いました。そこで証人も多い方が良いですし、何より安全の為、私の姉と雅志さんに津川さんと一緒に行ってもらったんです」


「そのお陰で俺は助かったって訳か...。本当にありがとな」


津川さんが私達に頭を下げる。


「いえ、そんな。津川さんがご無事で何よりです。

6年前のバラバラ殺人事件について本心では全く反省の色が無かったという谷崎さん達犯人グループと、それに対してやり場のない怒りを抱いていたという津川さん、そして通信途絶状態と猛吹雪による外界からの遮断......こういった条件が揃った極限の状況下で、谷崎さんを意のままに操作するのは容易だったでしょうね。特に堤さんは3人のリーダー格だったというお話ですし」


そこで私は一旦間をおき、腕を組み直して先を続ける。


「話を犯行の流れに戻します。

谷崎さんに津川さんを404号室で殺害させたあと、窓を開けた浴室で解体させる――これは切断面の鮮度を少しでも誤魔化す狙いがあります。浴室の窓は開いてましたか?」


雅志さんに尋ねた。


「はい、大分前から開いていたみたいでかなり寒くなってました」


「ありがとうございます。鋸や鉈による大雑把な解体を想定して、服を着込ませ、手袋を着けさせても問題ないという判断でしょう。遺体に服や手袋の繊維が付着すれば証拠にもなりますからね。

また、その時に着ていた服も遺体と一緒に捨てさせて、警察に発見させるつもりだったのでしょうから、志島さんがあらかじめ用意していたのかもしれませんね。

そして遺体をポリ袋に入れさせ、そのまま窓から落とさせる。こうすれば、落下地点に痕跡が残りますから、304号室か404号室の人が疑われる事になりますが、血痕は404号室にあるので志島さんは容疑者から外れます。

落下させた後は、安藤さんのバラバラ死体がある旅館裏の森のあちこちに雪を掘ってそこに遺棄するよう指示する。

この際、吹雪は収まっているものの、まだ暗いからドローンで誘導するとでも伝えれば、安藤さんの死体の周りに足跡をつけつつ、何度か旅館の間を往復させる事が出来る。

こうする事で、谷崎さんが前日にあらかじめ解体した安藤さんの遺体を、津川さんの遺体と一緒にまとめて遺棄した様に見せる事が出来るという訳です」


私は小此木教授達を見据える。


「で、でも、今の推理って結局はただの想像じゃないですか?大体ドローンやボウガンなんて何処にも......」


小此木教授が反論してきた。


「先程の犯行の流れを聞いていただけていたのでしたら分かるかと思うのですが、ドローンは今304号室にあります......と言いたい所ですが、バッテリーヒーターの様なものを使っているとすると、ある程度の時間は外で待機させる事も出来ますから、貴方がそのように聞いてきたという事は、もしかしたらロビーに集まる前に状況をある程度察して、志島さんにドローンを外に待機させるよう命じたのかもしれませんね」


小此木教授の瞳孔が縮小する。


「まあ、いずれにしてもまだ304号室の半径30m以内にあるのは間違いないでしょうね。

ただ、ボウガンの方はもう崖下に捨てたんじゃないですか?」


「崖っていうと、旅館の西側の?」


紬希さんが聞いてきた。


「ええ。旅館からあの崖までは、およそ25mですから、304、404号室に宿泊している人なら、ドローンを使って崖下へ証拠を隠す事が出来る訳です。しかも崖下は道路に近いですから、あとで回収しようと思えば、谷崎さんの誘導が終わった後にドローンも落としておいて、GPS信号を頼りに回収する事も出来ます」


「なるほどねー。って事は先ず警察が来た時の対策として、崖下に証拠になるものを全部落としておく。んで、表向きは行方不明者がいるから警察犬を配備されるだろうし、そうなると真っ先に裏の森にあるっていう死体の匂いに犬が気付くから、そのまま状況証拠や物的証拠が揃っている谷崎さんが捕まって終わりって感じ?」


紬希さんが再び代わりに説明してくれた。


「そうですね。谷崎さんが死体を遺棄する時にスノーシューを履いていき、志島さんから足跡は均しておく様に言われると思いますが、3Dスキャンで積もった雪の下にある微妙な痕跡が分かる上、警察犬が匂いを辿って全部分かってしまいますし、スノーシューに残った谷崎さんのDNAや、津川さんの遺体に付着したであろう服の繊維や谷崎さんの接触痕跡、そして道具を取りに作業部屋へ向かう為、谷崎さんが鞄を持ってエレベーターで降りて、その後 帰って来る所を映した防犯カメラの映像がありますので、旅館裏に遺棄された袋のそばに残っている直線状の跡が3Dスキャンで発見されたとしても、先ず谷崎さんが確実に逮捕されるという算段だったのでしょう」


「へっ、谷崎さんの映像って何それ?そんなものまであんの?」


紬希さんがちょっとビックリしている。


「ええ。昨日正午過ぎの4階の監視カメラの映像にしっかり映ってました。

志島さんに指示されて、作業部屋に鋸と鉈とポリ袋を取りに行かされたのでしょうね。旅館に持って来る荷物もある程度 指示されたんだと思います。違いますか谷崎さん?」


「ああ。俺が堤から聞いたのは、ちょっと面白い事を考えたから、正午過ぎの人のいなさそうな時間を見計らって、作業部屋で鉈と鋸とポリ袋を指定した鞄に入れて安藤の所へ持って行けって事だった。

人がいない時間なら深夜の方が良いんじゃないかって聞いたら、それだと、万が一 人に見つかった時に怪しまれるし言い訳が難しいけど、正午過ぎなら客のチェックアウトも終わって粗方人もいなくなってるだろうし、何より誰かに見つかっても、今から外出するみたいに振る舞っておけば問題ないだろうって言われて、終わったら元の場所に戻すって事だったから、それもそうかって深く考えもしないで納得してしまったんだ。

安藤はそうでもなかったみたいだけど、さっきも言った通り、俺は昔から...堤にはなんか逆らえなくて...」


谷崎さんが事情を説明する。


「それで今朝4時半位に、いきなり堤から連絡が来て、安藤と連絡がつかないんだが、見て来てくれないかって言われたから、隣に行ってみたんだけどチャイムを鳴らしても出なくて、試しにドアノブを回してみたら開いてたんで中に入ったんだ。

なんかやたら寒いなって思いながら探し回って、でも結局誰もいなかったんで、おかしいなって思って堤に電話したら、風呂に行ってる時間でもないし何かおかしい、とりあえず安藤の持ち物を調べてみろって言われて、リビングに置いてあったリュックを調べたら...血がついてて、俺、思わずパニックになったんだよ。でもなんか堤はすでにこうなる事を予測してたみたいで、やっぱりなって言ったんだ。

何がやっぱりなんだよって聞いたら、安藤は薬物中毒者で、それ絡みで事件を起こしたらしい。だからお前に鋸と鉈を持って安藤のところn行ってもらったって言われて、俺、訳分かんなくなっちゃって...」


そこで谷崎さんは少し言葉に詰まった。


「...頭が真っ白になってたら、取りあえず急いでそこを離れろ、お前も疑われる事になるから、自分の鞄だけは持って行けって言われて、何も考えず指示通りに動いた...それで自分の部屋に戻った時に、鞄を開けてみろ、何か変わった所はないかって言われたから中を見たら液体が入った注射器とクロロホルムの瓶が入ってた...」


谷崎さんが俯く。


「それで貴方はこう言われたのではありませんか?クロロホルムは多分安藤が殺人の時に使ったものだろうけど、その注射器の中身は安藤が使っていた薬物だ。刑事がそれを追っている。もしかしてお前の近くにそれらしいやつがいるんじゃないかって」


谷崎さんは一瞬驚きつつも


「ああ、そうだ。それで俺があの時の刑事がいるって言ったら、もしかしたら安藤はアイツに消されたのかもしれない...ほら、アイツ俺達の態度が許せないみたいだったろ?だから、まだ馬鹿な事をやってる安藤を見て怒り狂って、事件の捜査にかこつけて、ついでに俺達も消すつもりなのかもしれないぞって言われた」


と話してくれた。


「そして、やられる前にやれ、俺に考えがある。夕方過ぎに旅館に着くから俺も協力する、みたいな事を言われて、津川さん殺害の計画を聞かされたんですよね?」


谷崎さんは私の言葉に頷き


「その後、ちょっとしていきなり電話が切れたと思ったら、もう繋がらなくなったんだ...あれは午前5時過ぎだった。ただ、計画を実行に移す時に、お前の部屋の窓の前に、ドローンを飛ばすから、それがもう少しで刑事が部屋に来る合図だ。それまでは取りあえず部屋で待機して準備してろって言われて、ずっと合図を待って準備してたんだ」


と語った。


「お話しして下さってありがとうございました。そういう流れで状況証拠や物的証拠を積み上げられ、谷崎さんは一連のバラバラ殺人の犯人に仕立てあげられる所だった訳です。

ただし、堤さんの生首の凍結の問題と、遺体を解体した303号室の浴室の問題は残りますから、一時しのぎにしかならないでしょうけど」


「やっぱそうだよねー。じゃあもしかして最後は海外に高飛びとか?」


紬希さんがそう言った瞬間、志島さんが動揺するのが分かった。


「ええ、そうでしょうね。特殊メイクを使って演じた架空の存在なので、本当の自分に戻って堂々と海外に行けば良いのですから。

......あと、今回の事件を俯瞰すると、共犯関係は存在するものの、動機も犯人も遺体もバラバラなら、堤さんは見せる為、安藤さんは足跡を残さず仕掛けで運ぶ為、予定されていた津川さんは人の手で運ぶ為という感じで、多少重なる部分はありますが解体した目的さえもバラバラ...そんな意図があったんじゃないかと思ったのですが......違いますか、小此木教授?」


そう言って私は教授を真っ直ぐ見据える。


「くっ、くくく!はーっはっはっは!」


突如 教授が笑い始めた。


「いや失敬。あまりに見事に解明されてしまったものだから、ついね。如何にも私が小此木おこのぎ 一人かずとだ。こっちは鹿嶋かしま 瑛一えいいち。それにしてもいつ頃から私達に目を付けていたのかな?」


小此木教授は心底知りたがっている様に見えた。


「今朝の生首騒動があった時に、小此木教授のやや近くで、目を伏せていた鹿嶋さんを見た時ですかね。あれって目上の人に対して良くある行動ですけど、教授と鹿島さんは知り合いではないという話の上、見た目は鹿島さんの方が年上に見えない事もなかったので、私の気のせいか、気のせいでないとしたら何かあるんだろうなって」


「ふむ...それは失態だったな、鹿島君」


「申し訳ありませんでした、先生」


先程までとはガラッと変わった二人の雰囲気に皆困惑している感じだった。


「それにしても君の推理過程はまるで......いや、それとも君の姉君の方...?...ふふ、まあいい。

ところで、名探偵のお嬢さん、私達の動機についても聞かせてくれるかな?無論、想像で構わない」


教授からの挑戦状という事なのだろう。この人の一連の犯行からは何処かそういったものを感じていた。


「先ずは鹿島さんですが、ご両親が離婚された後も近くで暮らしていたという訳でも無い限り、実名も顔も公表されない少年犯罪のせいで、双子の貴方が不名誉な扱いを受けたとは考えられませんから、恐らく貴方の正義感や、完璧主義な性格が災いして、堤さんに制裁を加えようと思ったとかそんな感じじゃないですか?元々海外に行ってこちらに帰って来る予定も無かったから、ついでに汚点を消しておこうみたいな」


鹿島さんが顔を伏せる。


「そして教授、貴方と鹿島さんがどういった経緯でお知り合いになったのかは分からないのですが、鹿島さんの復讐心に似た何かを感じ取った貴方は、今回の犯罪計画を鹿島さんに持ちかけた。

それは知的好奇心という形をとった殺人衝動という面もありますが、貴方が仕掛けたゲームをクリア出来る人間が見たかったから。そして、そうやって自分の全てを暴きたててくれる存在に対する潜在的欲求があったから。つまり孤独だったのですね」


「......!くっ、くく、君は本当に素晴らしいな。......その答えに至れるとは、君も本来こちら側の人間なのではないかね?」


「ふふ、いいえ。隠すよりも暴く方が好きなんです私」


教授は凄く満足そうな表情をしている。


「さて、私と鹿島君が知り合った経緯を君が分からなかったのも無理はない。何故なら全くの偶然だったのだから。しかし、だからこそ私はこれこそが神の思し召しだと思ったものだよ。この世に神がいるのなら、ね」


○失礼ですねほんとにもぉ!!私を犯罪狂呼ばわりなんて!そんな事しませんよ!

私はミステリーと可愛いもの好きのただの女神なんです~!ふ~んだ!○


「その辺りの詳しい事情は警察の方に話していただくとして、今から貴方達を拘束することになりますが、よろしいでしょうか?」


偶然会ったのに、そのあと共犯関係になったり、鹿島さんは多分前まで特殊メイクの専門学校に通っていたと思われるが、そこを卒業して改めて大学に通う学生になったって訳でもないだろうに、小此木教授を先生と呼んでいる辺り、色々深い事情があって長くなりそうなんだよな。


「うむ、確かにこれ以上の身の上話は興醒めというものか......大変大きな収穫もあった事だし、これから警察と連絡が取れるまでの間、君達に拘束されるというのもやぶさかではないのだが、それでは幕引きとしては些かつまらない。そこで雪はほぼ止んで除雪作業が進んできているとはいえ、折角作り出した この半ば閉ざされた状況を十二分に活用しようと思うのだが、君はどう思うかね?名探偵のお嬢さん」


「あー、やっぱりそうなっちゃいますか...」


警察にまだ知らせていない状況で、この山奥では、自動販売機の品を業者が入れ替えに来るとか、新しいお客さんが到着でもしない限り、事件が発覚する恐れがない。従って様々な事後処理の手段が考えられる。


教授が目で合図を送った瞬間、素早い動きで鹿島さんがポケットに手を入れつつ重心を移動する。

あの向き的に、恐らく近くにいる鮫島さんを人質に取るか、見せしめに殺害するつもりなのだろう。


美月さん、使わせてもらいます。


私は羽織の下に隠しておいたショルダーホルスターに手を伸ばした......

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