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温泉旅行

全ての幸運を引き寄せる様に右手に念をこめ、私は福引きを回した


カラン、コロンコロン。


銅色の玉が出て来た...うっ、これってもしかして...?


「おめでとうございます!3等のスマートロックです!」


~~~~っっっっ!!


目当てのものが外れてめちゃめちゃ悔しいが、かといって3等という普通だったらそれなりに嬉しいラインを当ててしまって、何やら微妙な心持ちになったものの、それを必死で表には出さないようにしつつ


「わっ、わぁ、やったー!」


と、笑顔で言っておいた。


...はぁ、欲しかったなぁ。1等の最新ゲーム機......。


大体スマートロックってなによ?

私自転車乗らないし。


......でも、スマホで操作して輪が閉じたり開いたりするのはなんか面白いかも。まあ、これはこれで......言い訳ないわよ...はぁ。


心の中で私がそんな溜め息をついているとは露知らず、商店街のおじさんが「おめでとう~!」と言ってニコニコ笑っている。


お姉ちゃんは間違い無く全部分かった上でニコニコしている...もぅ。


「次はお姉ちゃん引いてよ」


「えっ、良いの?もう一回引いてみた方が良いんじゃ...」


「良いの良いの!多分さっきので今日の私の運も全部使い切っちゃったと思うし!」


「そ、そう?それじゃあ......」


そう言ってお姉ちゃんが福引きを回し始めた。


カラン、コロンコロン。


はっ?えっ、え?虹色......!?


チリンチリンチリン!


「おっ、大当たりぃ~~!!」


ベルを鳴らしながら、おじさんもテンションが上がってる。


「どっ、どうしよう華凛ちゃん!!」


「どうしようも何も、やったじゃんお姉ちゃん!」


でも普通1等といったら金のはず......という事は......。


「特等の温泉旅館ペア宿泊チケットです!!」


あ~~~っ、やっぱり!!


なんでよりによって、そっちなの!?


商店街を行き交う人達の注目を浴びながら、運が良いのか悪いのか良く分からない自分の運を恨めしく思った。


はぁ、温泉なんて私興味ないのに。

大体私は根っからの風呂嫌いで、家でもシャワーだけで済ませる事が多いのだ。


商店街を照らす夕日の角度から、ああ冬だなと感じつつ、隣で歩いているお姉ちゃんの顔をちらっと見る。


すっごくニコニコしてる。もうそろそろ冬休みだし、多分早速行くつもりなのだろう。

まあ、お姉ちゃんが楽しそうだからいいか。


今日の夕飯の食材が入った買い物袋を持ちかえながら、そんな事を思った。


帰宅部の私達は、放課後になると こうして一緒に商店街で夕飯等の買い物をするのが日課になっている。


荷物はお姉ちゃんが全部持つと言うのだが、それだと私がなんか嫌だ。

だからいつも二人で分担するようになった。


家に着いた後は、お姉ちゃんが作ってくれた美味しい夕食に思わず笑みを溢しながら、二人で旅行の計画を立てた。



旅行日当日――


目的地へは電車とバスを乗り継いで行く。

どうやら大分山奥にある秘湯の温泉宿らしい。

ネットで調べてもあまり情報が無く、ちょっと不安だ。


取りあえず、折角雪山に行くのだからという事で、旅館から離れた場所にあるけど、最初はスキーをしようという事になった。


実は生まれてからこの方、私達姉妹はスキーをした事がない。

基本的に身体を動かすのは苦手ではないけど、どちらかと言えば室内でゲームをしてる方が好きな私は少し気が重い。


対してお姉ちゃんは身体を動かすのが好きな方だし、何より今は法医学の本を読んでるから、物凄く楽しそうにニコニコしてる。


せめて私も三半規管がもっと強かったらなぁ。

少しずつ白に移り変わる車窓の景色を眺めながら、そんな事をぼんやり考えていた。



そうこうしている内にスキー場に着く。


うぅ寒い!

しっかり着込んで来たのに凄く寒い!


でもこれ以上着込むと動けないよね......。

まあでも、動いてたら身体も温かくなるはず。


お姉ちゃんがバス停で時間を確認する。


「旅館までは途中歩かなくちゃいけないし、スキーは2時間位かな」


にっ、2時間......。


ここまでの移動だけでも少し疲れてるのに、果たして体力が持つのだろうか?


予約していたスキー用具を借り、立ち方の練習から始める。

一応スキー初心者用の動画を見て、何回もイメトレしてきた。


...それにしてもスキー板って結構重いんだな......。

それにちょっと油断すると爪先が開きそうになって怖い。


私が悪戦苦闘している横でお姉ちゃんがメキメキ上達していく。


「うふふ、スキーって凄く楽しいね!」


お姉ちゃんの爽やかな笑顔がゴーグル越しに伝わる。


そりゃあ、そんだけ滑れれば楽しいよね!ふん!


負けじと練習に熱が入る。


...暫く練習して、初心者用のコースは滑れるようになった。

これもお姉ちゃんが付きっきりで教えてくれたお陰だ。


それにしてもスタートラインは同じだったはずなのに、こんなにも差がつくとは。教え方も上手だしお姉ちゃんはやっぱり凄い。


あと思ってた以上にスキーって楽しい!


「そろそろ旅館に行こうか?」


もう2時間も経ってたんだ。

まだ日は高い方だけど、バスの時間もあるし、ここから更に山奥にある旅館みたいだから、今位からあちらへ向かわないと歩いてる途中で真っ暗になり、遭難という事にもなりかねない。


何より ふと気付くと私はもうヘトヘトだった。夢中になり過ぎていて疲れを自覚してなかったらしい。


スキー用具を返却したあと、ちょうどバス停に到着していたバスに乗り込んだ。


ホッとした為か、急に睡魔に襲われ、気がついた時には、陽が若干傾きかけていた。


目的地でバスを降り、旅館の方へ向かうと、意外にもしっかり除雪されていたが、路面が凍っていて歩きづらい。


「気を付けてね、お姉ちゃ...」


ズルッ!


私が滑って転びそうになった所をお姉ちゃんが支え


「大丈夫!?...良かったぁ」


と、心の底からホッとした表情で言った。


「えっとね、こういう時はわざと滑らせる様に歩くと、なんとなく歩きやすいよ」


お姉ちゃんが実演して見せてくれた。


「でも心配してくれてありがとう、華凛ちゃん!」


優しく微笑みながらそう言った。


「私の方こそ...ありがと」


雰囲気がそうさせるのか、面と向かって言うにはちょっと照れてしまって、少し俯き加減で言ってしまった。


そんな私に気付いたのか、お姉ちゃんがニコニコする。


とっ、取りあえず早く旅館に向かわないと...!


途中でコツが掴めて来たとはいえ、歩いて20分以上かけ、漸く旅館に辿り着いた。


もう太陽は割と低い所にあり、さっきから雪が少しずつ降り始めていた。


こっちの方では大雪になるみたいだけど、一体どれ位降るのだろう?

まあ、最悪でも ここで年を越すような事はないと思うけど......


一応 日にちに余裕を持って来てはいるものの、ここに来て なんとなく不安になり始めた。



旅館はパッと見、地上5階くらいの建物で、横幅は55m前後といった所だろうか。


紺色の屋根瓦に浅黄色の壁という感じの佇まいで、落ち着いた雰囲気を醸し出しながらも、どこかモダンな雰囲気も感じさせる。看板には「雪華楼」と書かれていた。


もっと小じんまりした秘境の秘湯旅館というイメージがあったので、そのギャップに少し驚いていると、これぞ温泉の匂いという感じの硫化水素の匂いが微かに鼻腔を刺激した。


旅館に向かって左側の方に車庫の様な建物があった。

自家用車も当然あるだろうけど、ここに来るまでの道が割と綺麗に除雪されていたし、もしかしたら除雪車でもあるのかもしれない。


それにしても、駐車場らしき所には一台も車が停まってない。


......まさか客が私達だけって事はないよね?

なんとなく不安になる。


縦スリットが入った、外見は木製の自動ドアが開き、私達は風除室を通り過ぎて、もう一度同じ様な外見の自動ドアを通りロビーへ到着した。


中は1、2階が吹き抜けで、想像以上に開放的な空間になっていた。


ロビーに入って右側奥は大きなラウンジになっているようで、何台かソファが置いてある他、雑誌等も置いてあり、格子状の大きな窓ガラスの向こう、大体25mプールと同じ位先に、落下防止用の手すりがついた崖があって、ちらつく雪に夕陽の光が反射していた。


ロビーの左手には廊下と幾つものドアがあり、正面がフロント、その右隣がエレベーター、間を置いて更に右側に階段があった。


お姉ちゃんがカウンターに置いてあったベルを鳴らし、暗めの赤色で綿製の作務衣を着た活発そうな若い女性がフロントに現れる。


「お待たせ致しました!」


「あの、今日予約を入れていた月代と申します」


お姉ちゃんが答えると


「あっ、はい!お待ちしておりました!二泊三日のご予定ですよね」


「はい」


「こちらの宿泊者名簿にご記帳をお願いします」


それにしても人の気配が無いな...。


ラウンジの雰囲気は凄く良いし、雑誌とかも置いてあるんだから、何人か寛いでいてもおかしくなさそうなのに...。


それなりに大きい建物に見えるけど、やっぱりお客さん少ないのかな?それとも......


そんな事を考えている間に、お姉ちゃんが二人分の記帳を済ませ、受付をしてくれた女性がそのまま部屋まで案内してくれる流れになった。


「本日、お部屋まで月代様の案内を勤めさせていただきます蔵田くらた 美花みかと申します」


美花さんが深々とお辞儀し、私達もつられてお辞儀する。


美花さんが私達から受け取った荷物を台車に載せ、エレベーターに乗り込んだ。


ボタンを確認すると4階まであった。つまり1階部分が吹き抜けだから、実質5階立ての高さという事になる。


美花さんが4階のボタンを押した。

ミディアムの髪を結い上げた彼女のポニーテールがほんの少し揺れる。

背は私よりちょっと高い。


「お食事はお客様のお部屋か二階の大広間のどちらかお選びいただけますが、いかがされますか?」


「どうしようか華凛ちゃん?」


「えっと、取りあえず大広間でお願いします」


どうせだったら広い所で食べたいもんな、うん。


「畏まりました。夕食のお時間は午後6時から午後9時まで、朝食の時間は午前6時から午前9時までとなっております」


美花さんが丁寧に説明してくれる。あんまり私達と年が変わらなそうなのに、なんか凄いな。


4階に着き、目の前を横切る廊下を右折する。

エレベーターに向かって左隣は自動販売機や製氷機が置いてある小部屋、右隣は喫煙室で、その更に右隣は階段だった。

廊下の天井には防犯カメラもついている。


窓は、エレベーター等がある廊下中央付近に曇りガラスで縦長の固定窓が4枚、等間隔で並んでいるだけで、他は見当たらなかったが、明かりはしっかり点いているので、特に暗いとは思わなかった。


私達の部屋は402号室で、廊下を右折して少し進んだ先に扉があった。廊下の突き当たりにも扉が見える。


ざっと見渡すと左端から右端までの廊下の長さは、大体35m前後。

つまり旅館の大きさから考えて、端の部屋の幅は10mといった所だろう。

......という事はもしかして......。


なんとなく部屋の感じを想像しつつ、美花さんに案内され、私達は部屋の中へと入って行った。

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